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クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
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迷子



·····ん······


まぶしい······カーテン締め忘れたかな。

しかし、リアルな夢だったなあ。

でもホントにファンタジー系のゲームか小説みたいだった。

カッコいい男の人もいたりして、乙女ゲーの要素も入ってるなあ。

ホントにお腹すくし、体あちこち痛くなるし······


へ?

目を開けると······古い木の天井、同じように古い木の壁、木の床、そして、木の壁の隙間から指す朝日。

小さな台所、囲炉裏、私のいる奥の端にはたくさんの干し藁が山積みで置いてある。


夢じゃない。

昨夜はそこに適当に寝たんだった。

これは現実。

私は、私達は違う世界に飛ばされたんだ。


藁の中は本当に暖かい。もう少しまどろんでいたい気持ちを振り払い起き上がる。


髪や服についた藁くずを払い、手櫛で髪をとく。そして、もう一度まわりを見る。


この小屋の中にはすぐに食べられそうなものは無い。

昨日、二人でさんざん探したけど無かった。調味料のような小さな瓶や缶位しかなかった。

後は天井から、束ねた草をいくつも吊してある位。この小屋の持ち主は農業やってる人なのかな?

そういえば夢の中で、あの子が何かが来るっていってたな。

何だっけ?忘れちゃった。


立ち上がり伸びをしてみる。ん、大丈夫。

幸い身体は痛みとか残って無いみたい。

杉村さんは、まだ寝てるみたいだ。起こすのもかわいそうだし、あの木の実取ってきて、朝ご飯にしよう。


そーっとドアを開け外に出る。高い木々にかかる朝靄がゆっくりと空に立ち上って行っていく。

真上には青空、今日も晴れてるようだ。

顔を洗い口をゆすぐ。


「ん、あれは?」


昨日は気が付かなかったけど、ずっと川下に橋の様なものが見える。

あれを渡って対岸に行けば、村とか民家があるかもしれない。


杉下さんに報告しなきゃ!そのまま小屋に戻りドアを開ける。


「杉下さん、橋!橋があります!あれ渡ったらきっと人の居るところにいけますよ!」

「ん·····ああ」

「杉下さん?」


なんだか様子が······顔が赤い。

近づいて杉下さんの額に手を当てる。


「熱い!熱あるじゃないですか!」


昨日使った小さな桶に水を汲みハンカチを濡らし、杉村さんの額に乗せる。


どうしよう。昨日の背中の傷にばい菌入っちゃったのかな?それとも木の実が?

でも、私はなんともないから、やっぱり傷のせいだろう。


「何?橋······あったの?」

「はい。この川下に」

「よし、じゃ行ってみよう。」

「ダメですよ!そんな体で動いたらもっと熱があがっちゃいますよ」

「ここで寝てても、人が見つけてくれる前に干からびちゃうかもしれないだろ。」


と言うことで、小屋を出た私達は川下の橋らしきものに向かって歩き始めた。


多分、この小屋の持ち主もあの橋を渡って畑の世話をしに来ているのだろう。

朝ごはんにと私が取ってきた木の実を杉下さんは食べられなかった。

熱が高いから食べる気にもなれないのだろう。私には「食べろ」と何度も言うので1個だけ食べた。



草ぼうぼうで、道と言えるような道ではなく、人が長いこと通っていないのではないか?と不安になってきた。

獣道?まさか道間違った?


「大丈夫ですか?」

「ああ······こう見えても体力は······意外とある。学生時代は結構スポーツマンだったんだぜ」


笑顔を作って元気そうに振る舞ってるけど、やはり辛そうだ。

それに、歩いてみると意外に遠い。


「少し休みましょう」

「あ、ああ······そうしようか」


草の上に座り込む。何にも言わないけど、かなりキツいのだろう。

肩で息をしている。


「いつまでも座っててもしようがない。行こうか······あ」


立ち上がろうとした杉下さんがそのまま崩れるように倒れた。


「杉下さん!」


慌てて駆け寄り抱き起こそうとして触れた体は、さっきより熱い。

やっぱり熱が上がってる。


「しっかりして下さい!」


肩を抱き座らせた。

背中がかなり熱をもっている。

背中の傷が悪化して発熱してしまったんだ。

泣きそうになったけど我慢した。

辛いのは杉下さんの方なんだから私なんかが泣いてる場合じゃない。


「私、誰か人を探して呼んできます。」


「止めろ······一人でいっちゃダメだ。危ない······」

「今の杉下さんよりは大丈夫ですよ」


杉下さん、ハァハァと短く息をしてかなりつらそうだ。

近くにある木の下まで何とか連れていき木にもたれるように座らせた。


あまり遅くならないうちに、一度様子を見に帰ってこよう。


「杉下さん、もし動けるようだったら小屋に帰っていて下さいね」


私は一人橋に向かった。


「ダメだ妃奈ちゃ······一人で······いっちゃ。いく······な·····」


杉下さんのつぶやくような小さな声は私の耳には届いていなかった。




······。


遠い······。

あの橋いったいどこにあるのよ!


それでもやがて両側が岩の壁のような道になり、しばらく歩いていくと岩がだんだん低くなってきた。

そして、そこに橋はあった。


「やっとあった~!」


と安心したものの······

その橋は吊り橋だった。

しかも、ツルで編まれた橋はずいぶん古いらしくあちこち朽ちて切れそうだ。

お約束だ······いかにも危ない吊り橋。ベタすぎる。

しかし、ビビってる場合じゃない。

なけなしの勇気を奮い起こし足を踏み出す。


ミシミシッ······


ギシッ······


吊り橋は不気味な音を立てている。

足元の板もボロボロで、腐ったのかあちこち割れていてまともには進めない。

こんなとこ、今の杉下さんじゃ通れない。私が早く助けを呼んで来なきゃ。


一歩一歩確かめながら足を進めていって、やっと真ん中あたり。

ふうっと息をつく。


「下は見ちゃいけない下は見ちゃいけない······」


自分に言い聞かせながら再び足を次の板に乗せる。


パリン!


軽い音がした瞬間、私はバランスを崩した。


「きゃ~~~っ!」


私が足を乗せた板が割れて、その間に体が!

落ちるかと思ったけど、なんとか板を繋いでいるツルに捕まり体がはまった状態でストップ。


最悪!

下に人がいなくて幸いだ。

スカートなんか履いてる自分を呪う(制服だからしようがないけど)

いや、それより人がいて助けてくれた方がいい!


上半身は橋の上。下半身はもちろん橋の下。なんとか上に上がろうと、手の届くあちこちのツルにつかまってみる。

運動オンチの自分が一番問題だった。


あれ、なんだろ?空の向こうから何かが飛んでくる。

距離は離れてるみたいたけど、なんか大きいものみたい。


ひょっとしてドラゴン?

昨日、私達とぶつかったヤツが仲間を連れて食べにきたとか?

そう言えば、この森には異世界につきもののモンスターが一匹も現れなかった。

それは、ドラゴンのテリトリーだから、他の弱っちいモンスターがいなかったってだけのことだったりするとか?

杉下さんが危ない!助けに帰らなきゃ!


必死であちこち掴まって上にあがろうとしてみる。

割と丈夫そうな大きめのツルの一つを握りしめ、思い切り引っ張る。

体が浮きかけた······と思ったら······


プチン!


可愛い音を立ててそれは、切れた。


「なにそれ?ひどいっ!」


私は真っ逆様に落ちていった。


バシャーン!


盛大な水しぶきをあげて川の中へ。


杉下さん!杉下さん!逃げて!


私が水に浮き沈みしている遙か空の向こうを、ドラゴンが三頭、飛んでいった。


「この向こうか?」

「ああ、こいつがそう言ってる」

「ドラゴンの言ってることがわかるなんて、レト、お前ホントに不思議な奴だな」

「俺も自分でも不思議だよ。それが俺の特殊能力ってやつらしい」


2頭の大きなドラゴンが並んで飛んでいる。

先頭にはそれらより、やや小さめのドラゴンが1頭。

後ろの2頭のドラゴン、その背中には若い男がそれぞれ乗っている。


「お偉方の中には俺の能力を疑ってるやつもいるみたいだけどな」

「いや、俺もこっちの方向で昨日、異常な波動を感じた」

「ああ、サライはレーダー能力があるんだったな。チビは人間が降ってきたって言ってたぞ」

「人間が?」

「なんだサライ、疑ってるのか?」

「いや、レトの能力は本物だと思ってるよ。······ということは、また異世界から何者かが来たということなのかもしれない」

「そういう異邦人は院が調べるんじゃないのか?」

「隊長が見てこいって言うんだから······ま、いってみよう」「了解」




――そこから、随分下流に彼女は流れ着いた。



やっと川岸にたどり着いた。

どのくらい流されたんだろう。

あの吊り橋はもうみ見えるところにはない。

よろよろと河原にあがりそのまま倒れ込む。

疲れた······

杉下さん、ごめんなさい。

私もう動けない。

私はそのまま意識を手放した。


ウォンウォン!

クン?

クーンクーン


「どうした?何かあるのか?」


一匹とひとりの男が河原にやってきた。


「おや······」

「ワォン」


「これは、妙なものを見つけてしまったねぇ」


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