旅を満喫?
どうも浅田 妃奈です。
この世界ではヒナで通っていますが、浅田 妃奈(あさだ ひな)日本人です。
この国クレッシェンドの西の地方、ニニカ付近に住んでいるのですが、今回は保護者?養い親?のユシャさんのお仕事に付いて、南の地方、ティファーンにやってきました。
···旅番組の番宣みたいですが、この地方の景色や美味しい食べ物などを思いっきり楽しみたいと思います。
お楽しみに。
ということでティファーンのレイハス市に着きました。
レイハス駅はは、タピ駅よりもずっと大きい。
タピが日本の地方都市だとしたら、レイハスは多分、大阪や東京並みなのかな?
そして、ティファーンは南イコール暖かい又は暑い、という安直なイメージを持つ私の期待を裏切らなかった。
列車が駅に着く前にユシャさんに持ってきた薄手の服に着替えるよう言われて「早くないか?」とか思ってたけど、大正解。確かに暑い。
列車の中は魔法で温度管理されてたようで快適だったので失念してたわ。
今更だけど、凄いな魔法の世界って。意外に気遣いされてるんだね。
そして、思い出すのは元の世界の四季のこと。
それぞれに趣はあったけど、暑さ寒さは確かにキツかった。
今ではそれも懐かしい。うう···
駅のホームに降りると暑いのは暑いんだけど、ここの暑さがそこまで不快じゃないのは、湿度が低いからの様だ。これも魔法による気候調整のおかげ?
魔法ってズルくないか!と、思ってしまうのは私が捻くれているからだろうか···
今、私が着ているのは、この旅行の為にヤクトさんが選んでくれた服で白のパフスリーブのシンプルなオーバーブラウス。裾に少し刺繍が入っている。下は水色の膝丈のパンツ。
ワンピースや派手なチューブトップだのホットパンツみたいな物を勧められたけど、普通の地味目の服をお願いした。私はスタイル自信ないし、シャイなんだからね!
それとヤクトさんに「必要になるかも知れないし、ユシャさんのバッグに入れときゃいいから」と他にも何枚かの服や水着、ドレスを押し付けられたけど、そんなに着る機会なんてあるのだろうか?
ユシャさんは薄いグレーの魔導師ローブだ。特殊な糸で織られ、魔法の何とかをどうとか(説明されたがよくわからない)で体感温度が適度に調節されるため快適らしい。ロープの下はいつものシャツみたいな物とズボン。
私も欲しいな、そういう便利なローブ。
乗合獣車のチケットを買いに行ったユシャさんを待合室で待つ間、周りを見ていると、色んな種族の人がいて面白い。ニニカのお祭りの時以上に沢山の人達が行き来している。
エルフやドワーフ、人族、獣人族の人はライオンみたいだったり鹿みたいに角があったり、ウサギ耳の男の人とか顔がそのまま獣の人もいる。その中には見たことの無い種族の人がいた。
色白、黒い髪、口の周りに同じ色のはヒゲ.
この世界では黒髪は珍しいとか少ないとか言ってなかったっけ?しかも瞳は赤っぽくみえる。メガネをかけているので、はっきりとはわからないけれど、初めて見るな。
耳はエルフみたいに少し尖ってるけどエルフよりきつめの顔立ち。エルフと同じく美形だけどエルフの方がもっと儚げなイメージなんだよね。
ベージュのトレンチコートのような物を着てる。旅行者かな?
あ、目が合っちゃった。
こっちに来る!いや、用はないんです。
ごめんなさい!ジロジロ見ちゃって。誘ってたわけじゃないです!ナンパされたいわけじゃないです!
「やぁ彼女、綺麗なオーラしてるね」
「ど、どうも、ありがとうございます」
ひえ~~~っ!声かけられちゃった。
「そんなに怖がらなくてもいいよ。僕は今日、下の大地から着いたばかりなんだ」
やっぱり観光客なのか?
「君は地元の人?」
「地元というかなんていうか···」
異世界の日本と言う国から来ました、なんて言えませんから!
「わ、私も西のニーロカと言う所から今朝着いたばかりなんです。すいません。ジロジロ見ちゃって···」
「あ~商人以外の魔族はここじゃ珍しいからね。気にしなくて良いよ。それにしても、君みたいな可愛くて複雑なオーラ持ちは初めてだよ」
魔族?
「え~と、やっぱり魔族は初めて見た?」
「はい···」
「実は、これから首都ヴォイスに行く所で···」
「ヒナ、行くぞ。スタラーダ行きは8番乗り場だ。」
チケットを買いに行っていたユシャさんが私を呼びに来た。
「残念。お連れさんがいたんだ。私はハル。ヒナさん、またどこかで会えるといいね」
「なんで私の名前····」
「彼がそう呼んでただろ。じゃ」
ハルと名乗る魔族だと言う彼はスーッと駅の中に向けて歩いて行った。
「なんだ?ナンパか?物好きだな」
「さあ···って物好きって!相変わらず失礼ですねユシャさん」
「あれは魔族だな···」
「後ろから見ただけでわかるんですか?!」
「オーラが独特だからな。黒髪はクレッシェンドでは珍しいし耳が尖っているようだし、エルフとは少し体つきも違う」
「へーえ···」
伊達に長く生きてるわけじゃないんだ···なんて、失礼なこと考えてる私もユシャさんに毒されたかな。
でもハルさん、私のオーラが見えてるってことは魔力も強いんだ。うん?···魔族って言うくらいだから当たり前なのか?
「出発時刻が近い。行くぞ、ヒナ」
「あ、待って下さい~」
さっさと乗り場に向かうユシャさんに慌ててついて行く。
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さっきのは商人じゃなかったな。
魔族にも魔術式道具の商人以外にも、観光にも来る奴も居るんだな。
しかし、ヒナに声をかけるとは?ヒナのオーラに興味を引かれたのか?
ま、気にすることはないか…
(by ユシャ)
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ユシャさんと二人、駅を出て乗合獣車の停留所に向かう。
レイハスの駅前付近もニーロカのニニカやタピとは随分違う。駅前には露店がたくさんあって、土産物の他にもジュースや果物、串焼き肉なども売っていた。
乗合獣車の停留所も停留所いうよりバスターミナルと言った方が相応しい広さだし、かなりの規模があるみたいだ。すいません、この国のこと舐めてたかも。
貨物専用のターミナルもあり、沢山荷物を載せた大きな5頭だての獣車も止まっている。
その向こうの大きな獣車は旅芸人達や団体旅行の貸切とかだ。
中には寝泊まりできてキャンピングカーみたいな物もあるらしい。某ゲームに出てきそうだ。
ここから乗る獣車には風通しを良くするためか窓にガラスはない。雨とか心配しなくて良いし暑いからだろうね。しかし、この地方の天候を維持するのってかなりのエネルギーというか魔法が必要じゃないかと素人の(?)私でも思うんだけどどうなってるんだろう。また時間のある時ユシャさんにきいてみよう。
ニニカの獣車は約20人乗りで窓が閉められるし2頭立てだった。私達の乗るスタラーダ行きは途中で乗り換えるそうだ。今から乗る獣車の横には20人以上と記載があった。以上って何?
出発時にその理由がわかった。
駆け込みで何人も乗って来て、最終的には屋根の上にまで乗って、最初は17~8人だったのが43人に!
御者席は客車の前方、外側にあり屋根もあり、その上にも乗っている人が居る。
客車は普通の馬車に電車がくっついているように見える。重いんだろうな。
これを引くのはがっちりとした馬の二倍はありそうなドラゴンというよりカバとかゾウに似てる生き物。
四足歩行で足は思ったより細い。ニニカで見た子達とは種類が違うみたいだ。
座席は真ん中に通路があり右左に2人用と3人用があり、それが5列。最後列は6人用らしい。
あれ?それなら31人だよね。御者席に2人、それでも33人。屋根の上も含めて40人ですか。
あきらかに定員オーバーしてると思うんだけど?
屋根の上には7人乗ってるけど屋根ぬけたりしないのかな?
どこかの国の映像でこんな風になってる乗り物をテレビで見たなあ。ここでは日常茶飯事なんだろうな。
乗り場には他にも沢山いたし、結構お客さんが多いんだ。
この国の人達って割と裕福?とか思ってユシャさんに聞いたら···
「若いのは殆ど冒険者だ。ティファーンには迷宮が沢山あるんだ。目的地でパーティーを組んだりすることも多いから一人か二人で旅する者も多い。格闘技や剣も秀でている者は歩いて旅することもある」
『迷宮』に『冒険者』!
その単語にめちゃめちゃ反応してしまう。これぞファンタジー、これぞ異世界!
「なんだ?ヒナ、お前異様に目がキラキラしてるぞ···」
「え?そ、そうですか。···そうかも」
そう言われてよく見れば、ローブ姿の人や剣を持った人もいる。街中での剣装備はOKなのか。日本なら銃刀法違反で即、逮捕だ。屋根の上の人達も冒険者風だ。他は商人風の人やいかにも観光客ぽい人とか…
商人風というのは白か薄い色の上下に濃い色のベストか上着。首から文字の彫ったメダルを下げている。全ての商人がそうではないらしいが、商人ギルドなるものがあり所属の証明書みたいなもので関係各所で優遇してもらえるというメリットもあるらしい。
ニニカで商人をしているヤクトさんに教えてもらった豆知識だ。
「お嬢さんティファーンは初めてかい?」
余りキョロキョロしていたせいか声をかけられた。
私は窓側にいて隣にユシャさんが座っている。私に声をかけてきたのは、通路を隔てた直ぐ隣の座席に座っている見た目30後半の商人風の濃い茶色の髪の男の人だ。ナンパ?
「ああ、突然失礼。私はヴォイスの商人バドと言います。貴女くらいの年の娘がいましてね。娘を連れてきたら貴女のように目をキラキラさせて色々な物に興味を示すのかと思いましてね」
やっぱり商人さんか。私、おのぼりさん丸出し(汗)
「こんにちは。ニニカから来ましたヒナといいます。バドさんは商人さんなんですね。どんな商品を扱っているんですか?」
「日用品から食品、美術品、武器防具まで色々です。珍しい魔道具も扱っていますよ」
「へぇ~、沢山のものを扱っているんですね」
話し始めた私にユシャさんがちょっと呆れたような顔をしている。うん、知らない人と余り親しげに話すのは心配だよね。でも、良い人みたいだよ?
ユシャさんの両隣で話し出したので迷惑かも。席変わった方がいいかな···と思ったけど、獣車は既に動き出していた。
速さは自転車より少し遅いかな。道が広いので獣車が楽にすれ違える。
道路の端は歩行者がのんびり歩いている。乗り合わせた人同士で楽しく会話できるスピードかも。
「おや?もしかして、お連れ様は超級魔導師のユシャ様ではありませんか?」
えっ?バドさん、ユシャさんのこと知ってるの!
「確かに私はユシャですが、何故私を?貴方とは初対面だと思いますが?」
ユシャさんが怪訝そうに尋ねる。
「あ、いや随分前にとある雑誌で···」
え?この世界にも週刊誌みたいな物があるの?ユシャさん雑誌に載るほどの有名人だったんですか。ニニカの本屋にあったかなぁ?
「あぁ···」
「すみません···」
「いえ···」
な、何?妙に気まずい雰囲気。バドさんが謝るって?
「失礼しました。お連れ様がいらっしゃるのに申し訳ありません。声を掛けるべきではありませんでしたね。つい、高名な魔導師様にお会いして興奮してしまいました」
バドさんが小さな声で更に謝罪する。
「いえ、お気になさらずに。昔のことですし」
???···まさか···ルセラさんとのこと?!雑誌にまで載ったの?私の世界の週刊誌みたいなものなのか?ってか、二人の恋愛ってそこまで問題になることだったの?!
は、話を変えてこの重い空気をなんとかせねば!
「バ、バドさんは今回は観光じゃなくてお仕事なんですか?」
「あ、ええ。仕事です。こちらの地方の香辛料を仕入れにきました。新しく契約する業者の所に行くんですよ。新しく支店も作ったばかりなので、忙しくて。次回はヴォイスの妻や娘も連れてきたいですね」
「それは素敵ですね。奥様も娘さんもきっと大喜びしますよ」
バドさん愛妻家なんだ。ほら、ちゃんとこんな人もいるんだ。
私達が乗り換えする町でバドさんも降りるとのことで、着くまでの間色々とお話をした。途中トイレ休憩の停車があったので、そこでユシャさんと席を替わり、バドさんと近くの席の観光客の人や、バドさんと同じ商人だという人達とも楽しくお話した。 これぞ旅の醍醐味。
私が魔法学校に行っていると言うと、「もう習ったかもしれないが」といいつつも魔法についても色々教えてくれた。
一般の人は使える魔法はバラバラで初級から中級。職人だと仕事に必要なものだけが飛び抜けてレベルが高かったりするらしい。商人に必要な魔法は鑑定とか駆け引き···ってそれ、魔法じゃ無くない?
なんでも初級魔法の組み合わせや、無属性の変わった魔法もいろいろ種類があるのだそうだ。
お昼休憩やトイレ休憩を取りながら、レイハスから約8時間、乗り換える町の停留所についた。バドさんとはここでお別れ。ここに支店があるということだ。私達は今夜はこの町の宿で泊まる。
獣車を降りているとバドさんのお迎えが来たようだ。支店か取引業者の人かな?凄い美人でスタイルがいい。ボンキュッボン!て感じだ。美人秘書か?
「あなた!」
え?
「やあ、セネリア。元気だったかい?」
「はい。あなた、会いたかったわ。もっと早く来て下さればいいのに」
抱き合ってキスを交わす。挨拶だよね、挨拶。
「ああ、ご紹介します。5番目の妻でセネリアです。セネリア、高名な超級魔導師ユシャ様とお連れのヒナさんだ」
「初めまして。バド・カダルツの5番目の妻セネリアです。夫共々宜しくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。ユシャです」
「あ、どうも…ヒナです」
はい?5番目の…妻?
ええ~~~~~~っ?!