表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
32/114

お出かけします?


今回のエルからの仕事は南地方のある町まで行かなければならない。


エルに「仕事の依頼は冒険者ギルドを通せ」と言っているのにいつも直接、念話で依頼してくる。


「直接依頼する方が面倒が無くていい」というのが奴の言い分だ。

あいつのキャラは、肩書きとか身分及び容姿では説明しきれない。

オルガは俺を残念なイケメンと言うが、エルこそが残念なイケメンという奴だ、と俺は思っている。

元は貴族の血を引き実家は首都でも有名な富豪バルシュタイン家。そして、魔法大学主席卒業、この大陸の

警備隊アドゥーラでもエリートといわれるチームの隊長で、しかもイケメン。

なのに、あいつのあれは···


まぁ、エルのことは置いといて。

俺は、若いうちから冒険者登録はしてある。

ニコラス(親父)の都合でだが、まぁ、役に立つこともあったしよしとしよう。


だが、この大陸の西地方のニーロカは平和だ。

滅多にモンスターは出ないし、宝探しや屋敷の警備とかの依頼を出すほどの大金持ちもさほど多くない。


畑にたまに現れるモンスターや野菜泥棒も、平常時は緑の魔法使いと呼ばれる公務員だけで事足りている。


収穫期には、各地から臨時の護衛や警備を雇うが特に大きい事件は起こることは無い。


前回の祭りの時の大量のモンスター騒ぎは別として、ニーロカは冒険者にとっては退屈で仕事がほとんど無い地域なのだ。


エルも冒険者ギルドにもっと仕事を回してくれれば、もう少し活性化すると思うが、「ユシャでないと無理だから」と聞く耳持たない。

確かに、ニーロカ以外に出向いたり、かなり危険が伴ったり、一般人に知られたくない内容の仕事も多々あった。

が、そんなものばかりではない。

せめてそういうのを少しでも回してくれればいいのだが。

とはいうものの、普段の俺は師匠の残した畑で、薬草やラカという高級果実を育てて売ったりして、細々と生計をたてている。

だからエルからの依頼の分があれば、かなりの収入アップで助かるのは事実なので断ったりはしない。

背に腹は変えられないのだ。


今回エルから依頼を受けた仕事は2つ。

ニーロカではなく南の地方のスタラーダのファイアドラゴンの繁殖地の調査とその近くのいくつかの未探索の洞窟(迷宮?)の調査。

同時進行だが時間がかかる可能性がある。

ヒナはオルガに預けるか。



***********



「アドゥーラの警備隊からの仕事で南のドラゴンの繁殖地に行くことになった。しばらく家を空けることになる」


ユシャさんがそう言ったその時、私は修行がてら魔法でホウキを操って掃除をしていた。

冬季休みも中ほど、自由登校も一区切りして、ちょっと気がゆるんでいたので、ユシャさんの言った「ドラゴンの繁殖地」は素晴らしく刺激的な単語だった。


「ドラゴンの繁殖地!わぁ、どこですか?今なら学校も休みだし、いいタイミングですね。楽しみだあ」

「お前は留守番だ」


え、何ですと?留守番。


「ええ~~~~っ!やだ。私もいきたい!」

「観光に行くんじゃないんだぞ。仕事だ仕事。危険だし、行っても遊ぶ時間なんてないぞ(俺が)!オルガの所にいるか、アルクと留守番するかの二択だ」


ドラゴン見たいしユシャさんとお出かけできるなんて、滅多に無いチャンス。

これを逃してたまりますか。


「連れて行ってくれなきゃ街の人に私はユシャさんの愛人だってふれ回りますよ」

「何、バカなこと言ってるんだ」


「キスしたくせに」

「あれは···」

「あれは?何ですか?」

「とにかくダメだ。」


少しだけど魔法使えるようになったから、足手まといにはならない····とは言えないけど、それでも一緒にいきたい。

しばらく家を空けるってどのくらいの期間かも分からないんでしょう。

ずっと、ただ帰りを待ってるだけなんて耐えられない。


よし、お目々ウルウル攻撃だ!下から上目遣いで見上げる。

私の背だと背の高いユシャさんの顔を見ようとすると、自然とそうなるんだけどね。


「いい子で大人しくしてますから····お願いします」

「ダメだ」


私から目を逸らし、お出かけ袋に小さな瓶やら薬草の袋等、色々なものを放り込んでいる。

無視ですか!

よしっ!これでどうだ!日本人のお詫びお願いには外せない必殺奥義『土下座』!


「お願いします!」

「わっ!お前何やってるんだ?!」


額を床にこすりつける勢いで土下座する私にユシャさんはドン引きだ。!


「お願いします!ちゃんと言うこと聞きます。なんでもします。費用も後で払います。」

「·····」

「·····」


「はぁ···仕方ない奴だな····」

「やった~!」


バンザイ!勝った~♪


「ちゃんと言うこときいて大人しくしてると約束できるか?」

「はい!もちろんです。」


うーれしいな嬉しいな~旅行だ~ユシャさんと旅行だ~

どんな所なんだろう。

ドラゴンがいっぱいいるんだ。楽しみ楽しみ~


「俺も甘いな。あんなの、キスのうちに入らないんだけどな」

「え?何か言いましたか?」

「いーえ。なーんにも。さて準備準備。明日出発するぞ」

「明日?!急ですね」

「遠いからな。転移だとお前は寝込むの間違いないから大陸列車でいく。」


大陸列車?新幹線みたいな乗り物なのかな。

そこって、そんなに遠いところなんだ。


ユシャさんの書棚にあった地図を見せてもらった。

え~っと、大陸の南側?方角の設定はこちらの世界も同じで助かる。

浮遊大陸クレッシェンドの地図の上を北として、左にニーロカ下に南のティファーン。

目的地であるスタラーダは地図で真下のティファーンでも東に位置しておりトウキク地方に近い場所だ。

ほとんど真逆の所にある。確かに遠い····


まずはニニカからの乗合獣車に乗り、大陸列車の駅のある地方府所在地タピ市まで行く。

タピから大陸列車でテイファーンの地方府所在地レイハス市まで移動。

さらにさらに乗合獣車を乗り継ぎ目的地スタラーダの町までいくのだ。

転移魔法が使えなかったり魔力が少ない人もいるとか、理由は色々だけど交通機関も以外に充実してるみたいだ。

ただ、真ん中にある首都を横切れば色々節約できるのではと思うのだが道が通じていない。高い山があるのと首都の上を越えることはできないと言う決まりみたいなものがあるらしい。めんどくさっ!

でも転移魔法だったら、あっと言う間につくらしい。原理はよくわからない。


これって、スッゴイわがまま言っちゃった?

うん、間違いなくスゴイ以上のわがまま言っちゃってますね。

ユシャさんがひとりで転移魔法使って行けばあっという間。

私と二人で交通機関を使って行くと費用及び時間の無駄がハンパない。


タラ~~ッ(汗)ごめんなさい!

でも、今更行くのを諦める気はないです。


やっぱり気候が違うから着る服の準備必要だろうな。今回もヤクトさんにお願いするかな。

今からでもユシャさんに念話で注文してもらわないと。


ニーロカ地方は温暖で四季の変化が緩やかで夏の暑や冬の寒さも厳しくない。

しかし、北の地方はアラスカ並み(春夏は暖かいらしい)で南はハワイ並みらしい。

東はニーロカと似たような気候だが、やや気温が低めなのだだそうだ。一つの大陸で気候の違いがこれだけ大きいなんてどういう構造なんだ?


そういえば魔法で気候の調整してるっていってたな。やっぱ魔法の国だからか。

南はリゾート地だって言ってたっけ?人工の海はあるとか言ってたっけな。


「あの、ユシャさん、人工の海って泳げるんですか?」

「人工ビーチはあるし観光客も日光浴や海水浴してるし大丈夫だ。俺はそんな暇無いけど、泳ぐなら水着買ってやるぞ。だけど、お前の水着姿見ても仕方ないからなあ····」

「失礼な!これでもCカップなんだから!」

「それって大きい方なのか?」

「···ふ··普通···かな····?」

「ふ~~~ん」



うっ!疑惑のまなざし。ユシャさんの意地悪!

この世界でも男の人は大きい胸が好きなんだ。

ちくしょーっ!





俺も甘いな。

エルに念話したら、「じゃあ、後でケントも連れて行く」だそうだ。

しかもヒナにはサプライズだと。

ケントはヒナと一緒にこちらに転移してきた異世界人だ。

今はエルの所で保護している。


エルは今の仕事を終えてから一旦、首都にある自分の部隊に帰ってケントを連れてくることになるから、時間もかかるだろう。

ヒナと列車で行っても充分間に合うはずだ。


懐かしいな。親父とは最初の頃、俺が転移魔法が上達するまでは列車移動だった。


ヤクトにヒナの服と水着を選んで欲しいと連絡したら、二つ返事ですぐ持っていくと大喜びだった。

ヒナのどこがそんなに気に入ったのやら···

一応俺の分も忘れるなよ。

ヤクトの転移魔法も超一級だ。親の後を継いで商人をしているがあれでも元は超一流のアドゥーラの諜報員だ。今は商売の合間に小銭稼ぎに裏の情報屋なんてやっている。


しかし、ヒナを狙っているかもしれないサルタイラの輩も気になるし、本当はヒナを連れ回らない方がいいんだが、もう連れて行くって言っちまったし仕方ないか。

······やっぱり俺はヒナを手元に置きたいのだろうか。





**********





翌日の朝。


アルクは拗ねていた。

俺がヒナだけ連れて仕事に、しかも遠方に行く、そして少し長くなるかもしれないということで機嫌が悪い。

ヒナは学校も後少しで始まるし長引かせるつもりは無いが、行ってみないとなんとも言えない。

あまり時間がかかるようならエルに頼んでニーロカに連れて帰ってもらうつもりだったが、ケントという異世界人も来るというし、ヒナとそのケント、二人の今後も相談する必要があるだろう。


『ずるい!僕もいきたい~。』

「アルクくんのお土産たくさん買ってくるから。ねっ、いい子でお留守番してて。帰ってきたらいっぱい遊ぶから、ねっ、ねっ 」


ヒナが必死で機嫌を取っている。

今回の行き先は南の観光地でもある。観光客が沢山来ているだろう。


聖獣、特にアルクは人がたくさんいるところが苦手だ。連れてはいけない。

ストレスが溜まり、鬱になったり凶暴になったり病気になったりする可能性がある。


エルのところにも聖獣がいるが、隊の人間がいつも近くに居るからか慣れているらしく平気だそうだ。

そのうちアルクも慣らすようにするか。


だが、ヒナ一がもしもの時、身を守れるのはジャオだけになるのは少し心許ない。

だったら念のため···


「ヒナ、前に土産にやった人形持ってるか?」

「あの(可愛くない)臭い人形ですか?」

「あれはモンスター除けだ。持っていろ。それと··」

「これは、バングル··ですか?」


友人の作った試作品だが、必ず一回だけだが指定した者を召喚できる。

召喚バングル、そのまんまの呼び名だ。


「これは一回だけアルクを呼び出せる魔道具だ。これを腕につけていろ。アルク、これならヒナが危ない時には助けに行けるぞ」


『うう~···それはいいけど、僕もヒナと遊びたい···』

「一回だけだと、呼び出しても用が終わったらすぐ帰っちゃうんですか?もっと何回も呼び出せる道具ってないんですか?」


何なんだ、こいつら。

人が仕事に行くというのに遊ぶことしか考えてやがらねえ!


「いい加減にしろ!!!ヒナ、そんなにアルクと遊びたいならアルクと留守番してろ!!」






ユシャさんに怒られた···


アルクくんと一緒にユシャさんに謝り倒してなんとか予定通り、私だけは連れて行って貰えることになった。つい嬉しくて調子に乗っちゃった。反省。


ミーク達にはメッセージを届けて貰うようにした。

ユシャさんは風の魔法で私のメッセージをミーク、マイラさん、オルガさんに届けてくれた。


私はまだ念話ができない。魔力はあっても技術がないから。

ミーク達は近距離なら出来るそうだ。

まるで見えないスマホ持ってるみたいだ。

羨ましい···


魔力のない人は念話は受け取ることはできるが、自分からは相手が意識を向けていないと届けることはできない。長距離だと相手が高い魔力をもってないと受け取ることも難しいらしい。

アンテナの性能も魔力次第ってことなんだね。


それにしても、初めてニニカの町の外に出ると思うとちょっとドキドキする。

しかも、ユシャさんと二人。

今夜は眠れないかも!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ