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クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
31/114

人と聖獣と精霊


話のつながりがわからない。

ユシャさんの初恋の話からアルクくんとジャオさんの話し合いがあって、結論が、『ジャオがヒナの精霊になる。』


····って、なんでやねん!


『ヒナには良い話だと思うよ。水系の魔法が強化されるし呼び出せば戦って貰えるしね』

「いや、それは嬉しいけど、なんでなの?」

『ヒナ、俺じゃ力不足か?』


ああ、この中身と外見のギャップが激しいイケメン精霊はもう!

確かに顔はめっちゃ好みですよ!ユシャさんの次くらい。

でも、私如き(いくら魔力あってルーの気配まとっていても)超初心者のヘタレ魔法使いに精霊の加護がつくなんて、もったいなくも恐れ多い。

しかも、ちゃんと管理できる気がしない。


『ヒナ、ぶっちゃけるとね、ジャオと僕のためでもあるんだ。』

「···どういうこと?ちゃんと私にもわかるように説明してくれる?」


つまり、アルクくんはユシャさんから私に「余計なことや必要ない情報は教えるな。」と言われているのだそうだ。

特に魔力が上がり、アルクくんや妖精、精霊が見えるようになってからは、更に用心するように言われていたと。

妖精や若い精霊はあまり深く物を考えないから何を喋るか判らない、と言うことらしい。

それなのに、この半島が大陸と繋がらず浮いていること、師匠の話、ユシャさんの初恋の話とヒナに知られてしまった。


アルクくんとしては、ユシャさんの初恋の話がでるまでは、『まぁいいか』と思っていた。

が、多分ユシャさんが一番聞かせたくない話はそれだとピンときた。

これは不味い。

何か対策を取らねば!と焦った。

そこでジャオと話した結果、ジャオを私の精霊にすればいい、ということになった。


「なんで、ジャオさんが私の精霊になれば助かるの?」

『ジャオがヒナと契約してヒナの精霊になれば、ユシャはヒナと戦う以外にジャオに手出しできなくなるんだ。ユシャがヒナをそんな理由でわざわざ戦って傷をつけるとは思えないからね。

僕も監督不行き届きで責任とって、ご飯抜きにはされるかも知れないけど、ジャオがされるお仕置きよりましかな。あれは厳しいから···』


確かに、ユシャさんはドSだから、どんなヤバいお仕置きをするかわからない。しかし精霊にそんなお仕置きとかするんだ。

そして、ユシャさん私に戦いを挑んだりは······多分しないだろう。私がユシャさんに勝てる日が来るとも思えないし考えたくも無いなぁ。


「あ、でも、畑の世話はどうするの?」

『タリンもいるし、もうすぐ精霊になれそうな子がいるから、その子に引き継ぐよ。』


因みに精霊にどんなお仕置きをするのだろう… 気になる。

周りにいる妖精達は、ただ クスクス笑っている。


「で、精霊と契約ってどうすればいいの?」

『え~っと、多分····』


二人に説明を受けながら契約をした。

しかし、ユシャさんの師匠って、男でも惚れるくらい美形なんだ。


······見てみたい·····




***********




「ただいま。」

「おかえり。今日は遅かったな。」

「すみません、遅くなってしまって···」

「ん?!」


ユシャさん、気がついた?バレた?


「アルク、これはどういうことだ?」

『え~と···』

「アルク!」

『わ~~~!ごめんなさいごめんなさい!』


アルクくんは自分の寝床に飛び込み藁の下に潜り込んだ。


「まったく、聖獣も精霊も、どうしょうもないな。何をやってるんだか。」

「ユ、ユシャさん?あの···(み、見ただけでわかったの?)」


「まずは詳しく聞いてからだ。ジャオ出てこい。」

『ダメ!俺はヒナと契約したから、ヒナに呼ばれなきゃ出て行かない。』


ジャオさんの声だけがした。


「ふ~ん」


そう言うとユシャさんは何か呪文か何か小さな声で言った。

聞き取れなかった····


「きゃっ!」

『え~~~っ?!うそ~~!』


ジャオさんが叫びながら床にドスンとが転がり出てきた。


「半人前がそんな中途半端でいい加減な契約をしても効果はない。『拘束』」


突然、細い紐が出てきてジャオさんは人型のまま、その紐でぐるぐる巻きに縛られて床に転がっている。

多分、これは魔法の紐なのだろう。


「ほう···人型をとれるようになったのか。」

「ユ、ユシャさん酷いことしないで!」

「で、ヒナ。何があった?」

「え?」

「お前も同罪かな?」


私は背筋が寒くなった。

私達は眠れる獅子の尻尾を踏んだのかもしれない·····


「アルク、出て来い。」


アルクくんも仕方なくもぞもぞと藁の下から出てきた。アルクくんは今、小型犬サイズだ。

聖獣であるアルクくんは身体を大きくしたり小さくしたりできる。

お散歩の時は大型犬サイズになっている。

だいたいセントバーナードくらい。


「この姿にのお前にお仕置きしたら、まるで俺が虐めてるみたいじゃないか。人型をとれ。」

「はい···」

「えっ!アルクくん人型になれるの?!」


し、知らなかった···


白いフサフサの長い髪、20歳位の男の子、身長はユシャさんより少し大きくスポーツ選手のような体型をしている。

まだあどけなさの残る可愛いアイドル系の顔。うわ~めっちゃ可愛い。


「拘束。」


ジャオさんと同じ様に縛られた。


「では。」


ユシャさんの手には鳥の羽根のようなものが二つ。

一つを私に持たせた。

はい?何を?


ユシャさんはジャオさんの足元にしゃがむ。


『ギャハ!ギャハハハハ!』


足の裏を手に持った羽根でくすぐっている····精霊も聖獣も裸足だ。

これはキツい····

呆然としている私にユシャさんは言った。


「ヒナ、お前はアルクの方をやれ。」

「ええっ!」

「やらないなら、ヒナも後で、同じお仕置きな。」


慌ててアルクくんの足の裏を羽根でなぜる。


「ご、ごめんねアルクくん、私もこんなお仕置きされたくないの。」

『『ぎゃう~~~あ゛~ひ~!!!』』



結局、ユシャさんにはバレてるし、ユシャさんそんなにその話を話題にされるのイヤなんだ。

···ていうか、ユシャさんめっちゃ楽しそうにお仕置きしてるんだけど?


はっ!


「ユシャさん!私、今日学校行く日なんですけど!」

「あ···」


ユシャさんも忘れてたのね。

大急ぎで朝食をかき込み支度する。

アルクくんとジャオさんは笑い疲れてぐったりして肩で息をしている状態で動けない。


「仕方ない。アルクは使えん。転移するぞ」

「えっ!やだ~~~!」


また酔っちゃう!


はい。予想通り。

今まで距離が短くても酔ってたのにこの長距離···。時間はあっという間だったけど、激しく酔いました。

いつもアルクくんが待つ丘に着いたものの、私はぐったり横になる。充分なお仕置きになりました。


「気持ち悪い~吐きそう~」

「大丈夫か?」

「あんまり···」

「仕方ない。遅刻だな。」

「はい···」



目の前には葉の先が少し茶色くなった草、風に乗ってと妖精達の小さな笑い声。

今は冬期だから寒いはずなのに暖かい。

ユシャさんが魔法で周りを暖かくしてくれているようだ。


「ヒナ···お前、元の世界に帰りたいんだろう?もう諦めたのか?」


突然、ユシャさんがそんなことを言い出した。


「諦めてはないですけど、帰れるんですか?」

「まだ、何とも···」

「そうですか···うっ、気持ち悪い~」

「回復かけてもいいけど慣れないと困るから、我慢しろ」


ユシャさんが背中をさすってくれる。

優しい所もあるんだよな。


今は冬期休みで学校にいく生徒は希望登校だ。

今の時期でないと時間が取れない仕事持ちの生徒が補習のような形で授業を受けている。

私はそれに便乗して自分の受けたい授業だけ参加している。


「召喚の記録をあちこち調べているが、まだ異世界から召喚した人間を送り返した記録は見つかっていない····」


ユシャさんがぽつりぽつりと話し出す。

私が暢気に学校に言ってる間も、仕事の合間にずっと調べてくれてたんだ。


「お前を召喚したルセラなら何か知っているかもしれない」

「そう言えば、はっきり帰すとは行ってなかったけど、帰してくれそうなことは言っていたような···」

「そういうことは早く言えよ。そうか···あいつがそんな事を···」

「すいません···」


でも、私に何をさせようとしてるか分からないし、その 何かが終わらない限り帰れないんたろう。


「私、何のためにこの世界に来たんでしょう?」

「ルーはまだ、何か隠してるみたいだな」

「私に何をさせたいかもわからないんじゃどうしょうもないんですが···」


今度、連絡があったらしっかり聞かないと。


「首都か····」

「え?」

「お前が行きたいなら行ってもいいんだぞ。後のことは気にすることはない。ルセラもいるし、もしかしたらルセラと連絡が取りやすくなる可能性だってある」

「·····」

「魔法が使えるなら多分、都会の方が暮らしやすい。スギシタというお前の友達にわけを話して向こうで暮らすのもひとつの方法だ。お前の魔法でフォローすれば暮らせなくはないと思う」

「······」


ユシャさんがいつになく饒舌だ。

私をからかう時と、何かを教える時以外はこんなに自分の考えを話すことは余り無い。


「お前くらい魔力があれば暮らすには不自由しない。魔法は使えなくても魔力さえあれば、なんとかなるのが、この国の都会だ。こんな田舎で地味に暮らしていても、しようがないだろう?」


ユシャさん私が首都に行って欲しいの?私がいない方がいいの?私、邪魔かなぁ。


「な、何だ。どうかしたか?お前、何泣いてるんだ?!」


私を覗き込んだユシャさんが驚いて後ずさった。

私は起き上がりその場に座り直す。


「泣いてなんかいません!目から汗が出ただけです」

「お前の顔涙でぐちゃぐちゃだぞ。」

「ぐちゃぐちゃなんて言うな!」

「泣いてるかと思ったら今度は怒ってるのか」


こんな時に、どうして熱心に首都に行くことを勧めてくるの。

アルクくんは私がはっきりしないから怒ってたみたいだったけど、ユシャさんは何も言わなかった。それは、私が首都に行ってもいいと思っているということ?


「あぐっ、ひっく」


ユシャさんはタオルを出して私に渡す。

あの魔法のバッグには色々入っているようだ。

私は顔を拭くが、後から後から涙が零れてくる。


「ユシャさん、ひくっ、私が邪魔なんですか」

「何もそんなこと言ってないだろう」

「だって、なんか、私を杉下さんの所に行かせたいみたいなことを、ひくっ、言ってる」

「はぁ?」


ユシャさんが頭を掻いている。

あれは面倒くさいなあって思ってる顔だ。


「こんな田舎で帰れるかも分からないまま暮らすより、若い子なら都会で楽しく前向きに暮らす方がいいんじゃないかと思っただけだ」

「私はここの暮らし好きです」

「同郷の仲間と居た方が安心するんじゃないのか」

「私はここのみんなのこと大好きなのに。ユシャさんは私のこと嫌いなんだ。迷惑なんだ······」


また涙が溢れ出てきた。


「別に嫌いじゃない。最初は面倒かな···とは」

「私のこと、面倒くさいんだ。いてもいなくてもいいと言うよりいない方がいいんだ。私がまだ子供だから、色気もないしつまんないんだ···」

「ああ、もう···お前言ってることが支離滅裂だぞ。」

「支離滅裂なんだぁ~」


私の頭をユシャさんの手が押さえ、くるっと横を向けた。

目の前にユシャさんの顔。

え?


ユシャさんの唇···

息が···止まるかと思った。


以前、ユシャさんにいたずらを仕掛けた時にされたキスより、優しくて少し···長かった。

柔らかくて暖かくて·····

頭の中が真っ白になった。




オルガに魔法で解決しても、何にもならないと良く言われた。

分かってるが面倒くさい。

だが、さすがにこれを魔法でどうこうは無理だろう。

嫌いじゃない。嫌いじゃないから魔法で誤魔化せない。

嫌いじゃないから困る。

···[だが、俺は方法を間違えてる····かもしれない。



確かに、泣き止んだが、ヒナは固まっている。頭の中はかなりパニック状態なのだろう。

少しざまぁみろと思う。大人を困らせるようなことをするのが悪い。

仕方がないのでそのまま転移して家に帰った。

半分、意識がなかったせいかヒナは今回は転移酔いせずに済んだ。皮肉なものだ。

家に入ったらフラフラと自分の部屋に入っていった。




頭が通常営業になったのは家に帰って暫くしてからだ。

何だったんだ?何だったんだ?あのキスは。

私が泣いてうるさかったから、泣き止ませるためにしたのか?

ズルい!だから大人は~!

やっぱり子供だから甘く見られてるのかな。


夕飯の時間、テーブルに大人しくついてはみたが、目が···ユシャさんの唇を見てしまう。

誤魔化すためジト目になってユシャさんを見る。


「なんだ?その目は。俺はお前のこと、嫌いな訳じゃないからな。お前の意思を尊重しているつもりだ。今日だって、お前のためになると思って言ったんだからな。」

『ヒナ、ユシャが何を言ったか知らないけど、僕達のこと好きならここにいてよね』

「アルク!お前、飯抜きにするぞ」

『ユシャが悪いんだ。嫌いじゃない。じゃなくてちゃんと好きって言わないと、ヒナはバカだからわからない。』

「アルク!」

『ヒナのこと好きだから僕は、ヒナにここに居て欲しい。だけどヒナの一番は僕じゃなくてユシャだから、だから····』

「アルク、こういう事は好き嫌いだけでは、決められない事情もあるんだ。」

『ユシャは誤魔化してる。僕たちも自分も。ユシャは怖いんだ。』


二人とも···アルクくんサラッと私のことバカとか言ったね。


「ユシャさん、アルクくん、お腹空いた。二人とも早くご飯にしよ。」

「『はあっ?」』


二人が呆れた顔してるけど気にしない。

いいんだ。嫌われてないなら····ルセラさんに勝とうなんて思ってないし。

ああ、そうだ。杉下さんには手紙を書かなくちゃ。もう少しこちらにいますって。


水の精霊ジャオさんはユシャさんの指導で改めて正式な契約をし、晴れて私の精霊になった。

ジャオさんとタリンさんがユシャさんの師匠やユシャさんとしているのは軽い条件付契約で、畑に関することのみなので、簡単に契約の変更が出来るものなのだそうだ。


私みたいな魔法が未熟な人間がジャオさんと契約してもいいのか、とユシャさんに尋ねたらユシャさん曰わく、「身を守れる物は多い方がいい。」だそうだ。



本当にヒナは訳がわからない。しかも危なっかしい。

ということで、ジャオも望んでいることだし、ヒナの加護をする精霊としての契約の仕方を教えた。

水の精霊の加護でヒナは水系の魔法はもっとコントロールし易くなるはずだ。

他にはジャオを召喚する事が出来る。契約することで使役出来るのだ。

まだジャオは精霊としては若い。いつもはヒナの中で眠り力を溜めることになる。

ヒナは特別才能があるわけではない。

だが、聖獣にも精霊にも好かれる。多分そのうち妖精も。

精霊や聖獣は強い魔力や純粋なオーラに魅かれやすい。だが、ヒナの場合、彼らを魅きつけているのはルセラの力だけでは無いような気がする。

それが何かは俺にも良く分からないが。



***********



警備隊の隊長のエルから仕事の依頼が来た。

今回は少し長くなるかもしれない。ヒナは連れていけないな。

さて、どうするか····


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