魔力とは電気?
『君もこちらに来ないか?』
えっと·····
おっと、一瞬思考停止してた。
う~む。
確かに、ここに来たばかりの時なら、即、首都に行こうと思ってただろう。でも今は、迷ってしまう。
ミーク、マイラさん、オルガさん、アベルくん、オリオンくん、シドくん、ソールくん、先生達、ニニカの町の人達。
親しくなった人達と別れるのも寂しいし~、ここの生活に慣れちゃったし〜
····言い訳を考えてる時点で行かない選択してるのかもしれない。
だって、首都に行くってことは、ここを出て行くってことだよね····
そしたら、ユシャさんにも会えなくなっちゃうんだよね?
『そちらの生活になじんでるかもしれないけど、俺としては将来的に魔法に関することでトラブルに巻き込まれる可能性が強いと思います。
この国には、魔法が使えない人間を毛嫌いしてる人達もいて、危害を加えられる可能性もあると聞いています。
その人達に魔法が使えないことがバレたら、この国では住みにくいと思うんだ。
帰る方法を探しているとも聞いたけれど、いつになるか分からないし、俺としては君が心配だし、一緒に居た方がいいと考えています。』
うん·····杉下さんが私のこと凄く気にかけてくれていて心配してくれているのはわかる。
わかるんだけど·····
『ユシャ、ヒナと喧嘩でもしたの?』
「いや、してないが。」
『でも、ヒナの様子変だよ。』
「確かにな。ご飯のお代わりもしなかったし、ラカの実も1個しか食べなかった。」
『具合でも悪いんじゃない?』
夕食後、アルクくんの寝床に座りボーッとしてたら、ユシャさんとアルクくんの会話が聞こえてきた。
ヒソヒソ話なら、もう少し小さい声でしてよね。
「ヒナ。手紙に何か気になることでも書いてあったのか?」
ユシャさん、超ストレート。オブラートに包むことを知らな、いや、オブラート自体が無いからこの世界ではそんな言い回しはないか。
と言うより、私に対してあまり遠慮というものが無いのかもしれないけど。
「えっと、いえ、その····」
「そんなに言いにくいことか?」
言いにくいって言うかなんて言うか····自分で考えなきゃいけないことだしなぁ。
『ヒナ、吐いちまえ。そのうちユシャに読まれるぞ』
「アルク!俺はそんなにいつも人の心読んだりしてないぞ!」
『あはは、ごめんごめん。普段ヒナのは読まなくてもわかりやすいもんね』
「フォローになってないよアルクくん!」
一応、二人とも心配してくれてるんだ。一緒に暮らしてるんだし、ちゃんと話さないといけないことだよね。
「えっと杉下さんが、実は首都に来ないかって···」
「『え?』」
「手紙くれた杉下さんが。あの、元の世界から一緒にこっちに来た人、前に話したよね。杉下さんって言うんだけど。」
「ああ···」
「杉下さんが、私に首都に来て欲しいって書いてきたの。」
私が手紙の内容を話すと、アルクくんが首を傾げながら言った。
『ヒナは何を悩んでるの?首都にいきたいの?行きたくないの?』
「いや、だから今どうするか悩んでるんだけど···」
『ヒナ、僕達とそいつどっちが好き?好きな方のそばにいればいいでしょ。』
「そ、そういう問題じゃなくて····」
アルクくんも、超ストレートにきた。
「アルク、人間はそんなに色々と簡単に割り切れる動物じゃないんだよ。ヒナには少し時間が必要だ。」
『ふう~ん···人間て面倒くさいんだね。』
アルクくんは寝床の私の後ろに寝転んで欠伸をした。
この話にはもう口は出さないつもりらしい。ただ、ちょっと機嫌が悪くなってる気がする。
「私が魔法を使えるようになったことを杉下さんはまだ知らないんです。だから魔法の使える人ばかりの中じゃ暮らしにくいんじゃないかって····」
「ああ、確かにこんな田舎に比べたら首都では魔法がないと暮らしにくいだろうな。」
「そんなにニニカと違うんですか?」
「魔族との交流が始まってから、凄い勢いで魔力式道具が入ってきたからな。」
「魔力式道具って、あの指輪とかバングルみたいな魔具とか魔道具とは違う物ですか?」
「いや、魔族が造った機械なんだが、日常生活で使う魔力で動かす道具だ。」
「日常生活で?」
ユシャさんもたまに、首都にいくことがあるが、学生時代は首都で過ごしたのだそうだ。
ユシャさんが改めて、色々教えてくれたところによると、家事に使う魔力式道具、職人が使う魔力式道具など色々種類があるらしい。
魔力コンロ、魔力オーブン、魔力洗濯機、魔力ヒーター等その他にも、ボタンを押して魔力を流せば、飲み物やチケットを買える自販機のような物まであるそうだ。
杉下さんが魔力を電気みたいだって書いてあったけど、確かに魔力式道具って電気製品みたい。
元の世界に近い暮らしが魔力さえあればできる。
しかし、魔力がなければこの世界のこの国、クレッシェンドで暮らすには色々と不都合があるだろう。
杉下さんはそういう事を言いたいのだろう。
あ、下の大地には、魔法使えない人達もいるから、そこなら何とかなるんじゃないかなとふと思った。
魔力は魔石に貯めることができる。それを売ったりお金代わりに使うことも出来るほど価値が高い。
純粋に魔力だけ貯めた石はお金の代わりに出来るけれど火とか水とか属性を帯びたものは魔道具として扱われる。
税金は現金または魔石に魔力を貯めた物のどちらかを納めることになっている。
田舎では魔石で、都会では現金で納める人が多い。ユシャさんは現金を納めているそうだ。私の分も。
田舎では現金収入が少ないというのもあるが、都会では魔力を(魔力式道具のために)使いたいからお金で納税する方がいいと思う人が多いということらしい。
それだけ田舎では魔力を使わなくても問題なく暮らせるとも言える。ニニカの人の暮らしって地味だものね。
ユシャさんからこの国の各地域のことも教えてもらった。
この国クレッシェンドには東西南北に分かれていて、それぞれ地域に特性がある。
東は農業と日用品関係の工業が中心で大きな町は3つ。
農業は西よりは規模は小さいが気候に合う作物を作っており、西の作物と同じ様に全国に流通している。
他、織物や家具などの職人が多い。まあまあ栄えてる。
北は林業と鉄鋼系の工業 、大きな町は3つ。
金属加工に従事する職人が多い。数十年前から技術指導にドワーフ族の人が下の大地から呼ばれている。
地味に栄えてる。
南は観光が中心。気候が亜熱帯で保養地もある。
この大陸唯一の人工海岸があるらしい。
芸能に関する仕事をする人、宿屋を営む人、商人が多い。
4つある大きな町はすべて人口海岸に面した観光地である。
そして、この国で一番大きな駅と港があり交通の拠点でもある。
西、東及び首都に行くには基本ここを経由しないといけない。
下の大地からの観光客は まずここの港に降り入国手続きを行う。
国内の主要神殿と行き来できる大きい転移魔法陣が有る。但し神殿関係者しか使えない。(転移魔法陣?!)
首都と同じくらい栄えていると言っても良いだろう。
そして西、ここニーロカは農業、酪農が中心。農畜産業に携わる人が多い。大きな町は····1つ。
う~ん·····他の地域に比べてめちゃくちゃ田舎な感じだ。
人口は国で一番少ない。しかし土地は一番広い。
確かに魔法が無くても暮らせていける気がする。雨宮さんも普通に暮らしているしね。
···あれば便利だけれどね。
そして中央には魔霊樹を頂く首都ヴォイスがある。
文化、教育、政治の中心でとても大きな町である。ものすごく色々発展し栄えている。
多分東京みたいな所なんだろうな。
巨大な魔霊樹を中心にクレーターのような丸い盆地にそのまま円を広げたように建物が広がり並んでいる。
人口も一番多く色々な研究機関や団体の本部が多くある。
簡単にと前置きされてユシャさんに説明されたけれど、学校ではこういう授業受けてないなぁ。
取った授業のカリキュラムもう一度確認しとこう。
翌朝、昨日に引き続きアルクくんがご機嫌ナナメだった。
一応、朝の散歩には一緒には来てくれたけど、私、そんなにアルクくんの気に触る言い方しちゃったかなぁ?
アルクくんは私の随分後ろから妖精さん達とヒソヒソ話しながらついてくる。
原因はやっぱり昨日の手紙の事だよね?
別にアルクくんやユシャさんより杉下さんが大事とかいう訳じゃないんだよ。
でも、杉下さんのことも心配だし気になるんだよね。
『よう。シケた面してんなあ。』
「わっ!ビックリした。」
突然目の前に青い魚が現れた。
前にユシャさんに紹介して貰った水の精霊ジャオさんだ。
「ジャオさん。どうしたんですか?こんな所で」
『ヒナが毎朝、ここらへん通るって聞いたから来てみた。』
わざわざ私に会いに来てくれたって事?うれしいな。
『ジャオ、ひょっとして人型とれるようになった?』
『おうよ。ちょっと上流で修行してきてな。』
「ジャオさん人の形になれるの?!」
なんでも、精霊も経験値が上がることで人型を取ることができるようになるのだそうだ。
この辺にはモンスターもいないので川の上流の森でちょっと戦ったりしたとのこと。
へぇ~···精霊って単独で戦ったりするんだ。
しかも割りと短期間でレベルアップしたってことはジャオさんて実は凄い精霊とかだったりするのか?
『ジャオは変わってるんだよ。普通の精霊はそんなことしないよ。いっぱい時間がたてば自然とできるようになるんだから。』
「そ、そうなんだ。」
『だってヒナ、人型になって欲しそうだったじゃん』
「えっ?私のため?」
『精霊の中には凄い気難しいのや人間が嫌いな奴もいるし、ジャオとかタリンはシェルが躾たから、友好的だしね。』
躾たんだ····
『シェルは優しいんだか厳しいんだかわからない人間だったなあ。今、どこに居るんだろうね』
『もう自然回帰しちゃったかもね』
ん?ん?ん?
「あの···シェルさんてどなたですか?自然回帰って?」
『ああ、ヒナは知らないんだよね。シェローデイル、ユシャの師匠だよ。スッゴい綺麗なんだ。』
へえ~ユシャさんのお師匠様か···アルクくんがそんなに言うほど綺麗な人なんだ。
『あの人、殆どエルフだからまだ自然回帰してないと思うけど?』
「ジャオさん、どういう意味なんですか?」
『シェルは父親がハーフエルフで母親はエルフなんだ。だからまだ死んでないと思うよ。エルフも相当長生きだし、ハーフエルフでも魔法使いよりかなり長く生きるからね。』
自然回帰って死ぬことなのかな?
『それよりジャオ、人型になってみせてよ』
アルクくんに急かされて、ジャオさんが人型をとる。
『どう?』
意外~!
涼しげな目元のイケメンになった。年の頃は17~8。スラリとした長身に薄青の髪。
ジャオさん曰わく、『見掛けはヒナの好きそうな感じにに合わせた』だそうです。もっと若くも大人にも出来るそうだ。私面食いに見られてるのか?
聞いたら『ジャオさんにヒナ、ユシャのこと好きじゃん。ユシャ顔良いから』と言われた。何故バレてる!
それはそうと、知らなかったけど、この上流にはモンスターも居るんだ。
「このあたりはユシャさんの結界があるからモンスターいないんだね」
『あーそれもあるし、シェルが、アイツの影響力排除するために、途中から切り離してあるせいもあるんだ。結界自体はあの畑辺りまでだから』
はい?またわからないことが。アイツって誰?影響力排除?
「切り離してるってどういうこと?」
アルクくんは黙ってソッポむいた。
『この大陸が魔霊樹の根によって持ち上げられてるの知ってる?』
ジャオくんがいうには、ユシャさんのお師匠様であるシェルさんは、この半島を自分の魔法の力で浮かせていて、大陸にはくっついているように見せているだけだという。
凄い魔力がある人で、今、生きている大陸に住む人間の中では最高位の人だろうということだ。
『それにユシャの初恋の人だしね』
とジャオくんは笑った。
なんですと?!
ユシャさんの初恋の人?!
ルセラさんがユシャさんの初恋じゃなかったの?
ああ、確かに長い年月生きてるんだし、そんなに初恋が遅い訳ないか。
ユシャさんの周りにはきっと可愛い子がいっぱい居ただろうから。
ちょっと凹む。
『しかも男だし。』
え?ええ~~~~っ!!!
ジャオさんは『有り得ねぇよな~』とケラケラ笑ってる。
ドゴッ!
凄い音がした。
『ジャオ!このお喋り!ユシャにバレたらただじゃ済まないよ!』
ジャオさんが地面にめり込んでいる·····アルクくんがジャオさんを思いっきりど突いた。
『いってぇ···アルクてめぇ何しやがる!』
『ジャオ、ちょっと来い。』
「あ、あのアルクくん···」
アルクくんはジャオさんを連れて私からちょっと離れて話し込んでいる。
ユシャさんの初恋の話、すごく聞いてみたいけど不味いんだろうな。ぷぷっ···
初恋の人が男の人って、小説や漫画ならあるあるだ。
そのままBLにはならなかったのね。お師匠様もノーマルだったんだ。
『ヒナ、ちょっと。』
アルクくんが私を呼ぶ。
『ジャオは今日から、君の精霊になるから。』
「は?」
ジャオさんが私の精霊ってどゆこと?
ちょっと待て!
何がどうしてどうなって、そういう話になったの?
そんなに簡単にできるのか?