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クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
29/114

あの人からの手紙

あの人とは、ずっとご無沙汰のあの人です。


魔霊樹····

この大陸のすべての源とも言える魔によって育った大樹。

その根はこの大陸を包むように抱いている。

本来は魔霊樹とは大気を取り込み魔素を吐き出すものだ。

しかし浮遊大陸の魔霊樹は大陸を維持するため大量の魔力を必要とする。そのため吐き出した魔素の一部を魔力として補充しなければならない。

その役目を担っているのが白の巫女である。


魔素がなければ魔法が使えないが、下の大地の魔霊樹が吐き出した魔素も大気に混ざっているため大気中の魔素の量は問題ない。



『魔霊樹に必要な魔素は普段は白の巫女や白の神官達の力により管理されている。しかし、魔力が必要な量より足りないと暴走することがある。魔霊樹は既に人の力では完全には御しきれなくなっているのだ』と師匠は言っていた。


「魔霊樹のために、異世界人とはいえ人間を生け贄にしているということでしょうか?今までに死者が出た可能性も有るのでは?」

「多分あるだろう。まるで人を家畜扱いじゃな···」

「この件に関してはエルフォンスにも協力を頼んでみます」

「まだ、分からないことだらけだ。深入りすればどんな危険があるやも知れん。くれぐれも慎重にな。余り無理をするなよ」

「はい。」


カジャク導師も神殿に関係のある知人にそれとなく探りを入れてみるとのこと。

トリスタにも連絡を取るか。あと、あいつにも····


突然、警備隊のニニカ支部長ヒースさんから念話がきた。


『ユシャ殿、今よろしいですか?』

「ヒースさん?どうしました。」

『いえ、大したことではないのですが。エルフォンス隊長からユシャ殿に手紙が届いております。私信のようです。こちらに来ることがありましたら支部の受付に立ち寄っていただきたいのですが』

「わかりました。カジャク導師の所に来ていて、ちょうど出るところです。今から伺います。」

『では、お待ちしております。』



いつもなら届く範囲にいる時は念話だが、今は首都の本部にいるのだろうか?

それにしても珍しいな、エルが手紙を寄越すなんて。

この世界では念話の使える者は殆ど手紙は書かないのだが、どういう風の吹き回しやら····




************




ユシャは転移魔法で警備隊のニニカ支部に移動した。

警備隊支部の建物の中には首都からの各業務支所が置かれている。いわゆる市役所の支所のような役割だ。

人の移動、出生及び死亡の届け、納税や郵便物の取り扱い、銀行なども含まれる。

もう少し大きな町だとそれぞれ独立した建物になる。

警備隊支部は、ドラゴンの休息場所としてある程度の広さが必要なため、ニーロカ地方では広い場所が確保できたニニカの町だけにしか置かれていない。

その広さもあって、この町には不似合いの大きめの建物に各業務の支所、出張所も組み込まれたと言うわけである。



警備隊ニニカ支部に立ち寄りエルからの手紙を受け取った。

大きめの封筒の中にもう一通少し小さめの封筒が入っている。


『あさだ ひな様』


見たことのない文字が書かれている。いや、どこかで見たような気もするが?

エルからの手紙を開けてみる。


『ユシャ、前に話したうちで預かっている異世界人のことだが、名前をスギシタ ケントと言う。

彼がお前の預かっている同じ異世界から来たと言う娘のことをとても心配している。

確か、名前はヒナだったかな?

お前が預かっていて、元気だし大丈夫だと話してあるが、どうしても連絡が取りたいというので、手紙を書かせたのでその、ヒナという娘に渡してやって欲しい。

ケントとは言葉が通じず、周りの人間ではなかなか意志の疎通が取れず、彼の希望を聞くのが遅くなり、随分時間が経ってしまった。

ということで、同封の手紙を間違いなくヒナに渡してやって欲しい。

すまないが宜しく頼む。


それと、また、仕事を頼みたい。

近日中に連絡する。


                         エルフォンス・F・バルシュタイン  』



相変わらず、丁寧なのか適当なのか分からない奴だ。封書か。しかも、この間違いなくというのはエルの奴、なんのつもりだ!まるで俺がちゃんと渡さないとでも思っているのか?

しかし、ケントというのは、どんな奴なんだ?



·········。



·····別に、俺が気にすることじゃない。

フンッ




***********




「えっ!杉下さんから手紙?わぁ!」


実は、預かってから3日ほど経っている。つい、渡すのを忘れていた。

つい····だ。つい。


手紙を渡すとヒナは満面の笑みを浮かべた。なんだ?その喜びようは。


「表に書いてあるのは、お前の世界の文字か?」

「はい。これ、私の名前です。ふふ、平仮名だ。あの時は名前の漢字教えられなかったから」

「ひらがな?」

「私の世界の私の住んでた国の文字です。国によって文字も違うんですよ。他に漢字とかカタカナというのもあるんですよ。ほら、これが漢字で、この角張ったのがカタカナ、丸みの多いのは平仮名で···」


ヒナは手紙の封を開け手紙を広げ、沢山書いてある文字を指差す。

エルはケントを大事にしているようだ。質の良い便箋を使わせている。


そうか、見たような気がしたのは、前に祐司が書いていた文字だったからか。

魔法を使えば読めない事もないが···


「ユシャさんも読みます?」

「なんでそうなる?!他人に来た手紙なんぞ読んでもしょうがないだろう。」

「え、でも興味深そうにのぞき込んでたから」


「文字に見覚えがあったからな。祐司が書いているのを見たことがある。」

「あ、そうなんだ。」


ヒナは手紙を持って部屋に引っ込んでしまった。

気になんかなってないんだからな!




***********



自分の部屋に戻りベッドに腰掛け手紙を読み始める。杉下さんて、男の人にしては綺麗な読みやすい文字書くんだな。

わざわざ手紙書いてくれるなんて、なんだか申し訳ない。

私は杉下さんのこと放ったらかしてたのに····



『前略、ヒナちゃん。

元気ですか?』

「はい元気ですよ~」


なんで返事してるんだ私、笑っちゃう。


『俺は元気です。あの日、発熱して意識を失い、気がついたら治療されてベッドで寝てました。

最初はヒナちゃんが助けを呼んでくれたのかと思っていましたが、ヒナちゃんはいないし、世話してくれたり周りに居るのは男ばかり。

日本には女性の看護士さんが多いのですごく違和感がありました(笑)

ここは病院で看護士は男だけなのかな~(ちょっと、いや、とっても残念)と思ったけど、なんか違うんだ。

後で分かったけどそこは警備隊の医務室でその一部を俺の病室に充てていたようです。

最初は言葉は通じないし、かなり焦ったよ。

まぁ、食べ物は食べられる物だったし安全みたいなので、開き直ってたけどね。

なんだか、外国に来てしまったような気分だった。


しばらく経ってから、一人の男が声をかけてきた。

よくSFなんかで使われるテレパシーみたいなのを送ってきたようで、直接頭の中に意志が届いたという感じだった。念話と言うらしい。

ここは違う世界なんだなって改めて実感したよ。


彼はエルフォンスといって、ここの(俺を助けてくれた所)の偉い人らしかった。

どうやら隊長と呼ばれているらしい。彼は色々この世界のことを教えてくれました。

それで、やっと俺の置かれている状況がわかった次第です。


ここはこの国の第三警備隊の隊員宿舎というかエル隊長の家でもあるそうです。凄い金持ちなんだろうな、となんとなく庶民の俺は思っていたんだけれど···


しかし、動けるようになって外に出てビックリ!

すごく広いんだ。同じ敷地内にドラゴンの飼育舎やら隊の宿舎以外に訓練場まである。しかも、隊長の個人の所有地。

隊長は凄いどころかとんでもなく金持ちのようです。


俺を助けてくれたのはエルフォンスさんの部下でレトとサライと言う二人の男性でした。

よく俺の部屋に様子を見に来てくれていて、いつのまにか仲良くなりました。

見た目は俺と同じくらいなんだが、聞いてビックリ100歳を越えてるんだそうだ!

この世界の人は物凄く長寿みたいだね。


他にもビックリがいっぱいあるけれどビックリし過ぎて最近では慣れてしまいました。


彼らにあの時近くに女の子は居なかったかと身振り手振りで聞いてみたけれど、エルフォンスさんが居ない時は細かい話はうまく通じない。

やっとヒナちゃんのことを伝えられたのは随分経ってからだった。


エルフォンスさんから、ヒナが落ちた森の近くで発見されて保護されていたこと···無事なことを聞いた時は本当にホッとしたよ。

今はヒナを助けてくれた人の所から学校にも通っていると聞いて安心しています。


俺も言葉の勉強をしながら警備隊の手伝いをしている所です。』


良かった···杉下さんも元気で頑張ってるんだ。

そっかぁ···

あのエルフォンス隊長って人テレパシーができるんだ。そう言えば、ユシャさんも初めて会った時は使ってたな。


『少し言葉を覚えたので、出来るだけ話をして今は簡単な日常会話は出来るようになりました。』


うわっ!すごい!杉下さんて順応力有り過ぎじゃないの?

私はルーのおかげで楽して会話できて、ホントすいませんって感じ。ズルしちゃったって感じだもんな~


『最近は俺を助けてくれたレトとサライと一緒に ドラゴンの世話をしています。

覚えてるかな?俺達がここの世界に落ちてきた時、ぶつかったドラゴン。』


「あ~!あの時の。クッションになってくれた子。」


『あのドラゴンが知らせてくれたから、俺は助けて貰えたんだ。感謝しなきゃいけないと思ったし、俺も遊んでる訳にもいかないので、言葉の勉強をしながらドラゴンの世話とか警備隊の手伝いをしている次第です。』


良かった···杉下さんも元気で頑張ってるんだ。

でも、ちゃんと働いてるとか私とはエライ違いだな。

私はユシャさんの所で居候して学校にまで行かせてもらってる。

後で諸費用は請求されるだろうけど···

それから、杉下さんは時々街にも連れて行って貰っているらしい。


『街で一人暮らしとかは難しいが(複雑な事情があるらしいです。)買い物に行く位は大丈夫みたいです。

ただ魔法が使えないと通れない場所とか入れない店とか、使えない物があったりするのでいつもレトかサライが一緒に行ってくれます。

街には魔法が溢れていて何もかも魔力で動いているのを見ていると、魔力というのは俺達の世界の電気のようなものではないかと思えてきました。

人の持つエネルギーが魔力なら自家発電してるみたいなものかな?とね。 』


面白い発送だなぁ。

やっぱり杉下さんのいるのは都会だから、ニニカとは違って魔力を動力源とする何かが沢山あるんだ。

ニニカは私から見ても田舎だ。でも、どんな物があるんだろう?

確か、ユシャさんも首都の街に住んでた事あるんだよね?今度聞いてみよう。



『さて、話は変わるけど···ヒナちゃん。

君もこちらに来ないか?』


えっ···


『実は、エルフォンスさんがとある場所に異世界から来た人を何人か保護して住まわせている場所があるらしいんだ。昔から今までに、僕らの他にも異世界から迷い込んだ人が結構いるそうだ。

帰る方法もわからない今の状況だし、こちらで暮らすとなると、魔法の使えない俺達には厳しいと思うんだ。だから、良かったらこっちに来ないか?』


そうだった。

杉下さんは私が魔法を使えるようになっている事を知らないんだった。



読んで下さってありがとうございます。

健康上と仕事上と色々重なってなかなか話が進みません。

完結はまだ遠いです。

すみません。

宜しかったらお付き合い下さいませ。


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