ユシャさんの特別授業
来て下さってありがとうございます。
当たり前ですが各設定は私の想像の産物です。
楽しんで頂ければ幸いです。
このクレッシェンドと呼ばれる浮遊大陸には山や森、湖、大小の町や都市がある。
ここに住むのは様々な動物(家畜や野生動物)、モンスター、ドラゴンが数種と魔法の使える人間が沢山住んでいる。
他には、少数だが、エルフ、異世界人、下の大地より移住して来た獣人族、ドワーフがいる。
そして、そういった生き物と一線を隔てる物達が居る。それらは、妖精、精霊、聖獣、神獣と呼ばれている。
「他の生き物とどう違うんですか?」
「生き物と言うより、現象だからだ。」
····はい????
何、現象って。
自然現象とか生理現象とかいう現象ですか?···何それ?
「特に妖精には本来性別がなく、長年生きて力が付くと性別を持ち自我を持つと言われている」
「どうやって増えるんですか?」
「それは、未だによくわかっていない。自然に出てきたり消えたりすると言われている。自然現象だと言う研究者もいるらしい」
あ、やっぱりそういう意味なんだ。
「たとえば、雲とか虹みたいな?」
「そうかもな。精霊はそれらが強い意思を持ったというか、魔力を持った物ということらしい」
妖怪とかとは違うのかな?九十九神みたいなような違うような?勿論、幽霊とは違う。あれは死んだ人の霊だし。ヨーロッパの妖精もそういうものなんだろうか。
「この世界って不思議に満ちてますねぇ」
「そうだな。本人達にもよくわかってないらしいから、別にいいんじゃないか?」
「ユシャさんて意外にアバウトなんですね。もっとキッチリ白黒つけないと気が済まないのかと思ってました。」
「物によりけりだ。妖精とか精霊とかの正体は研究者に任せればいい。他にもやらなきゃいけない事は山ほど有るからな」
まあ、確かに。私達が考えても答えは出ないんだろう。聖獣とか神獣については、もっとわかっていないらしい。召喚獣については、召喚獣が住む異世界があるらしいということだけは分かっているらしい。その存在が精霊に近いらしいと言うことも。
外は雨が降っている。
ユシャさんが言っていた「雨にする」と言う言葉。言葉そのまま、魔法で雨にしたと言うことだった。
この国は天候でさえ魔法で変えることが出来る。範囲は限られるらしいけど。
ニーロカ地方では普段は畑など必要な場所にのみ降らせていて、後は特別に依頼があったら、緑の魔法使い達が雨を降らせるのだそうだ。
今日はこの季節最後の雨の日。そして来週から季節が冬になるそうだ。冬といってもニーロカは温暖だ。雪は散らつく事はあっても積もることは無い。多分、農作物のために積もらないよう調節してるのだろう。
大陸の北には一年中気温の低い地域、南には気温の高い地域がある。
西には温暖なこのニーロカ、東には温暖だが西よりは平均気温の低いトウキクという地域がある。低めの気温を好む農作物はそちらの地域で作られているそうだ。実はニーロカでは米が作られている。(誰かさんが見つけて来たらしい。うん、あの人ですね)
ユシャさんはトウキクの生まれらしい。何故、ニーロカに来たかは聞かなかった(ちょっと気になるけど)。まあ、色々あったんでしょう。
ユシャさんちの冷蔵庫係こと契約聖獣キーンは北と東の中間辺りでよく見つかるらしい。元々の生息地、と言うか発生地なのかな?
ドラゴンは色々な種類があちこちにいて、首都の警備隊では、一部のドラゴンの繁殖も行っているそうだ。火竜は南に氷竜や水竜は北に、とそれぞれ野生ののドラゴンには決まった繁殖地があるのだとか。他にも幻のドラゴンといわれているエアードラゴンと言う種は、絶滅したと言われていたけど最近になって目撃情報があり、話題になっていると言う。どんなドラゴンなんだろう。見てみたいなぁ。
さて、いよいよ魔法の練習だ。雨なので家の中でできる魔法の練習とは?
「今のお前が使える魔法は、中級までの白魔法みたいだな。後、初歩の各魔法と一部の特殊魔法か。」
「すいませんユシャさん。もっと具体的に言ってもらえますか。よくわからないんですが?たとえば、氷が出せるとか火が出せるとか」
「そうだな。中級までの白魔法なら回復、治癒、解毒、バリア等が使える。お前の場合は魔力のコントロールができていないから、時によって威力が違ってくる。このままだと使うたび毎回バラバラになる。この間みたいな強力なバリアが使えたり、逆に治癒で小さい擦り傷も治せない、というふうにな」
「うわぁ、役に立たない!」
「その通りだ。だから練習するんだろうが?」
軽く頭を小突かれた。トクンというか胸がきゅんとなる。この程度でトキメくとは、しっかりしろ私!
どうやら私はルーが白魔法メインなので、彼女から送られた白魔法がメインで使えるらしい。ルーは白魔法の他、全属性使えるがダントツで白魔法の威力が強いと言うことだ。だから、白の巫女に選ばれたんだろうけど。
ユシャさんが小さな丸い透明なガラス玉のようなものを取り出した。そのガラス玉に手をかざすとガラス玉が輝きだした。
「これは、魔力を貯めるための魔道具だ。たまった量に応じて色や輝き方が変わる。これに俺が手を加えて均等に魔力が流れると中の光が星型で輝くようになっている。やってみろ」
「はい。ええっと、こう手をかざして···」
「どうした?」
「魔力ってどうやったら流し込めるんですか?」
「そこからかよっ?!」
バリア出した時はただ夢中でどうやったかなんて覚えてない。あの時何か身体の中からこう、何か、
じわっと言うかしゅわしゅわっと言うか····
いきなりユシャさんが私の両手を包み込むように握った。
「へっ!?」
「これから俺の魔力を流し込む。それを追いかけてみろ。それでお前の魔力が集まるから」
「は、はい」
う、うわぁ~~~。ドキドキする~。顔赤くなってるよ絶対。チラッとユシャさんを見ると少し俯いて目を閉じてる。お、意外にまつげ長い。
そんなことを思ってたら、ユシャさんの手から私の身体の中に暖かいものが、流れてくるのが分かった。
これがユシャさんの魔力。私の中にも何かが集まり始めた。でも、あの時とは違う。もっとなんと言うか···優しい。
ほわぁ~って感じ。
ユシャさんの魔力がそれを誘導してるのがわかる。私の魔力が集まってユシャさんの魔力を追いかけてゆく。それは私の身体中から集まり手の中の小さな玉に吸い込まれていった。
「はぁはぁ···」
「よし。初めてにしては上出来だな」
小さな玉の中で淡い黄色の星形が輝いている。これが私の魔力。溜まった量で色が変わるので、これだと10分の1位らしい。これだけでも、結構疲れる。
これをガラス玉が金色になるまで溜め、戻し、また溜めるの繰り返しをする。
そして···
「疲れた~」
「よし、体力的にもう無理だろう。午前中の授業はもう終わりにしよう。昼飯食ったら昼寝でもしてろ」
「はい~そうさせていただきます」
魔力集めるだけでこんなに疲れるなんて、魔法使うのって体力いるんだなあ。
でも、ユシャさんは全然平気そう。アベルくんやみんなも体力すごいんだな。
「ヒナ。お前はルセラが無理に体力の一部を魔力に変えるようにしているから、身体に負担がかかってる。慣れれば、もっと楽になるぞ。しっかり練習しろ。それでも、身体も鍛えないと保たないだろう。明日から家の近くを走れ」
「ええ~っ!」
『僕も一緒に走ってあげるよ』
「そうだな。アルクの散歩についていけばいい。アルク、ヒナを頼むぞ」
『了解!ヒナ、頑張ってね』
「はぁ、わかりました。アルクくん、よろしくお願いします。ふわぁ~。ユシャさんもうだめ。眠いです。少し横にならせて下さい」
「ああ。飯ができたら起こしてやる」
おお、ユシャさんが優しい。気が変わらないうちに部屋に行こう。それにしても眠い。
欠伸をしながらヒナが自分の部屋に戻っていった。
しかし、ルセラはどれだけ、古代魔法や禁術を手に入れたんだ?
ヒナのような魔力のない異世界の人間が魔法を使えるようになるということは、誰でも、つまり下の大地人でも魔法を使うことができるようになるということだぞ。
異世界人の体力、生命エネルギーを魔力に変換?そんなことができる?だとしたら·····
まさか、あれは!?
もしそうだとしたら、誰が、何のためにやっていた事なのだ?
まさかルセラが関係しているのか!?
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「あれ?ユシャさん出かけるんですか?」
「夕方には戻る。ちゃんと練習しろよ。アルク、ヒナがサボってたら噛みついてやれ」
「何ですか、それ、ひどーい。言われなくてもわかってますよ~だ」
「なんだそれ?ぶっさいくな顔だな。」
あかんべーしたらユシャさんは笑いながら出ていった。
こっちの人はやらないのか?
『ヒナ、僕、噛んだりしないよ。僕はそんな野蛮なことしないからね』
「ん、アルクくんは優しいね」
それにしても、ぶっさいくとは失礼な!口が悪いのはいつものことだけど、でも急に出掛けるなんてどうしたんだろ。何かあったのかな?
「ねえ、アルクくん。ユシャさんどこへ行ったの?」
『知らない。しばらく考え込んでたと思ったら、いつもなら使わない魔法で料理さっさと作っちゃって、出かける用意してた。』
魔法で料理?テーブルの上には、パンと野菜が乗ったお皿とハム、スープの入ったお鍋が置いてあった。
いつもなら家事に魔法を使わないのに、何をそんなに急いでいたんだろう?
しばらくは言われた通り真面目に魔力を集める練習をした。1人だとユシャさんと一緒の時のように簡単には出来ない。ネット小説とかの主人公のように簡単に魔法は使えない。現実はそう甘くはないと実感する。
そして、私は飽きていた。疲れるのは仕方ないけど、地味な作業を一人で黙々と続けるのはなかなか根気が要る。気分転換は必要だと思うのよね。
ユシャさんの家には大きいのと小さいの、二つの本棚がある。大きいほうの本棚には簡単な物語、小説、料理、動植物図鑑、地図などが収められている。小さい本棚には魔法関係や私がまだ知らない単語がたくさん書いてある本がある。
本をいくつか手にとってはパラパラとめくってみる。
『ヒナ、早速サボってるの?』
「休憩と言って欲しいなぁ」
前にこの本棚の本を見た時は難しくて読めなくて、それからは触ってもいなかった。両方の本棚とも本があふれそうなくらいたくさんある。ユシャさんて読書家なんだな。小さい方の本棚に一冊とても装丁の綺麗な本があるのに気がついた。
ちょっと難しい。知らない単語が沢山あって、全部は読めそうにないけど、わかるところだけ読んでみよう。
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その昔、大陸の西に住む天才魔導師が千年かけて魔霊樹を····育てた。
その樹は魔力を吸収し枝を広げ根を張り巨大になっていった。魔導師はその根元に·····してエアードラゴン注(*)の···化石を·····埋めた。
注(*)エアードラゴンは空気よりも軽いといわれているドラゴンである。骨は飛空挺などの骨組みに使われる。現在は絶滅したと言われている。
最後の仕上げに、魔法使い達は集まり、魔霊樹と····に力を送り続けた。
しかし、魔霊樹と·····は大量の魔力を一度には上手く吸収できなかった。
そこで、中でも魔力の強い白魔法使いの女性を触媒として魔霊樹に····収めた。
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「ちょっと待って。それって、人柱ってこと?」
思わず声が出た。千年かけて魔霊樹育てたとか、この天才魔導師って凄い長生きだし、訳わかんない。
と、とにかく先を読んでみよう。
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大量の魔力を·····送り続けたため、魔力の枯渇により多くの物が命を落とした。
しかし、····おかげで魔力をたっぷり吸収した魔霊樹の根は大地と·····をしっかりと抱き、空へと浮き上がった。
浮遊大陸の誕生である。
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魔力枯渇。そんなになるまで魔力使うなんて、そこまでして···
読めない単語とかわからない言い回しは飛ばしたけど、まだまだ先は長い。
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白魔法使いの女性のクレイシアから名前の一部を取り、この大陸、この世界を『クレッシェンド』と名付けられた。
クレイシアは偉大な白魔法使いであると同時に魔導師の妻であり、私の友人·····の母でもある。·····となった父と母を彼はいったいどんな思いで見送ったのか······
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パタンと本を閉じる。
なんか···暗い気分になってしまった。この魔導師、まだ生きてるのかなぁ?まさかね。しかも奥さん犠牲にしたの?
これは、この浮遊大陸が出来た時の話なわけ?これってフィクション?ノンフィクション?
本の表紙をよく見ると、下の方に金色の文字で『首都図書館第2禁書室蔵書』その下に『持ち出し厳禁』とある。
これって図書館の本?!しかも持出し厳禁。
ユシャさん、あなたって人は·····
「誤解するなよ。それは俺の師匠の持ち物だ。著者も師匠だ」
「ひえっ!」
いつの間にか、後ろにユシャさんがいた。
「お、お帰りなさい···」
「俺がうかつだったな。お前がもうこんな本まで読めるようになっていたとは」
「あの···それって···」
ユシャさんは私の手から本を取りあげ、本棚に戻す。
「忘れろ。この本にあることは、お前は知らなくていいことばかりだ。」
そう言われると余計気になるのが人の性。ユシャさんがいない時に読んでやる。
でも、次の日その本は本棚から消えていた。
何か他にもヤバいことが書いてあったのかもしれない。
それにしても、ユシャさんの師匠っていったい何歳なの?!
魔法使える人が長生きと言ったって、そんな長いこと、ん?この大陸って出来てからどの位経ってるんだろう?
それからエアードラゴンって、幻のドラゴンって言われているんだよね。
確か
『魔導師はその根元に、エアードラゴンの化石を埋めた。』って···
まさか、そのせいで絶滅しちゃったとか?!
この大陸はそんなに沢山の人や生き物を犠牲にして成り立っているの?