モンスターが出た!
祭り実行運営委員会本部。
「コーリンがカエサルと一緒だったって?」
「ほぉほぉほぉ、何という組み合わせかのう。」
「カジャくん笑い事じゃないよ。確信は無いけど、凄く気になるんだ。」
親父、両手に屋台で買ったもの抱えて食いながら話しても緊張感無さ過ぎだろ!
「しかも、ヒナちゃんに声かけてるの見たよ」
「ヒナに?サルタイラの総帥カエサルが何の用があるんだ?」
「さあ、お友達らしき可愛い尻尾のある女の子がヒナちゃん引っ張って逃げてったけど。」
ヒナが言っていたミークと言う獣人族の娘か。獣人族は危険感知能力が優れているからな。やはりカエサルは、あのオーラに興味を持ったのだろうか。どちらにしろ警戒しておくに越したことはない。
「導師、会長に伝えておきましょう。」
「そうじゃのう。ニコわざわざ知らせに来てくれて忝い。感謝するぞぃ。祭りを楽しんでいってくれ。」
「うん。やっぱりカジャくんは優しいなあ。ユーリもカジャくんを見習ってよ」
「うるさい。だが知らせに来てくれたことだけは感謝する······ありがとう」
「わぁ~ユーリがデレた!ユーリがデレた!」
確か、カジャク導師は親父より年下だと聞いた記憶があるが、自分の記憶力を疑いたくなった。
一人でバタバタしながら喜んでる親父を放置して会長に報告にいく。
確かに、わざわざ祭り実行委員会本部まで知らせに来てくれたのは有り難い。
まさか奴等がこの祭りに来ているとは思わなかった。何の目的で来たのかわからないが、サルタイラは魔法の使えない下の大地人がクレッシェンドに来るのを嫌っているという事だ。まさに、下の大地人がニニカに来ている今、彼らを害そうとしてやって来た可能性が無いとは言えない。
注意するに越したことはないな。備えあれば憂いなしだ。
***********
「ヒナ、ああいう時はさっさと逃げなきゃダメだよ」
「はい、すみません・・・」
ミークに叱られてしまった。普段はほわほわしているミークだけど、危険感知は優れているらしい。さすが、野生というのか獣人族の能力と言うのか解らないけど素直に感心してしまう。
中央広場の南にあるアベルくん達の出店の前まで来た。ここもほぼ完売みたいだ。
「お、ヒナにミーク、終わったのか?」
「うん。アベルくん達、もう出られる?」
「もうちょっとで片付け終わるから、その辺で待っててくれ」
「うん、わかった。じゃ後で」
中央広場には中央部分にベンチとテーブルが何列か並べられてる。それを囲むように色々な店が並んでいる。
蘭香亭は東側。
そんなに広くないと思っていた広場だがこうして人が沢山集まると移動に時間がかかってしまう。今日は下の大地の観光客も着ているので、まるで歩行者天国だ。
アベルくん達が手伝っているのは、氷華楼と幾つかの妓楼の合同出店ということで、蘭香亭の倍以上の広さと規模だ。見た感じはまるでオープンカフェといった様子でとてもお洒落なお店だ。
昼の組、夜の組が別れていて、夜は大人向けのお店になりお酒も出すので、今は夜の準備のために一時休業らしい。見たことのある(以前、蘭香亭に押しかけてきた)お姉さん達や、制服らしい揃いの黒い服を着た男の人達が、みんなで片付けや夜の準備をしている。
「は~い、ヒナ、ミークお待たせ。」
マイラさんが手を振りながら出てきた。いつもよりオシャレな服を着ている。可愛いい。すぐ後ろからアベルくんとオリオンくんが出てくる。
「ヒナ、蘭香亭で打ち上げやるんですって?」
「うん。皆もきてくれる?オルガさんから誘うように言われてるの。」
「もちろん。ね、行くよねアベル、オリオン」
「おう!」
「もちろん行くよ。」
今日はソールくんとシドくんは休憩時間が合わなくて、昼は一緒に回れないので、終わってから蘭香亭に集合することになっている。
蘭香亭の2階はオルガさん達の住まいになっている。2階からは花火が見えるそうだ。打ち上げは花火を見ながらできるなんて贅沢だなあ。凄く楽しみだ。
蘭香亭に行くまで5人でまだ見てない屋台や、大道芸を見て回ることにした。人形劇や珍しいお菓子を売っている屋台もあって楽しい。
金魚すくいならぬフラウラすくいがあって、なんだか複雑な気分になった。フラウラというのは金魚に似た観賞魚なのだが闘魚で角がある。ユシャさんにいつも『お前はフラウラみたいだ』っていつも言われているから情が湧いたかな。
それにしても小さな町のお祭りなのに充実してるなあ。雨宮さんどの位関わったんだろう。かなり日本のお祭りに近いと思う。
祭りは特別な事件や諍いもなく、平和に進行していた。
······が、
「モンスターだ!!」
「北の門の方にモンスターが出たぞ!」
「モンスターが出た!早く避難しろ!」
突然、大きな声が聞こえた。
モンスター?なんで?ここに来てから一度も見てなかったのに。しかもこんな町中に現れるなんてどうして?
地元の人は皆、慌てず小さい子供やお年寄りを避難させている。
パニックになっているのは、やはり下の大地からの観光客だ。彼、彼女達は一般人でしかも魔法は使えない。
「観光客の皆さんは学校の校舎に避難して下さい!全員避難したらバリアを張ります!」
運営委員や委員会の警備担当らしき人達が必死で観光客を誘導している。
地元の人や屋台の関係者の行動は慣れている感じだ。屋台を素早くたたみ自宅に戻る人、支持された避難所に向かう人、モンスターと戦うべく北門に向かう人、こういう事態は初めてではないのだろう。
「学校は先生達が居るから大丈夫だろう。アベル俺たちはどうする?」
「妓楼は男衆がいるから、おれたちは北門を手伝いに行こう。多分ユシャ先生達が行っている筈だ。マイラ、ヒナ、ミーク、三人は蘭香亭に避難してろ」
アベルくんが私達を促す。ユシャさん達運営委員会の人達、カジャク導師率いるお弟子さん達、国の警備隊ニニカ支部の人達がモンスターを退治すべく向かったらしい。
「私、戦えるから、手伝いに行く。」
「えっ?!ミークが?」
「ええっ!マジ?」
「あ~アベル、俺ソールに聞いた覚えがある。結構強いって。」
「ミークだけじゃないわよ。私だって魔法なら少しくらい戦えるわよ」
ミークとマイラさんの爆弾発言に軽くショック。私、何にも出来ない~。
戦うことも魔法を使うことも······逃げるだけしか出来ない。しかも、足が遅い···居るだけで足手まといだ。
ミークは昔からソールくんの練習相手をしていて最初はミークの方が強かった、と本人は言っている。
ミーク、あなたはどんだけ完璧なの。
「念の為だ。やっぱりマイラとミークはヒナ連れて蘭香亭に行ってくれ。」
「そうだな。ヒナを蘭香亭に連れて行って、余裕があったら手伝いに来てくれよ。」
「わかったわ。」
「ヒナ、行きましょう。」
「うん。アベルくん、オリオンくん、気をつけてね。」
私がいると足手まといだと思ったので素直に蘭香亭に向かう。
****
「ヒナちゃん!みんなも無事だったのね。良かった。」
蘭香亭に入ると、オルガさんが抱きつかんばかりに駆け寄ってきた。落ち着いてオルガさん。お腹の赤ちゃんに障ります。
結局、オルガさんは身重だし、雨宮さんは元から魔法は使えない。
他の人もモンスターと戦えるほどの魔法力はないと言うことで、マイラさんとミークは蘭香亭に残ってくれることになった。
アベルくん達、こうなるとわかってて二人に私を送らせたとか?
*********
「導師、状況は?」
「目立って強いモンスターはいないようじゃが、数が多過ぎる。」
一体どこから現れたんだ。この町の近くにはモンスターが大量発生する要因は無かったはずだ。
しかし、数は多いがモンスターが強くはないから不利ではない。過去にもモンスターが町に紛れ込むということは何度か有ったにはあった。しかしこれほど多くとは···
導師とその弟子達も何人か来ていて、委員会の警備係と警備隊と協力してモンスターと戦っている。
最近、導師の弟子になったシドとソールの二人も初めてのモンスターとの戦闘だが、なかなか良く戦っている。
二人ともモンスターを拳や蹴りでにダメージを与えた後、魔法でトドメを差したり、二人で連携したりして戦っている。
そこに、アベルとオリオンが息を切らせながら走って来た。
「ユシャ先生!ヒナ達は、蘭香亭に向かいました。」
「俺達にも手伝わせて下さい!」
「よし、無理はするなよ。」
「「はい!」」
アベルとオリオンは魔法で次々倒していく。こいつらも実践は初めてだが、実力はあるし大丈夫だろう。もしもの時には俺が助ける。モンスター自体はレベルが低いのだが、数が多いので体力が心配な所だ。
俺の方は、広域魔法で範囲を広げ過ぎると味方を巻き込んでしまう可能性がないとは言えないので、モンスターが固まっているところを狙い魔法を落とす。しかし、キリがない。一体何匹いるんだ。
カジャク導師が、叫ぶ。
「街中に入ったぞ!第3部隊追撃しろ!第1第2は引き続き北門からのモンスター対処を!」
北門の近くで入り乱れての戦闘だったが一部のモンスターが 町のほうに入ってしまったようだ。ヒナ達はちゃんと避難できただろうか。
*********
蘭香亭には今、雨宮さんオルガさん、弟子のトムさん、アルバイトのシャロンさん、そしてミークとマイラさん、私の7人がいる。外の様子がわからないけれど、ミークが危険察知の能力で、マイラさんが近距離のサーチ魔法で警戒してくれている。
オルガさんが「もしもの時は7~8人なら入れるバリアが張れるから大丈夫」と言ったけど雨宮さんに却下された。無理に魔法を使い過ぎたらお腹の子供への影響するかもしれない居心配してる。
トムさんとシャロンさんも「二人でならモンスターに扉を壊されない程度のバリアを作れます。···多分···」と言って扉にバリアの魔法を掛けてくれた。
本人達曰く魔法は余りレベルが高くないけれど、低レベルのモンスターを防ぐ位なら大丈夫との事。
私もみんなの助けが出来ればいいのに。私に出来ることって何だろう。
『力が欲しい?守りたい?』
今、ルーの声が聞こえたような気がした。何だろう?身体の中の何かが胸のあたりに集まって来る感じがする。
「ヒナいるか!」
「えっ?ユシャさん?」
店の入り口扉の向こうからユシャさんの声がする。
「ここは危険だ。場所を変える。出て来い」
えっ?えっ?
「どうした?早く来い!」
「みんなはどうするんですか?」
「今はお前だけでも、連れて逃げるしかない。」
みんなも驚いてポカーンとしている。確かユシャさんは警備のお手伝いをしてて、今は大変なはず。
しかも、こんな時に私だけを連れて行こうとするなんて、ちょっと、いや、かなり挙動不審。
「あなた誰?ユシャくんじゃないわね。」「あなたはユシャさんじゃない!」
オルガさんと私がほぼ同時に扉の向こうの人物に言う。
「何を言っているんですか。ヒナもオルガさんも、俺はユシャですよ」
ユシャさん擬きは焦っている。
「ユシャさんはオルガさんのこと呼び捨てです。それにユシャさんはこんな状況で私だけ連れて逃げようとする人じゃありません。」
「····」
外の人物は無言だ。
突然!
バアーン!入り口扉がバリアごと壊された。
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