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クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
22/114

お祭りに行こう②

みんなと約束した学校の正門前付近にも屋台が並び、大道芸人達がいて技を披露している。あ、皆がいた。


「みんな、お待たせ。遅くなってごめんね」

「マジに遅いぞ、ヒナ。先に食ってたぞ」


アベルくんがマイラさんの持った袋に手を入れ何かを取っては食べている。マイラさんはアベルに片思い中だと聞いたけど、結構仲いいんじゃん。

喧嘩ばかりしてるけど、それも仲よしの証拠かな。頑張れマイラさん!


「ヒナお疲れ様」「お疲れ~」


ミークとソールくんが両手に串焼きやお菓子を持って食べている。

この姉弟は結構大食漢である。

オリオンくんはシドくんと大きなお好み焼きのような物にかじり付いている。


「ヒナ、なんか食ったか?」

「ううん、まだ。でもオルガさんにお饅頭貰ってきた。みんなの分もあるよ」

「「「「「「おおっ!!」」」」」


みんなよく食べるなぁ。では、私も軽く腹ごしらえ。


食べ終わり、皆で近くの屋台や大道芸人さん達のパフォーマンスを見て回った。

ソールくんとシドくんは休憩時間が終わり師匠のカジャク導師が待つ運営委員会の本部に戻っていった。

それから、残ったみんなとお芝居を見たり、屋台のゲームをしたりして楽しんだ。

マイラさんとは、前よりは仲良くなれた気がする。マイラさんてちょっとツンデレだな。


「あれ?ミーク、あれミークのお母さんじゃない。シェラちゃん達も。」

「ホントだ。どうしたんだろう?」


ミークのお母さんが苦労して三つ子ちゃんを抱っこしてこちらに向かって歩いて来ている。


「お母さん、お父さんはどうしたの?」

「それがね、ミーク。お父さんの担当している畑の近くにモンスターが現れたって知らせが来てね。お父さん応援を頼まれて行ったの。悪いけど、ミーク手伝いお願い」

「え、あ、みんなゴメン。そういう訳だから私チビ達の面倒見ないと…」

「いいよ。私も手伝うよ」

「ヒナ、でも」

「ミーク気にすんな。俺達も手伝うから一緒に行こうぜ。いいだろオリオン、マイラ」


オリオンくんとマイラさんが

笑顔で「もちろん」と頷く。

ミークが申し訳無さそうにみんなを見る。


「アベル、オリオン、マイラさんありがとう」

「皆さんごめんなさいね」


ミークのお母さんも申し訳無さそうにみんなに頭を下げる。

みんなで交代で抱っこしながら回る。 お祭りが初めての三つ子ちゃん達もご機嫌だ。


日が暮れて来たのでミークは家族と帰るというので、そのままみんなでミークの家まで送っていった。

その後、私が蘭香亭までみんなに送って貰って解散。

お祭りはこれから夜の部で、大人だけ入場OKとなりお酒も出される。

子供は入れない。因みにこちらの国の人間は50歳以上でないと成人として正式には認められないそうだ。

下の大地だとどうなんだろう?確か寿命も違うから、成長の程度も違うんじゃないだろうか?

それにしても、ユシャさん忙しそうだったから、まだ帰れないんだろうな。


「こんばんは」

「疲れた~」

「邪魔するぞぃ」


蘭香亭で、明日の下拵えをしながらユシャさんを待っていたら、カジャク導師がソールくんとシドくんを連れてやってきた。


「導師お疲れ様です。ソールくん、シドくんお疲れ様」

「すまんがこの子達に何か食う物を頼めんかな?」

「はい。何か無いか聞いてみますね。オルガさん、雨宮さん、何か食べる物作れますか~?」

「ヒナすまねぇな~」

「オルガさん頼む~」


厨房には、雨宮さんが作った賄いがまだ沢山残ってると言うことで準備して貰った。

ソールくんもシドくんもかなり空腹だったようであっという間に平らげていた。

二人とも頑張ったからね。


「さて、満腹になったし帰るとするか」

「「はあ~」」


二人が大きなため息をついた。今から導師の家に帰るのかな。確かかなりの山奥と聞いたけど?


「そんな情けない声を出すな。今日は転移魔法で帰るぞ」

「やたっ!師匠ありがとうございます」

「助かった。師匠ありがとうございます」


今回の収穫期はシドくんはソールくんと同じように、カジャク導師の家で修行させて貰っている。

今日も二人はそちらに帰るようだ。


「アマミヤ、オルガ、世話をかけたな。ではな。」


カジャク導師が厨房の二人に声をかけ、代金を置いて転移しようとする。


「あのユシャさんは···」

「おお、おぬしはユシャを 待っておったのじゃったな。まぁ、その内帰るじゃろ」


な、何?その曖昧な答えは。


「ユシャさんは役員に捕まっていたみたいだ」

「え?」


ソールくんはユシャ様からユシャさんと呼び方を変えた。ユシャさん本人から『様』は止めてくれと頼まれたらしい。


「ユシャ先生は役員に無理やり連れて行かれたみたいだぞ」

「役員に無理やり?」

「ほぉっほっほっほ。役員には女性もおるからの。ユシャと飲みたいと強制的に連れて行かれ取った」


お酒飲むんだ。かなり飲まされるよね。

私の脳裏にはいつぞやの酔っ払いユシャさんの姿が···それヤバい···


「それではな」

「カジャク導師お帰りですか?」


雨宮さんとオルガさんが奥から出てきた。


「おぬしらも疲れておるのにすまなかったな」

「いいえ、とんでもないです。また明日も寄って下さい。内輪でささやかですが、打ち上げをやりますので。」


あ、蘭香亭で打ち上げやるんだ。雨宮さんの提案だろう。元の世界では打ち上げは何かにつけやっている事だから。


「ヒナ、またな。」

「ヒナ、また明日。」

「うん。二人ともお疲れ様。」


三人は転移魔法で帰って行った。確かにユシャさんと少し違う消え方だった。ユシャさんは確かに早いな。



―シュン


「わぁ!」

「ユシャくん!」

「ユシャさん!」


何か音がしたと思った瞬間、店の中に、いきなりユシャさんが現れた。


「う~、やっと逃げて来られた。帰るぞヒナ」

「は、はい。じゃオルガさん雨宮さんまた明日もよろしくお願いしま…きゃっ!」


ユシャさんに腕を掴まれ そのまま転移した。


「あらあら大急ぎなのね。役員って例のおば様達よね?」

「ユシャさん、大変だな.....」


バタン!

いきなり扉が開いて、年齢不詳の美女が5人賑やかに入ってきた。


「ユシャさん!」

「オルガ、ユシャさんはどこ?」「逃がさないわよ~」

「ユシャさーん、もっと飲みましょう」

「ユシャさん、怖がらなくていいのよ~」


いや、どう考えても怖いと思う·····


「ユシャさんは帰りましたよ。転移魔法で」

「え~っ、転移されたらダメね。オルガ、隠したりしてないでしょうね。」

「今回こそは潰せそうだったのに残念!」

「明日こそ最後まで付き合わせるわよ!」

「かなり飲ませたのに、効かなかったわね。」

「もっと強いお酒準備しなきゃ。」


メゲない5人の美女(?)は来た時と同じく賑やかに帰って行った。

雨宮氏は思う。魔法使えなくてもイケメンでなくても俺はいい!···と。





「ふう···」

「ううっ、また転移酔いした。うぇぇ」


いつもの場所にはアルクくんが待っていた。嬉しそうにすり寄ってくる。待たせたもんね。


「アルク、すまん。待たせたな。飯は食ったか?」

「アォン!」

「そうか。今日は悪かったな。また奴らに捕まっていたんだ。今回はかなり飲まされてヤバかったんだ。」

「クゥン」


う~ん。やっぱりユシャさん とアルクくん会話してるよね 。


「ユシャさんてアルクくんと話せるんですか?」

「あん?今頃気づいたのか?」

「アルクくんは言葉理解してるなとは思っていたんですがユシャさんがアルクくんの言葉を正確に理解してると思ってなかったので···」

「お前も魔力が強くなればアルクの言葉も理解出来るようになるぞ」


魔力が強くなる?ルーがくれた力が強くなる?


「さあ帰るぞ。乗れ」

「は、はい」


暗くなり星が輝き始めた空をアルクくんに乗って飛んでいると、まるで宇宙にいるみたいだ。

誰もいない空間に二人きり(アルクくんがいるけど)ただ、今日のユシャさんはお酒臭いのがちょっとね。


家に着いた。アルクくんは 眠いのだろう、さっさと家の 中に入っていった。

ふう、夜風が気持ちいい。


「いかん···酔いが回ってきた」

「ユシャさん大丈夫ですか。うちは目の前ですよ。ちゃんと歩いて下さいね。」


トン


え?


ユシャさんが私を後ろから抱き締めている。私の肩に頭を乗せて…


「ちょ、ちょ、ちょっと何して!」

「何にもしやしないよ。ちょっとの間、じっとしててくれ···」

「·········」


何にもしてなくないじゃないですか···この状態、抱き締められてるって言うと思うんですが?

ああ、心臓がドキドキ、バクバクして煩い。


「ごめん。俺って酷いヤツだな···お前の気持ち知ってて、こんな事して」


確信犯かよ~!


「でも、お前と居るとつい、楽チンで甘えたくなるんだよな。さっきまで張り詰めてたからキツかった~」


は?は?は?

甘えたく?あの何言って…何言ってるんですか~~~!!


「あ、混乱した?」

「目一杯混乱してます!」

「もしかしたら俺、お前のこと好きかもしんねぇ」

「·········」

「おい、大丈夫か?」

「あんまり大丈夫じゃないです」

「そっか····」

「ユシャさん、そっかってそれだけ?」


「····」


「ユシャさん?」


「…」


「まさか…」「zzz…」


寝てるし~~~!

立ったまま寝るなんて、器用すぎる。

そして、予定通りのコース。ユシャさんをやっと、アルクくんの寝床まで運んで、それから自分のベッドに潜り込んだ。

明日の朝には忘れてるんだろうな…

『お前の事好きかもしんねぇ』

マジ?本気で言ったの?酔っ払いの戯言?

ああ、また今夜も眠れそうにない。


***********


翌日、やっぱりユシャさんは昨夜のことを覚えていないみたいだ。

もう、私からイタズラしようという気はしないけどね。


「わりぃ。またお前にもアルクにも迷惑かけたみたいだな。すまなかったな」


え?驚き!ユシャさんが殊勝なことに反省してる。


「なんだ?その間抜け面は?俺だって悪いと思ったら謝るぞ。」


ああ、アルクくんの所まで連れて行ったことか。まあ、そのこととは思ったけど、ちゃんとわかってたとは意外。


「お前の中の俺の評価がわかった気がする…」

「い、いや、記憶がないのかな~と思ってたから…」


まあ、いっか。『お前のこと好きかも』なんて軽い気持ちで言ったのかもしれないけど、嫌われてないのがわかっただけでもよしとしよう。


「(う、俺、ヒナにそんなこと言ったんだ…つい心の声読んぢまった)」


あれ、ユシャさん珍しく落ち込んでる?


「お祭り二日目、しかも最終日。今日も頑張りましょう!」

「…子供は元気だな」

「何か言いました?」「いや、さっさと出るぞ。今日は終わったら蘭香亭で打ち上げだ。ガキどもも誘ってやれ」

「はい!」


今日もいい天気だ。うん。頑張ろう!


***********



今日もお祭りは大盛況。今日は下の大地から団体の観光客が来ている。服装が違うからすぐわかる。私の世界の服に似てて、一瞬、元の世界に帰ってきたのかと錯覚してしまう。

委員会から聞いていたので、どの屋台も多めに材料の仕込みをしていたそうだが、午後には完売した所も出ていた。蘭香亭も完売した。あとは夜の部に場所を譲る。

今夜は最後に花火があるので、花火の時間には子供もい居て良いそうだ。


ステージでは下の大地観光客向けに魔法ショーなるものが行われていた。元の世界でいうイリュージョン、マジックショーみたいな物だ。

下の大地の人達は魔法を間近で見る機会があまり無いらしく大盛り上がりのようだ。


午後になり少しして、ミークが私を誘いに来た。


「ヒナ、もう出られる?」

「うん、大丈夫だよ」

「あ、ミークちゃん。今夜うちで打ち上げ会やるから寄ってね。カジャク導師達にもいってあるから、ソールくん達も来るからね」

「はい。オルガさんありがとうございます。後で寄らせて頂きます」

「ミーク。アベルくん達にも伝えにいこう。じゃオルガさん行ってきます」

「いってらっしゃい」


オルガさんに見送られミークと蘭香亭の屋台を出る。

途中、ミークは観光客らしき男の人達に写真を取らせてくれと頼まれた。

下の大地は魔法より文明が発展してるとは聞いてたけどカメラが一般人にも手が届くんだ。ミークが映画館があるって言ってたから不思議ではないか…


その観光客曰わく、ミークは獣人の山猫系のリンクスという一族で美しくしなやかな肢体が特徴でマニアには人気だそうだ。確かにミークは可愛いしスタイルが抜群に良い。胸も割とあるし…

この観光客さん達って、ひょっとしてオタクなんですか?

他にもドワーフさんやエルフの方とかが、観光客に捕まって写真を撮らせてくれと頼まれていた。

観光客の皆さん、マナーは守って下さいね。


「君?」


肩を叩かれ振り向くと、知らない男の人が私を驚いた顔で見ていた。


「な、何か?」

「君は、ルセラの親戚か何かか?」


何、言ってるの?この人。ルセラさんの知ってる人?

あ、また頭の中にエマージェンシーアラームが鳴り出した。これは警備隊の隊長エルフォンスさんに会った時と同じだ。つまりルーに都合悪い人物ってことだ。


「どうした?カエサル。あっ」

「コーリン、見ろ。」


カエサルと呼ばれた濃い茶髪の彼がアラブ系のワイルドなイケメンなら、後から来たコーリンと呼ばれた金髪の彼はギリシア彫刻のような整った顔立ちの美青年だ。


「私達、急いでるので失礼します。」

「あ、失礼します。」


ミークが私の腕を取り人混みの中に逃げるように走り出す。私も転びそうになりながら一緒に走る。


「コーリン、あれはどう見てもルセラのオーラだろう」

「そのようですね」

「ユシャが連れてるというのはあの子ではないのか?やはり白の巫女ルセラと関係があるのではないのか?」


噂に聞いていたが、あのユーリ…ユシャが不思議な少女を引き取ったと言うのは事実だったか。

しかも、ルセラのオーラを纏っているとはどういうことだ?


「多分そうでしょう。詳しいことは私にも解りかねますが。」

「もらい受けるのは難しいかな。ユシャと二人、こちらに来てくれれば一番良いのだが···」

「難しいでしょうね」


カエサルは前からユシャを仲間に引き入れたいと言っていたから、何か行動に出るかもしれん。だが、まず予定の実行が先だ。


「あれ?コーちゃんじゃない」

「げっ!ニコ(なんでここにお前が居る?!)」

「コーリン。ニコとはお前の父のニコラス殿か?」

「こんにちは。コーちゃん···じゃないコーデリオンの父親のニコラス・クレイスト・クロォードです。コーちゃんお友達かな?」

「それより、なんで貴方がここにいるのですか!」

「ユーリといいコーリンといい、僕の息子達は父親に対して酷くないか?育て方間違えたかな。」

「私は貴方に育てられた覚えはありません!」

「ほら~やっぱり冷たい~。ところで、コーちゃんこそ何してるの。二人で難しい顔してさ。お祭りには似合わないよ」

「貴方には関係ありません」

「コーリンの父上、申し訳ありませんが私は急用がありますので失礼します。コーリン先に行っている」

「わかった。」


さて、この親父どうするか。放っておいても構わないが、邪魔されたくは無い。


「あれって、サルタイラの総帥カエサルだよね」

「!」

「コーちゃんサルタイラと何をするつもりなの」


カエサルを知っていたか。侮れないな、親父。ユシャにももう知れている可能性が高い。放って置くか。


「ユシャによろしく言っといて下さい。では失礼。」

「無視すんな~コーデリオン!」


はぁ···行っちゃった。

サルタイラは魔法が使えない人間を嫌っていて排除したいと考えている組織だ。

下の大地の人間は大半は魔法が使えない。サルタイラは下の大地の人間がクレッシェンドに来るのを良く思ってないのは間違いない。今日の祭りには、下の大地からも沢山の観光客が来ている。何か企んでいると考えるのが自然だろう。危険が迫っている予感がする。

もっとも、僕の感はあまり当てにならないけど。今回は当たらない方が良いしね。

う~ん。ユーリとカジャくんに報告だけはしておこう。

彼らがただ、祭り観光に来たとは思えないもんね~。



読んで下さってありがとうございます。

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