お祭りに行こう①
お祭りを表現するって難しい。お祭り、今年もいけなかったなあ。
収穫期も終わりに近づき、祭りの準備が始まった。
町の内外の人達が屋台を出したり、ちょっとした催し物もあるらしい。今回は試験的に下の大地からの観光客のツアーも受け入れる予定だそうだ。
賑やかになりそう。
例年の催し物は、大食い大会や藁運び競争の他、のど自慢大会があるとか。
今回は他にも旅回りの一座のお芝居や踊りがあり、大道芸人も沢山来るらしい。
元の世界のお祭りに似てるな~と思っていたら、何年か前から雨宮さんの意見が採用されていると聞かされた。
ニニカの商人の集まりが祭りの運営委員会を作り計画、実行しているので、雨宮さんも参加して色々アドバイスしたのだとか。
因みに氷華楼、宝珠楼と言う名前も雨宮さんの命名と聞いて納得。
この世界に漢字の名前なんて不自然過ぎると思っていたらそんな事情があったとは。
どうやら、蘭香亭の名前の漢字が『カッコいい』ので、自分達の店にも使いたいと雨宮さんに頼んでに考えて貰ったということらしい。外国人の心理ってわからないですねえ。
しかし、お祭りってワクワクするよね。今から楽しみでしょうがない。
蘭香亭でも屋台を出すと言うので、私もお手伝いすることになった。
アベルくんとオリオンくんも妓楼のお姉さんたちの屋台のお手伝いするようお父さんから言われているとの事。
なんでも、食べ物屋台とお姉さん達のフリマのお店を開くらしい。お姉さん達の古着(衣装ではなく普段着)や使わなくなったアクセサリーを格安で売るそうだ。
お姉さん達の持ち物はかなり良い品なので、毎年人気があって2日間のお祭りだけど初日に完売することもあるそうだ。
いい物が格安で手に入るなら、私だって行きたい。ミーク誘って早めに行けたらいいな。
ユシャさんも運営の手伝いで警備係として見回りを頼まれている。
カジャク導師も警備係で参加するらしい。ソールくんとシドくんも導師と見回りをするそうだし、益々みんなと一緒に回る約束の実行が心配になってきた。
***********
いよいよお祭り初日。
朝早くから目が覚めてしまったので、まだ外が薄暗いうちから準備をしていたらユシャさんに笑われてしまった。
「祭りは大人も子供も楽しみにしてるから、気持ちはわからないくもないけどな。」
「でしょ、でしょ。お祭りとか遠足の朝はワクワクして寝ていられないんですよ~」
「わかったわかった。じゃ、いくぞ」
アルクくんに乗っていつもの場所に降りる。
そこからは、いつものように徒歩で町に入る。
ユシャさんは祭りの運営委員会へ、私は蘭香亭へと向かった。
町のメインストリートから中央広場、学校の校庭も使って舞台や各出店の屋台が並び、既に準備が終わっている所もあるのか、美味しそうないい匂いがしている。
今日は蘭香亭自体は休業だ。いつもお祭りの時は、店には雨宮さんがいて通常営業をして、オルガさんが屋台を切り盛りしていたそうだ。
今回はオルガさんのお腹が大きいので、店は閉めて雨宮さんが屋台を仕切るのだ。
最近入った雨宮さんの弟子と私ともう一人のアルバイトの女の人、総勢4名が屋台メンバーだ。
メニューは焼きそば、唐揚げ、春巻き、餃子、中華饅頭等。
材料が無くなれば店じまいして雨宮さんとお弟子さんは店に帰って2日目の仕込みをする。
私とアルバイトさんはお茶と作り置きしてあったお菓子だけ売ることになる。
オルガさんが「少しは運動しないと体重増えすぎちゃう!」と訴えたのでお茶とお菓子の販売は手伝って貰うことになった。
材料を決められた屋台の場所に運び開店準備。
蘭香亭の屋台は中央広場の入り口に近い割といい場所だ。
周りを見るとよそから来たのか珍しいお店が沢山並んでいる。
リンゴ飴?綿菓子?似てる物がこの国にもあるんだ。
あっちは毛皮屋さん、おもちゃ屋、射的、小鳥屋、お酒に串焼き、まだまだ色々ある。
あれ?音楽が聞こえる。
「あれは街頭楽師といって魔法を使って一人で幾つもの楽器を演奏するのよ」
オルガさんが教えてくれた。
他にも吟遊詩人や踊り子とかも来ているようだ。
やがて、広場に作られたステージで運営委員会会長の挨拶の後、お祭りの開催が宣言された。運営委員会会長はアベルくんのお父さんだった。
なかなかダンディーな方だ。アベルくんと似てるからすぐわかる。
既に集まっていた人々がお目当ての屋台へと向かい、いつもの静かなニニカが活気に包まれている。
「君のお腹にいるのは僕達の大切な子なんだから、気持ちはわかるけど少し大人しくしていてくれ。頼むオルガ」
どうしてもじっとしていられないオルガさんに雨宮さんが必死で説得してる。
ヒュ~ヒュ~熱いね。
ステージでは既にお芝居やのど自慢大会が次々と行われているみたいだ。音だけでしかわからないけど。
「ヒナ、忙しそうね」
「え?あっミーク!」
ミークがお店に来てくれた。ご両親と三つ子ちゃんも一緒だ。
オルガさんが三つ子ちゃんに興味津々の様子。
ミークのお父さんはキリッとしていてカッコいい獣人さんだ。ソールくんはお父さん似だね。
双子でも雰囲気が違うのは男と女だからかな。
ミークのお父さんは緑の魔法使いと聞いていたので、勝手に優しげで大人しそうな人をイメージしてた。
作物を荒らす動物やモンスターを追い払ったりすると言ってたから、強いのかもしれない。凛々しくてカッコいい。
ミークからニニカの秋の収穫祭は、ニーロカ地方で一番賑やかで余所からのお客さんも多く、下の大地でも最近有名になって来ていると教えられた。雨宮さんのおかげかも。
「アベルとオリオンは午後は自由時間になるって。マイラさんもね。ソールとシドは昼休憩の時合流するって。時間が選べるから、ヒナが暇になりそうな時間に休憩を取って、迎えに行くって言ってたよ」
「わかった。ありがとう」
しかし、そう都合よくはいかない···
ソールくんとシドくんが迎えに来てくれたが、私は抜けられそうになくて「後で追いかけるから、先にみんなで回ってて」と言って二人を帰した。
その後、材料が無くなりやっと店じまい。
「後はいいから行っておいで」
今度は逆に、私がオルガさん達に追い出された。
オルガさん感謝です。
友達とお祭りっていうのももちろん楽しいけど…
···ユシャさんとも回りたかったな…
さて、みんなとの待ち合わせの場所に急がなきゃ。
集合場所は学校の正門前。
「ねえ!ちょっとちょっと君!君だよ!そこの黒髪の!」
え?私?
今日は余所からも沢山人がくるので、私の黒髪も目立たないだろうと、頭には何も被っていない。
「こんにちは。君、ヒナちゃんでしょ?」
「は···い」
誰、この人?
金色のふわふわの髪、少し垂れ気味の青い目の人懐っこい笑顔の美青年。
見覚えありません。
学校関係者···でもないよね?
「あの、どちら様ですか?」
「あ、ユーリから聞いてない?手紙で行くって伝えといたんだけど」
ユーリ?手紙?
そう言えば、ユシャさんになんか手紙来てた。
ユーリってユシャさんのこと?
「あ、自己紹介させていただきます。僕はニコラス・クレイスト・クロフォード、ニコと呼んで下さい。ユーリの···」
「クソ親父ぃ~~!」
「そう、クソ親父····ってそれ酷くな~い?」
「あっ、ユシャさん」
ニコさんの後ろに鬼の形相のユシャさんが立っていた。
「性懲りもなくまた若い子をナンパしてんじゃねえ!」
「この方、ユシャさんのお父さんなんですか?!」
若い!見た目が若すぎる!下手したらユシャさんと変わらない位に見える!
「なんだヒナか」
「なんだはないでしょう!なんだは!」
「わりい。親父が余所からの観光客か町の人にちょっかい出してるのかと思って。身内が祭りの運営委員会に迷惑かけたら申し訳ないからな」
「はい~?」
ユシャさんのお父さんで間違いないみたいです。
ん?ニコさんは?
しゃがみこんでいじいじ指で地面になんか書いてる(子供か?!)···と思ったら
「えいっ!」
ニコさんがいきなりユシャさんに何かを投げた。
「ふんっ」
ユシャさんは小さなバリアを張ってそれを止めた。
バリアに当たりそれは地面にパラパラと落ちた。
アメ玉?カラフルな包みのアメ玉らしき物が3個転がっている。
「ユーリ、そこはキャッチする所でしょう」
「俺はもう子供じゃないんだから、アメ玉が土産だとか言わせないからな」
「でも、これはトウキクのマーサの店のパチパチキャンディだよ。ユーリこれ好きだったじゃない?口に入れるとパチパチする~って喜んでたじゃない。あの頃のユーリ可愛かったなあ」
「だから、そういう昔のことを····!」
「ヒナちゃんも食べる?」
ユシャさんが何か言いかけたが、無視して私にアメ玉を渡してくる。
ニコさんなかなかいい性格してるようです。
「あ、ありがとうございます」
「こら!親父、人の話を聞け!」
ユシャさんのお父さんって本当に超マイペース···
「ヒナ、いいから行け。アベル達と約束してるんだろ」
「はい。じゃあニコさん失礼します」
ペコリと頭を下げ二人に背を向け、走って待ち合わせ場所向かった。
「ヒナちゃん、またね~」
可愛く手を振るニコさん。とてもユシャさんのお父さんとは思えない···
でも、ユシャさんのお父さんか···ユシャさんの小さい時の話とか聞けたらいいんだけどな。
「で、わざわざニニカの祭り時に来たのはどういうつもりだ?親父」
「昔みたいにパパと呼んでくれないのかいユーリ」
「パパなんぞと呼んだことは一度もないわい!」
仕方ないので親父を連れ、運営委員会の本部テントに行き休憩時間を貰うと告げ、広場から少し離れた場所で開いている店に入った。
幸い店の中は空いていた。マスターがカウンターで座りグラスを磨いているだけだ。
親父も俺も馴染みの店なので大切な話をするには都合の良い店だ。
「おや、ユシャさん。いらっしゃい。昼間来るとは珍しいね」
「どうも。マスターは祭りには行かないのかい?」
「賑やか過ぎるのはもう身体がついていけなくてね。おや、ニコかい?来てたのか」
「ついさっき着いたばかりだよ。ドガ、久し振り。10年振りくらいかな」
「いいや、100年振り位だな」
「ドガが冷たい~」
「マスター、何か飲み物を···こいつには水で」
「ユシャさん容赦ねえな」
「なんでユーリは『さん』付けで僕は呼び捨てなんだよドガ」
「···お前は···呼び捨てでいいだろ」
「えーっ仕打ちがヒドい!」
「二人で話が有るんだろ。ゆっくりして行きな」
「マスターありがとう。隅の席を使わせて貰うよ」
昼間はカフェ、夜はバーの小さな店。
カウンターと真ん中には大きめの円形のテーブル。イスは丸イスなので、8人くらい座れる。ボックス席は奥に2つ。そのボックス席の一つに座る。
「で、何しに来た」
「カジャくんにね。ユーリが女の子と暮らしてるって聞いてね」
「カジャク導師···また余計な事を」
親父とカジャク導師とこの店のマスター(ドガ)は子供の時からの友達で導師や友人達は親父をニコと呼び、親父は導師をカジャくんと呼ぶ。
実は、親父は導師とここのマスターより年上だ。容姿、精神年齢含めてそうは見えないが事実らしい。
マスターがカラル(ジンジャーエール)を2個持ってきた。
「あれ~お酒じゃないの?」
「ニコまだ昼間だぜ。ユシャさんも警備の仕事があるしな」
「マスターすまないな。親父、酒飲むつもりだったのか。で、話があるんだろう?」
呆れながらも、親父に用件を催促する。
よりによって祭りの忙しい時に来なくてもいいのに、こいつ未だに子供みたいな所あるからな。ただ祭りに来たかったのに違いない。
「ヒナちゃん、ルーに中にはいられてるって?」
「古代の禁術魔法だとカジャク導師は言ってる」
「すごいね。ルーってば、いつの間にそんなもの覚えたんだろう」
「あいつ、何考えてるやら。親父どう思う?」
「ルーのことならユーリの方がわかってるんじゃないの?」
「わからないから聞いてるんだろう!」
「ふむ···あ、ドガ、パフェちょうだい。サンドイッチとパンケーキも」
親父の観察によると、ヒナのオーラがルーと重なっているのは、相性がいいからで、見た限りでは今はヒナには悪影響は出ていないようだ。ひと安心という所か。
だが今は、だ。···だから油断は出来ない。しかし、どういう原理なんだ?
カジャク導師は禁術は力を渡した相手を乗っ取る可能性もあると言っていた。まだ今は力のみ移している最中なのかもしれない。確かにヒナの魔力は日に日に増えつつある。
「今はまだ何とも言えないから、また様子を見に来るよ」
「ああ···頼む」
「······」
「どうかしたか?」
「『来なくていい!』とか言わないんだ?へえ~ユーリ、ちゃんとあの子のこと心配してるんだ」
「当たり前だろ。ルーに勝手に異世界から連れてこられて大変な思いしてるんだから」
「それだけ?」
「は?」
何が言いたいんだ?この親父は。
「ユーリ、マジ恋愛したことある?あ、ドガ、パスタとチップス大盛で」
「はああっ?」
何を言ってるんだ、このオヤジは!
200歳超えた息子に言う台詞かあ?
「だって、お前の初恋、アレだったし、次もあんなだったし、他は向こうから寄ってきたのばかりだろ?自分から好きになったのって有ったかなって思って···」
「年中お花畑の親父に言われたくない」
「何、そのお花畑って!恋多き男とか愛の探求者とかって言ってくれない?!」
「ただの女好きだろうが!」
「酷い!ドガ聞いて!ユーリが酷い~」
マスターに助けを求めたな。しかし、昔からの知り合いならなんと言うか察しがつくだろう?
「ニコ、お前は間違いなく女好きだ。惚れっぽいしな」
「ううっ···みんなして酷い。僕はいつも真面目に恋愛してるのに~」
ひょっとしたら、また妹か弟ができてる可能性は···今は無いみたいだな。
「あ、ユーリ。コーちゃんが動き始めてるみたい。もし会えたら何をするつもりか聞いといて。ジンジャーエールおかわり」
「コーデリオンが?聞いても言わないと思うけど?」
「コーちゃんね。なんかヤバいこと企んでるみたいなんだ。へんな組織作っちゃって、サルタイラとも繋がりあるようなことも聞いたよ」
「コーデリオンがサルタイラと?」
何故?
コーデリオンがサルタイラと繋がりって?信じ難いな。
今更コーデリオンとも余り関わりたくないんだけどな。
「ユーリ、泊めてくれ···ないよね」
「ああ、ヒナがいるしな」
「聞いたパパがバカでした。じゃ、またね」
そそくさと席を立ち、出て行った。
やけにアッサリ帰ったな···はっ!
「あいつ···金払わず出て行きやがった」
目の前には奴が食った空の食器が並んでいた。
この短時間にこんなに食うとは···やはり侮れない。
クソ親父恐るべし。
読んで下さってありがとうございます。
またお越し下さいませ。