まだドキドキは止まらない
ボキャ貧ですみません。タイトルに芸がない…
確かにあいつのことは可愛いと思ってる。
ちょっかい出すのが楽しくて仕方ないのは認める。
今回はちょっとやり過ぎたかもしれないが···
それより、気になるのはヒナの意識にルセラの姿が見えたのは···?
ヒナはどこかでルセラの映像を見たのか?
やけに鮮明に残っていた。
ヒナは夢の中の少女がルセラだとわかっているのか?
あまり人の心の中を見てはいけないと思ってはいるのだが、つい、ヒナの心の中はのぞいてしまう。
俺らしくない···
また、あいつにからかわれそうだな。
その日は、なんだかユシャさんと顔を合わせづらくて、避けてばかりいた。
それでも、二人で暮らしているし、狭い家だし、自分の部屋にずっと閉じこもっているわけにもいかないので、夕食の時間には部屋から出た。そして夕食後、思い切って声をかけた。
「あの···ユシャさん」
「な、なんだ?」
食事の時もほとんど口を利かなかった私が突然話しかけたのが、かなり意外だったようでユシャさんはびっくりしている様子だ。
「今朝はごめんなさい···でも夕べはホントに大変だったんだから。酔いつぶれたユシャさんを苦労して家の中まで運んだりして、だから嘘ついたことは謝るけど他は謝らない。」
「おう、上等だ。だったら俺も謝らない」
「え?」
「キスしたこと」
「!」
「またフラウラみたいに真っ赤になった。」
笑うユシャさん。
謝らないってどういうこと?私がポカーンとしていると何故か、ふんぞり返ったユシャさんに偉そうに言われた。
「あの時、ホントにお前が可愛いと思った。だからキスした、多分。だから謝らない」
はあ?
多分?
「何ですか?その多分ってのは?」
「多分は多分だ。」
「それは答えになってません。どういうことですか?」
「もうその話は終わりだ。」
「すぐはぐらかすんだから!」
「またキスするぞ」
「う···」
勝てない···
悔しい~!絶対わざとだ。
待てよ。
待てよ。
ホントにまたキスするつもりなのかなあ?私を黙らせるための嘘?
ただの冗談?
でも本当にまたされたら····イヤじゃないって思ってる自分にヘコむ····
私ってば、ユシャさんとキスしたいの?
確かにユシャさんは見た目、カッコいい。意地悪だけど優しいところもあるし、頼りになるところもある。
あの声で耳元で何か言われたりするとドキドキする。
コレハナンデスカ?
あれ?
いかんいかん!何考えてるのヒナ!相手は超年上、242歳。224歳も年上の男の人なんて!
ジジィでしかない!
「何ぶつぶつ言ってるんだ。早く寝ろよ」
「ぶつぶつ言ってなんか···」
「明日はアルクと出かけてくるが一人で留守番大丈夫か。できるだけ早く帰ってくるつもりにはしているが。」
「え、はい。」
「一応、結界は強めに張っておくが気をつけろよ。家にも別な結界を張っておく」
頭を撫でられた。やっぱりユシャさんにとって私は小さな子供でしかないんだ···
そのことが妙に切ない。何でだろう?胸が苦しいような気がする。
次の朝早く、朝食を済ませるとユシャさんはアルクくんと出かけていった。
台所を片付けて、洗濯と掃除が終われば、私の自由時間。
お昼も食べたし、お茶の時間にでもしようかな。
ルーに魔法の練習しろとか言われてるけど、どうやったらいいかわからないしなあ。
何しようかな。
トントン
突然ドアをノックする音がした。
ユシャさんが強めの結界を張っていったから滅多な事ではここまで来られないはず。
強い魔力の持ち主かユシャさんの知り合い?
「ユシャさーん。いないの?」
男の人の声だ。
「ユシャさーん」
「あの、ユシャさんは出かけてますけど」
「えーっ行き違いかぁ。残念」
ドア越しの会話。優しそうな声だ。
「君、ヒナちゃん?」
「は、はい。」
「ユシャさんから聞いてるよ。俺、トリスタ。」
「トリスタさん?」
「ここ、開けてくれないかな?この間、一緒に飲んだ時に、あげるって約束してた酒が手には入ったんで持ってきたんだけど、預かってくれる?」
一緒に飲んでたお友達なんだ。
そう言えばトリスタって名前も聞いたことがある。
ドアをソーッと少しだけ開ける。(気分は子山羊さん、狼が来た~なんて)
「こんにちはヒナちゃん」
「こんにちは」
人懐こい笑顔を見せる背の高い優しそうな男の人が立っていた。(イケメン狼ってどこの乙女ゲーだ)
ユシャさんのお友達カッコいいけど意外に服が派手め。この世界より、私のいた世界の服装に近い。
「これユシャさんに渡しといてくれる?」
袋を渡された。ちょっと重い。2、3本入っているみたいだ。ユシャさん家ではお酒あまり飲まないんだけどなあ…
「あのさ、少し話していいかな?」
「えっ?私とですか?」
「そう、君と」
この人ホントにユシャさんの友達なんだよね?
「ユシャさんに君の話聞いて一度会ってみたいと思ってたんだよね」
「はあ···」
い、いいのかな?結界越えてきたし魔力は強いんだろうから私が抵抗しても無駄だろうしな。
ユシャさんに怒られるかな?でも、親しい人は結界入れるようにしてるみたいな事言ってた気もする。
「天気いいし外に出ておいで。あの木陰に座ろう」
預かった荷物をテーブルに置き、誘われるままに外に出て、家の前にある大きな木の下まで来た。
家にいれるわけじゃないからいっか。
「この辺りがいいかな。ほいっ」
「わっ!?」
トリスタさんがポケットから出した袋からカフェに置いてあるようなイス2脚とテーブルが出てきた。
「さ、座って」
「はい…
···」
向かい合わせに座って、なんかデートみたい。
「これだけじゃ殺風景だね。ほい」
今度はお花とティーセットが出てきた。
「わあ!すごい!トリスタさんの魔法ってすごいですね」
「え?ああ、ユシャさんこういうことに魔法使わない人だからねえ。俺は可愛い女の子の為ならどんどん使っちゃう。でも、これは魔法じゃなくて魔道具から出しただけなんだけどね」
「魔道具?」
「ヒナちゃんまだ知らないんだね。魔法で作られたり、魔法が封じ込められた道具のことなんだけど、魔法が封じ込められた物は魔具とも言うんだけどね」
ほうほう。初めて聞いた。
トリスタさんが説明してくれたのだけれど、今使ったのは魔法の袋、道具入れのような物らしい。
ゲームなんかによくあるアイテムボックスみたいな物で、生もの入れても腐らないっていう夢のようなアイテム。容量とかは作った人や使う人の魔力や魔法レベルによって違うので、持つ人が限られるという超便利グッズだ。
ユシャさんが持ってるカバンもそうなんだろうな。
「知らなかったです。勉強になります」
「何でも聞いて。わかることなら教えるよ」
「あ、ありがとうございます」
面白いし、楽しい人だなあ。
「トリスタさん呪文言わないんですね」
「呪文?ああ、あのね魔法ってね、まず念じるんだ。それをなんでも自分のいい易い言葉にして声に出すの。まあ、イメージというか、インスピレーション?みたいな感じかな」
「そうなんだ···」
呪文は決まってないんだ。だったら、魔法ってどうすれば使えるんだろう?漫画や小説では、中二病的な凄い呪文や、魔法名を叫んでるけど?
「ヒナちゃんここの生活楽しい?」
「え?ええ···まあ···」
「それは結構」
ニコニコしながらトリスタさんがお茶を淹れてくれる。
「すみません。お客様にお茶淹れて貰っちゃって···」
「いやいや気にしないで。あっそうだ。今度来た時にはヒナちゃんの手料理をご馳走してね」
「は、はい。」
「はい、お茶どうぞ。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます。」
綺麗な色の紅茶だ、良い香り。
「やっぱり茶菓子が必要だよね。何がいいかな?それっ」
「わあっ!」
目の前にスイーツが並んだ!美味しそう!タルト、ショートケーキ、チョコレートケーキ、エクレアみたいな物。
ニニカでは焼き菓子やパンは売ってるけど、こんな綺麗なケーキは見たことない。私の世界のケーキに似てる。
「トリスタさん、これ!」
「美味しそうでしょう。下の大地で買ってきたんだよ。出張に行ってた時にね」
「トリスタさん、出張って下の大地まで行ったりするんですね。こんなケーキ、ニニカでは見たことないです」
「クレッシェンドでも大きな街では店もあって売ってるんだよ。さあ食べて。」
「う~ん、美味しいです!」
甘い。ケーキ食べたの久しぶりだ。向こうではバイト代入るといつも友達と食べにいってたんだよね。
トリスタさんってすごいなあ···惚れちゃいそう。
「少しずつだけど下の大地の文化も入って来てるんだよ。後、異世界から来た人達からもね」
雨宮さんみたいな人が他にもいるんだ。召喚された人意外にも居るのかな?
「しかし君はユシャさんに助けられてラッキーだったね」
私がラッキー?口の中がケーキのカステラとクリームでいっぱいで喋れないので、首だけ傾げてみた。
「アドゥーラが見つけたらそのまま首都に連れて行かれて半ば監禁状態で暮らすはめになるんだ。まあ
サルタイラから守るっていう理由もあるらしいけどね」
「あの、アドゥーラとかサルタイラって···」
アドゥーラはアベルくん達に少し教えて貰ったけど、サルタイラは詳しいこと聞きそびれてたな。
すでに2個ケーキを平らげた私は3個目に取り掛かりながら、トリスタさんに聞く。
「アドゥーラは政府の組織の一部で防衛を取り仕切ってる。警備隊とか警邏隊とかね。政治経済に関しては元老院が一番上にあって、いくつかの省と呼ばれるものが運営してる。神殿は神殿府の管轄だな。」
「へ~え…」
「サルタイラは···表向きは環境保護団体。実際は異人種を淘汰したがってる過激派組織だ。」
「過激派?」
「魔法至上主義というか、魔法の使えない人間とか、下の大地の人間や異世界の人間、及びエルフ以外の異種族を嫌ってる奴らだよ。国の幹部の中にも関わってるやつがいるって噂だけど良くわかっていない不気味な団体だよ」
「ユシャさんは最初、私をアドゥーラとかサルタイラの人間かと思ったらしいです。」
「ユシャさんはねえ。魔力強いからいろんな所が欲しがってるんだよ。」
そう言えば、ニニカでもユシャさんは魔力が強いって話を聞いた。
「でね。よく色仕掛けで誘われたりもしてたんだ。ユシャさんも一時はかなり遊んでたから、女好きと思われたみたいだねえ。くくっ。それに、あの容姿で魔力も強い凄くからモテてたしねぇ」
遊んでたって、ナンパしたりとかも妓楼とか行ったりしてたの?
むぅ!ユシャさんのスケベオヤジ!
「ヒナちゃん、顔···」
「えっ?」
「怖い顔してるよ」
「そんなことないです!」
トリスタさんが私の顔を見てニヤニヤしてる··?
「ヒナちゃん、ユシャさんのこと好きなんだね」
「えっ!!!!」
私が?
ユシャさんを好き?
「な、何いってるんですかトリスタさん。私は18歳でユシャさんは242歳のおじいさんですよ。」
「そんなこと言ったってわかるよ。君はユシャさんのこと好きだろ?」
そんなの···
認めたくない····
だけど···
私ユシャさんが好きなんだ···なんか涙でてきた。
「あ、泣かないで!そんなつもりじゃないんだ。泣かすつもりなんてないんだから!」
魔法で出したハンカチを私に差し出すトリスタさん。
ユシャさんもこの位優しかったらいいのに···
「ホントにわかりやすい子だねえ。ユシャさんの言ってた通りだ。可愛いなあ。」
「トリスタさんも心読んだんですか?!」
「え?あれはユシャさんの特殊能力だよ。普通はかなりレベル高い人じゃないと使えない魔法だし。あ、ユシャさんならどっちでも使えるか」
「ユシャさんの特殊能力?」
あれ?あれ?
「あ、知らなかったの?」
「はい。聞いてないです。トリスタさんユシャさんのこと教えて下さい。」
「ええっ?」
「私、ユシャさんのこと何も知らなくて···」
トリスタさんは困ったように私の顔を見ながら考え込んでしまった。
「あの、そんなに話しにくいんですか?構わない範囲でいいですけど···ダメですか?」
「そうだな。ユシャさん本人に聞くのが一番いいんだけど、一緒に暮らしてる君が知らないのは、ちょっと可哀想かな。まあ差し障りない程度でなら。」
トリスタさんは紅茶をお代わりしながら話し始めた。
「ユシャさんの特殊能力というのは人の心の声が聞こえると言うものなんだ。」
「そう言えば色々バレちゃううし、イタズラしようとしてもいつも見抜かれてました」
初めてあった日にも、この間も心読まれてたんだった。
「君って命知らずというか、チャレンジャーなんだねえ」
トリスタさんが笑いながら、呆れたような感心したような微妙な感想を述べた。
「幼いの頃はユシャさんの母親が魔法で押さえてたらしいけど。母親がいなくなって押さえが無くなってから、かなり辛い思いをしたらしい。」
ユシャさんのお母さん亡くなったのかな。
「それからは魔具で押さえたり」
「魔具?」
「さっき説明した魔法を封じ込めた道具だよ。魔石とかと似たような物だよ。ただ、形が指輪とかのアクセサリーとか武器とかが多いんだ。、ユシャさんのは強すぎる能力を押さえる働きをする道具なんだよ。ユシャさんのはニニカにいるカジャク導師が作ったと聞いてる。」
「へえ~」
「今は、修行のおかげで自分でコントロールできるみたいだよ」
「自分でコントロールしてるんですかぁ?!それ、なんか悔しいです!
「でも特殊能力のせいで一時は荒れてたらしいよ。考えてもごらん。人の考えてることが空気みたいに耳に入ってくるんだよ。良いことも悪いこともね。かなりのストレスだよね。」
そうなんだ。知らなくていいことまで知っちゃうんだ。確かにそれはキツイだろうな。
「君といると楽だって言ってた」
「私といると?」
「君はわかりやすくてストレートだから力抜いていられるって言ってた。考えてることと言うことがほとんど一緒だって」
「それって、私が利口じゃないってことですか?」
「そうじゃないよ。正直で素直だってことだよ」
そう言えばバカ素直とか言われた。
「できれば君にはユシャさんのそばにいて欲しい。でも、君は元の世界に帰りたいんだよね?」
「帰りたいですけど、無理みたいだしどうしようもないの解ってます」
「ユシャさんは君が帰れる方法を一生懸命を探してるよ」
えっ!もしかして、いつも出掛けてるのって私のため?
「それより、ヒナちゃんホントに聞きたいことは他にあるんじゃないの?」
「はい?」
それは····あります。
読んで下さってありがとうございます。