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クレッシェンド〜浮遊大陸の記憶〜  作者: ふゆいちご
第1章
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学校へ行こう②

魔法の表現難しい。

「こんにちは。私はヒナ。こちらこそよろしくお願いします。ここ、いいですか?」


彼女はにっこり頷く。私は彼女の隣の席に座った。

ミークさんの髪は肩くらいまであり、柔らかそうなミルクティ色でふわふわ。髪の毛と同じ色の短い毛の生えた猫耳がピコッと動く。


「ヒナ。私は見たとおり獣人なんだけど、気にならない?」


と、少し心配そうに訊いた。


「全然。声かけてくれてありがとう」


私がそう言うと、嬉しそうに尻尾を揺らした。

種族が違うことで差別されたりするのだろうか?

それにしても···し、尻尾。猫耳とか、撫でたい···可愛い、可愛過ぎる。

手が出そうになるのを、グッと我慢する。


「私ね、両親と下の大地から移住してきたの」

「へ?下の大地?」


油断してて間抜けな声が出た。


「下の大地の町に住んでたんだけど、先月移住してきたばかりなの。」


彼女によると、ヒト族の多く住む大陸と主に魔族や獣人など多種族の住む大陸があり、気候や文化が随分違っており、文化はヒト族の大陸の方が少し進んでいるという。

でも、この浮遊大陸と下の大地が交流があるとは、ちょっと意外だった。もっと閉鎖的なのかと思っていた。

ただ、交流が始まったのは100年位前からで、移住者や観光客を受け入れるようになったのはここ数年らしい。


獣人やエルフ、魔族は共通語を話せるが、文字は違うので、こちらで暮らすなら習う必要がある。

ミークさんは見た目は私と同じくらい、実年齢も16歳だった。

双子の弟と少し年の離れた妹と弟がいるそうだ。

獣人も普通のヒト族より寿命は長く一般的には平均200歳位だとか。

ただ、獣人は戦闘能力が高いため傭兵や護衛、冒険者になる者が多く、モンスター等との戦闘で命を落としたりすることが少なくない。そのため平均寿命は職業によっては高くないらしい。でも長生きすれば500歳位まで生きることもあるそうだ。


ミークさんのお父さんは、この地方の農協のような団体に就職して仕事をしている。

この国で働くための許可を貰うのはとても大変らしい。色々面倒な手続きや資格とか、とにかく狭き門なのだそうだ。

下の大地ではやはり種族差別もあるみたいだ。

「ここ(浮遊大陸の国)は、魔法さえ使えればそんなこと(差別)はないからいいよね」


ミークさん、すいません···私、魔法使えません。


「今は、お父さんは農作業の補助や、生育を担当する緑の魔法使いとして働いてるの。」

「緑の魔法使い?」


土、水、光、風などの属性魔法の力を使い、植物に上手に干渉して生育を促したり品質を良くしたりする。

そして、それがうまく使える人を緑の魔法使いと呼ぶそうだ。力加減が難しいらしい。

ニーロカ地方には他にも沢山の緑の魔法使いが雇われているとか。

そう言えば、ユシャさんも畑で何かやってたな。

ユシャさんも緑の魔法使いなのかな?

···ミークさんも魔法は使えるらしいし、緑の魔法使い目指しているんだろうか。


今日は文字と文章、算術、このクレッシェンドの生活についてを学んだ。

私の今日の授業はお昼で終わりだ。

お昼は蘭香亭で取るようにユシャさんから言われている。

そしてユシャさんが来るまで時間をつぶす予定だ。

お手伝いでもしようかな。


ミークさんはお昼は家に帰るということで、教室を出て別れた。

ミークさんから呼び捨て許可を頂いた。友達一人ゲット···でいいんだよね?こちらに来て初めての友達だ。うん、嬉しい。



「ちょっと、あんた!」


るんるんしながら廊下を歩いていたら、いきなり後ろから大きな声をかけられた。

振り返ると、例のピンクの髪のマイラさんがいた。

『あんた』って私の事だよね?周りを見ても他には誰もいないし····


「えっと、マイラさんだったよね。何か用事ですか?」


悪い予感しかしない。


「ここで会えて良かったわ。あんたには色々聞きたいことがあるの」


ここで逢えたが百年目と言われるかと思った。

でも、やっぱりというか、多分ユシャさんのことだよね。


「どういうことでしょうか?」

「とぼけてもダメよ。ユシャさんのことに決まってるでしょう」


ああ、やっぱり···左様でございましたか。


「この間、ユシャさんが話した通りですが?何か」

「あの時は、ユシャさんの魔法で誤魔化されたけど、お姉さん達は騙せても、私は騙されないんだからね!」


あ、魔法を使って誤魔化されたのはわかってるんだ。

でも、魔法使ったのはユシャさんで私じゃないんだけどなあ···


「どうしてユシャさんはあんたを側に置いてるの?あんた、何かユシャさんの秘密とか弱みを握ってるんじゃないの?」

「そんなもんがあれば、私が知りたいですよ」

「嘘じゃないでしょうね?」

「誓って。嘘じゃありません!」


右手を上げて宣誓のポーズ。しかし、この人最初から喧嘩腰だなあ。

そんなにユシャさんが好きなのか。


「だったら、ユシャさんの所にいる必要はないでしょう?出て行けば?ユシャさんが優しいからって甘えてるんじゃないわよ」

「はぁ?」


でも、オルガさんの所には置いて貰えないし····

まさか妓楼に行くのも抵抗あるし、アルクくんとも離れたくないし···

ユシャさんと離れるってのは····


あれ?なんで私、あの家を出たくないっていうか、ユシャさんと離れるのヤダって思っているんだろう。


「ヒナ~!飯食いに行こうぜ!あれ、マイラじゃん。何してんだ?」

「アベルくん」

「げっ!アベル。なんであんたがここに!」


アベルくんがオリオンくんとシドくんを連れてやってきた。


「俺はユシャ先生にヒナのこと頼まれてるからな。マイラ、どうせヤキモチ妬いてヒナに絡んでたんだろう。」

「なっ!」


マイラさんは真っ赤になってアベルくんを睨んでいる。


「心配しなくてもユシャ先生はお前やこいつ含め子供は相手にしないって」

「アベル、私より年下のクセに生意気!」

「魔法勝負ならいつでも受けて立つぜ、マイラ」

「アベルのバカ!」


マイラさんは少しの間、アベルくんを睨んでいたが、子供みたいな捨て台詞を吐いて去っていった。

あの時はお化粧してたから気がつかなかったけど、マイラさんて実はまだ子供?


「アベル、マイラにキツいんじゃないか?」

「だってあいつ、いっつも俺にはあんなだぜ。オレより10コ上だからってさ。ヒナのことは、ユシャ先生が頼むって行ってたし、オレは悪くないけど!」


オリオンくんとシドくんがため息をつく。

10歳ってかなり上だと思うんだけど····

オリオンくんがこっそりと教えてくれた所によると、マイラさんはユシャさんファンだが、アベルくんのことが好きらしい。



***********



蘭香亭で昼食を取りながら、三人からマイラさんのことを聞いた。


「マイラの住んでた村は30年位前に、なんか変な流行病で全滅したって聞いてる。生き残ったマイラを、ユシャさんが見つけて保護したんだ。うちの店に同郷のやつがいるからってことで、うちに預けられたんだ」

「マイラはアベルの所で店の下働きをしてるんだ。ヒナはユシャさんの所にいるのに、自分は氷華楼に預けられたから嫉妬してるんだよ。」

「言っとくけど、うちでは、こき使ったり虐めたりしてないからな。まだ子供だから店にも出してないし、学校だって行かせてるし、本人がやりたい仕事があるならしてもいいって言ってあるって親父から聞いてる。」


子供って···アベルくんあなた···マイラさんも10歳も下のあなたに言われたくないと思う。なんかマイラさんに同情したくなった。

彼女も色々大変だったんだ。てか、現在進行形で今も大変そうだ。

でも、ユシャさんてば、雨宮さんといい、マイラさんといい、意外に人助けしてるんだな。私には結構キツいこと言いたい放題だけど、他の人にもあんな態度なのかなあ?

私にだけだったら、ちょっと傷つくぞ。


アベルくん達に、魔法の授業が午後からあるから見に来ないかと誘われたので、見学させて貰うことにした。そのままみんなと学校に戻ることになった。

ユシャさんが早く迎えに来たらいけないと思い、その旨オルガさんに言付けておく。




***********



事務室に行き、ライムさんに魔法の授業を見学させて貰えるか尋ねると、クーミンさんに念話して許可を貰ってくれた。

この学校の校舎はそれほど大きくないが、敷地は広い。

木や芝生など緑も多く、ちょっとした公園か牧場のようだ。そこにドーム型の大きな建物がある。体育館みたいなかんじだ。魔法の授業の他、剣や格闘技の授業もここでするそうだ。

中に入ると窓はなく天井は開閉式になっていて、今日は開いており、陽の光が差し込み灯り無しでも明るい。見学席もあり何かの競技場のような感じだ。教科書で見たローマのコロッセオを思い出させる。


クーミンさんに見学の許可のお礼をいって、授業が行われる側の見学席に上がり座る。

クーミンさんの魔法の授業か。ワクワクするなあ。


クーミンさんが結界を張った。魔法の授業で建物や他に影響しないようにするためだ。建物自体にも保護や強化の魔法がかけられているらしいが、念の為とのこと。目にははっきりとは見えないけれど、何かあるのは感じる。

過去にやらかした生徒がいるそうな···ユシャさんとかかな?

生徒はアベルくん達含め6人。


「今日は、自分の得意な属性魔法の強化練習をします。私の魔法障壁に思い切り魔法をぶつけて下さい。」


中には見た目が大人の人もいる。

特別生ってアベルくんが言ってたけど、この魔法の授業を受けてる人達みんなそうなんだろうか。


「お~やってるやってる。」

「マールさ···先生」

「先生つけなくてもいいよ。今は授業中じゃないしね」


マールさんが私の隣に座った。


「あの子達は一般のカリキュラムはもう終わってるんだけど、高等科の魔法学校目指してるから、特別生として学校に通ってるの。今回、アベル、オリオン、シドの3人だけが合格したんだよね」

「なんか、そんな話してましたね。すごいんですね」

「魔法って才能にかなり左右されちゃうのよね~」

「努力したんじゃダメなんですか?」

「努力も必要だけど、それだけじゃダメなの。天性の閃きみたいなのがないとね。半数以上の人が中級魔法で止まっちゃうのよね」


そうなんだ。確かに頑張るだけじゃダメってこと、沢山あるものなあ。


「私ね、アドゥーラにいたの。魔法も武術も頑張ってやっと警備隊に配属された。スゴく嬉しかった。私の歳でしかも女の子が警備隊に入るのって超がつく位難しかったのよ。頑張ったし、自分には才能があるんだって思ってた。」


マールさん···いきなりカミングアウト?


「でもね。任務中に魔法で失敗して周りに大迷惑けて自分も大怪我しちゃって···辞めたの。」


マールさん····突然重いです!


「ちょっと自惚れてたんだよね。いくら学校や試験で成績良くても、実戦でビビっちゃったら意味ないよね。で、スッゴく落ち込んだ。あの時死んじゃえば良かったとまで思ったりしてさ。····でも、落ち着いてきたら、怪我も治ったし生きてただけラッキー♪って思えるようになった。でも、それ以来大きな魔法が使えなくなっちゃったの。」

「マールさん大丈夫なんですか?」

「うん、強力な魔法使わなくても出来ること沢山あるし、色々あったけど、今は吹っ切れた···あれ?私、何言ってんだろ。」


え?何か私に教訓みたいな事言おうとしたんじゃないんですか?


「ヒナちゃんてなんか一緒にいると、ほっとするというか、ついポロッと話しちゃったんだよね。あはは···気にしないで、忘れて良いから」

「マールさんがもう辛くないならいいです。私に話すことでちょっとでもスッキリするなら、いつでもお話聴かせて下さい」

「ありがとう!ヒナちゃんて本当にいい子ね」

「わぁっ!」


マールさんにいきなりハグされた。


「ヒナ何やってんだよ!」


アベルくんが怒鳴る。いや、これは、不可抗力です。


「ほら、アベル。次だよ」


シドくんに言われてアベルくんがクーミンさんから5メートル程離れた位置に立つ。

新たに二人だけを包むように半透明の結界らしき膜が現れる。


「アベルは水属性、氷の魔法ね。さあ、来なさい」

「はいっ!いきます。!アイスニードル!」


アベルくんの手から氷で出来た針のような物が幾つも飛び出してクーミンさんに襲いかかる。

クーミンさんは手を前に出し光の膜をつくる。

氷の針は光の膜に弾かれる。あの膜は魔法障壁マジックバリアか?


「続けて!」

「アイスアロー!アイススピア!アイスソード!ブリザード!」


アベルくんの手から次々と氷の魔法が放たれる。

凄い……

···クーミンさんもそれをすべて光の膜で受けている。


休むことなく、いくつもの氷の魔法がキラキラ光りながらクーミンさんに襲いかかる。


「フリージングワールド!」


最後にアベルくん結界自体を凍らせた。


「アベルまた腕を上げたわね。これなら高等科にいっても大丈夫。コントロールの精度をもっと上げたいから、引き続き集中力を高める訓練をしてね。」


氷魔法は結界が解かれると同時に消えた。


「クーミン先生。ありがとうございました!」


アベルくんは肩で息をしながらも一礼して下がる。かなり体力消耗するんだ。

あれだけ次々魔法使ったらキツいだろうことは私にでもわかる。

アベルくん君はすごい!


その後、オリオンくんは雷属性で、シドくんは火属性で魔法を行使した。

みんなすごかったけどアベルくんが一番迫力あった。

これが攻撃魔法なんだ。

他にも色々な魔法があるらしいけど、私にはどれも使えない。

だいたい、異世界に来たら何かスキルが手には入ってたり魔法が使えるのがお約束じゃないのか?

まったく、責任者でてこい!


私の心の叫びを聴く物は誰もいない。




読んでいただきありがとうございます。

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