彼の事情
時間が取れたので、頑張って書いてみました。
ユシャさんが魔法で転移して出かけた後、蘭香亭に一人の女の子がやってきた。
「あれ?ユシャさんもう帰っちゃったの?」
「ああ、クーミン、また帰ってくるわよ。今日はもう終わったの?」
「ええ。あ、彼女が噂の女の子?」
「そう、ヒナちゃんよ。ヒナちゃん、こっちはクーミン、学校の先生よ」
「ヒナです。よろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げる。それにしても可愛い声だな。肩までのふわふわなオレンジ色の髪で、歳は私よりは少し上に見える。私の世界だったら先生と言うより女子大生って感じだな。
「クーミンです。炎系魔法が得意な魔法教師です。よろしく」
ポーズをつけてニコッ。かっ、可愛い!どこの魔法少女だ!
「で、どうしたの?ユシャくんに用事?」
「ノル校長にヒナちゃんのこと聞いてたし、子供達にも、今、蘭香亭に行ったら面白いもんが見られるって聞いたから、来てみたの」
「アベル達か。あの悪ガキども」
面白いって...クーミン先生、意外にミーハー?
「メセナのお姉さん達、帰ったの~?」
また一人女の子が来た。
「マール、遅いよ。あなたの家すぐそこなのに何やってたの?」
「いやぁ...おやつ食べてたから~」
おやつ...。
「あ、ヒナちゃん、この人はマール、この人も一応、先生。」
「一応はひどいよ。クーミンちゃん。マールです。こんにちは、よろしくね」
「あ、ヒナです。こちらこそ、よろしくお願いします」
「マール。ちゃん付けは止めてよ。生徒の前では先生なんだから」
マールさんは長い薄い紫色の髪をポニーテールにしてる。ちょっと眠そうな感じだけど、綺麗な顔立ちだ。
「ヒナちゃん可愛い。えっと~、あなたがユシャさんの噂の愛人?」
えっ?
「違います!違います!違います!」
慌てて否定。いつの間にか愛人になってる。
「あらあ~違った?奥さんだっけ?」
「全然、違います!」
噂って怖い…尾ひれがどんどんついていく…そのうち私、子供できてる設定になってたらどうしよう。
「あっはっは。ユシャくんが嫌がるのもわかるねえ。話がどんどん変わっていってる。ところで二人とも何か食べていく?」
オルガさん、当事者には笑い事じゃないです。さすがに私もついて行けない。
「あ、私は飲茶セット」
「私おやつ食べちゃったから、ルーフル茶を」
「はいよ。クーミンが飲茶セット、マールがルーフル茶ね。二人ともヒナちゃんの話し相手しててね」
オルガさんは二人の注文をとって奥に入っていった。
マールさんがテーブルの上を、私の方に身体を乗り出してくる。
「ヒナちゃん見た目は普通だし、私達とあまり変わらないねえ」
「でも、まだ18歳なんだよね?」
「はい…」
ノル先生が話したということは、二人とも信用できる人達って事なんだ。
ん、するとまさか二人とも年齢は...
「あの、失礼ですが、お二人の年齢をお伺いしても…?」
「いいよ~私は150歳で、クーミンちゃんが180歳。」
うぉっ!やっぱり...
「私達は40歳位から容姿の変化が少なくなるから後は魔法で維持したり進ませたりできるの」
「メセナなんかは、そういう魔法が得意というか、詳しい人多いんだよ~。お化粧の仕方とかも工夫してるし、結構、研究熱心な人多いんだよね~」
「へえぇ...」
その技術、元の世界に持っていけたら、凄いことになるだろうな。
美魔女だらけになるな。
「それにしても、みんな18歳の子に何妬いてんだろ?ああ、でも見た目は可愛いし、歳だって普通に4~50歳で通るんじゃない?これは驚異かもね」
その年齢(4~50歳)と言われるとちょっと抵抗あるなぁ。自分の親くらいの年だし...
ま、150歳とか180歳からしたら若いけど、見た目はクーミンさん達と確かにあまり変わらないと私でも思う。でも...
「ユシャさんには私は子供にしか見えてないみたいですよ」
「あ~ ユシャさんて白の巫女のルセラ様と恋仲らしいって噂あったじゃない。だからルセラ様が基準だと普通の女の子じゃダメなのかもしれないね。でも何故、別れちゃったのかなあ?」
「マール、知らないの?」
へーえ、ユシャさんにもロマンスの話あったんだ。
しかし、何気に私がレベル低いと言われてるような気がするんですけど。ルセラさんてどんな人なんだろう。とんでもないくらい美人なのか?
「え~何々?確か魔法学校でちらっと、聞いた話だけど、私、詳しく知らないんだよね。」
「確か〜ルセラ様にはセス様っていう幼なじみの婚約者がいらっしゃったのよ。でもルセラ様はその後、神殿入りされたから結婚はしなかったけどね」
「婚約者いる上に神殿入りはキツいね。それはダブルパンチだよね」
な、なんだろう?ユシャさん悲恋だったの?
それに白の巫女?神殿入り?何のことか全然わからない。
「セス様はどうなったの?」
「確か新しい婚約者が決まって結婚されたと聞いてるわ」
「ふう~ん」
???訳わかんなーい!
「はーい。おまちどおさま!」
「わあ!美味しそう」「いい香り」
オルガさんが持ってきたヤムチャをクーミンさんは美味しそうに食べてる。
マールさんの飲んでるお茶のいい香りが私のところにも薫ってくる。
「ヒナちゃんもどうぞ。このお茶ルーフル茶っていって、ユシャくんが作って持ってきてくれてるの。体が暖まるし美肌効果もあるのよ」
オルガさんが私にもルーフル茶を淹れてくれた。いい香りのお茶ハーブティーみたい。あの畑で作ってるんだ。
「ヒナちゃん。オルガさんちに置いて貰ったらいいのに。学校も近いし。ねえ、クーミンちゃん」
オルガさんの赤ちゃんできるからって断られたんだけど...でも、逆にそれなら手伝う人が多くいる方が良くないかな。何故断られたんだろう。予算の関係かなぁ。ちょっと、不自然な断り方だった気がする。
手伝い頼んであるって言ってたから、そちらを断れないからとかいうことがあるのかも知れないけど。
「それは山々なんだけど、ユシャくんには彼女がそばにいた方がいいと思うからね」
「オルガさん、私、ユシャさんの所でも家事してるし、お店の手伝いもできます。オルガさんの所にいた方がトラブルも無いんじゃないかとも思いますが、やっぱりダメですか?」
「そりゃあヒナちゃんが居てくれたら私も助かるけど、ユシャくんには、誰か近くにいて感情をぶつけられる相手が必要だと思うの。ヒナちゃんもそのうちわかるんじゃないかな。あんなに表情豊かなユシャくんは、しばらく見てなかったからねぇ」
「「ほぉ~なるほど...」」
え?な、何?
「最近のユシャくん、いい笑顔するのよ」
「実は私もちょっと嫉妬してたけど取り消します。ユシャさんてちょっと残念なイケメンだし。あ、これ私が言ったって内緒ね。オルガさん言われてみると、確かにそうですね」
「私もちょっとうらやましい、なんて思っちゃってました。でも、オルガさんがそう言うなら間違いないと思いま~す」
え?え?そ、そうなの?
クーミンさん、マールさん。な、何故二人とも簡単に納得してるの!てか、二人ともユシャさんをどういう風に思ってるの!?残念なイケメンてのは、否定しないけどさ。
「私も誰か必要としてくれないかなあ~」
クーミンさん...私必要とされてる訳じゃないですから。
「結婚したいかも~」
マールさん...私達結婚してないですから。
「ヒナ、帰るぞ。」
「「「 わっ!!! 」」」
いきなりユシャさんが現れた。
「なんだ。二人とも来ていたのか。」
「どうも~」
「相変わらず、鮮やかですね」
あ~ビックリした...
「あ、ユシャさん帰って来たのかい?」
雨宮さんも奥から出てきた。
「ユシャさん。次来るとき、これを頼めますか?」
「ああ、わかった」
雨宮さんが何かメモを渡した。そして小さな袋も。
「じゃ、ヒナちゃんまた来てね」
「はい。雨宮さんオルガさん、ありがとうございました。クーミンさんマールさん失礼します。」
椅子から立ち上がりお辞儀をする。
「祐司、オルガ世話かけたな。色々ありがとう。クーミン、マール学校の件頼んだぞ」
ユシャさんもオルガさん達に軽く礼をして、クーミンさん達にも声をかける。
「ユシャさんまかせて。じゃヒナちゃん、学校でね。」
「ユシャさん、ヒナちゃん、バイバーイ。」
この二人が先生なんて不思議な気がするけど、学校が楽しくなりそう。
「いくぞ。『転移』」
えっ?
いきなりユシャさんが私の腕をつかんだ。周りの景色がぐにゃっとなったかと思うとぐるぐるっとなった。
ぎゃ~~~~っ!!!!
何これ!気持ち悪い!目が回る!目が回る!
私の腕をつかむユサさんの手に縋る。
「あ~すごい。ユシャさんの魔法は鮮やかだなあ~。ねえクーミンちゃん」
「うん。あっという間だね。発動が早いわ!さすが、超級魔導師」
ユシャが呪文を唱えるとあっという間に二人はその場から姿を消した。
「ヒナちゃんビックリしてるわね。あんたも覚えあるでしょ?」
「ああ、初めて魔法を見たときもだが、ユシャさんの魔法はやっぱり別格だよ。スゴいな。あれは、ヒナさん間違いなく酔うだろうな...」
雨宮が異世界から来たことはこの町の一部(多分町内会規模くらい)の人間には公然の秘密である。誰も、美味しい料理を出す店を失いたくはないし、仲間意識も芽生えている。
ユシャが魔法でヒナを連れ帰った後、4人は色々と二人について、小一時間雑談していた。
蘭香亭の夕方の開店が遅れたのは言うまでも無い。
読んで下さってありがとうございます。