呼ぶ声
未熟者ですがよろしくお願いします。
誰かが呼んでる。
優しい声で。
でも、なんだか私を探すような、少し不安そうな声。
私に何の用があるのかな?
私はここだよ。
○○私はここにいるよ。
石を組んだ壁に囲まれた薄暗い部屋。
頼りない魔道具の明かりがフードを深く被った人間の影を落とす。
影は8つ。彼らは高い集中力と大量の魔力を必要とされる術を長く行使していた。
彼らが囲む魔法陣が青白く輝き、低い音を発し始めた。魔法が完成に近づき呪文を詠唱する声に力が入る。
彼らの持てるすべての精神力、魔力を注いでやっと完成する大魔法。
今彼らは大量の魔力を消費する魔法陣を使っての召喚の儀式を行っているのだ。
魔法陣の上に何か、人の形のような物がぼんやりと現れてきた。
しかし、シュン!という音と共に瞬く間にそれは消えた。
同時に魔法陣の光も消えた。
「消えたぞ!」「失敗だ!」
「魔力が足りていないのか!」
「そんなはずはない!」
「何者かが邪魔をしているのでは?!」
「他所に飛んだぞ!」「また何かの邪魔が入ったようだ!」
「導師様に報告を!」
白い壁に囲まれたその部屋には大きな窓があり、質素だが、置かれている椅子と机等は大きく重厚で、高級感があり、この部屋の使用者が高位の者であることを表している。
窓の脇には美しい模様の大きな花瓶が置かれ、色鮮やかな花達が飾られている。
その窓際には長い白い髪と同じく長い白い髭の男が立っていた。
老人のような風体にしては肌艶はよく、切れ長の青い瞳も力を失ってはいない。いかにも魔法使いといった風情だ。
男は窓の外を見ながら小さく呟く。
「召喚はされたのか?違う魔力が邪魔を?また悪あがきをしているのか。困った娘だ」
男は大きな魔法の発動が未完成のまま終息したのを感じ取り、ため息を吐いた。
「導師様!申し訳ありません!失敗です。また何者かの邪魔が入ったようです。他所に飛ばされました」
ノックもそこそこに灰色のローブの男が飛び込んできた。
「飛んだ場所はわかっているのであろう。急ぎ捜索に向かいなさい」
慌ただしく部屋に飛び込んできた男に、静かに命令する。
今までは(二回ほどだが)無事に回収できているのだ。
「はい!速やかに対処致します!」
一礼して男は部屋を出る。
「まったく、ノックするようにとあれほど言っておいたのに困ったものだ」
導師様···そう呼ばれた男はため息をついたあと再び、外に目を移す。
窓の外は午後の緩やかな日差しに包まれた街が広がっている。大きな木が葉裏を見せてキラキラ輝いている。
風が吹いているようだ。
白い大きな木···
街の中央に座する樹齢千年を越す大切な魔霊樹。
この国の象徴であり支えでもある。なんとしても守らなければならない。
「私もこの樹も年老いた。力がもっと必要だ···しかし、召喚に何らかの手出しができるとはな···あの子も力をつけたものだ」
微かに口角を上げた。困ったような面白がっているようなどちらとも言えない表情だ。
しかし、その目の奥には底知れない何かが見える。
導師と呼ばれるこの男はそれなりの高い魔力を持っているのだろう。
魔法···この世界では誰もが知る事象であり、力や強弱の差はあれ、魔法が使えて当たり前なのだ。
いや、この国では、だ。
その魔力を大量に使って一体何を召喚しようとしているのか。
―――その敷地内ではあるが先程の部屋とは離れた、ある場所。
陽の光が差し込む清浄な空気に満ちた小さな部屋で
、一人の少女が跪き意識を集中させていた。
······来た!
あの子こそが私の最良の形。やっと見つけた。
今度こそうまくやらなければ。
彼らの魔力を利用して呼び寄せ、魔法陣ではない場所に顕現させる計画。
わかってる···
あの子にはきっと辛い思いをさせてしまう。
それでもやってもらわなければならない。
一度召喚の儀式を行ったら、次の儀式まで力を溜めるのに沢山の時間が必要な彼らでは、あの場所まではすぐには行けないはず。
彼の地と都との距離は、上級魔道師でも半日、中級魔導師でも儀式で魔力を消費している彼らなら回復の時間も含めて3倍以上の時間が必要なはずなのだから。
少女は更に意識を集中させ、言葉を送るべく一心に祈った。
「···ん?なんで?なんで?なんで二人いるのぉ~~!?」
少女は頭を抱えた。
召喚に必要な魔力を横取りしたはずだったのだが、彼女が召喚したものと彼らが召喚した者、二人同時に来てしまった。
ちょっとだけ、予定外の出来事には弱い彼女であった。
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