きょうだい
節分ですね。
よろしくお願いします。
いつの間にか、小さな赤い子竜は泣き止んでいる。胸に抱きこんだ小さな子竜。ぬくもりが伝わってくる。あたたかい、とお互いの瞳を見合わせてふふっと笑う。もう痛くない、と驚いた様子の子竜。時折揺らいで不安定だった赤い光も落ち着いている。
赤い光――きょうだいの絆。絆を通してもう片方の子竜が呼んでいる。
--どうしたの? 大丈夫? 何があったの? もう痛くないの?
不安そうに安否を尋ねる感情が流れ込んでくる。
『ね、そうだ。あなたのきょうだいもここに呼ぼうか?』
心話でたずねると、きょとん、と首をかしげる赤い子竜。とってもかわいい。癒される。
--そんなこと、出来るの? と子竜。
『そっか~。竜はことばを使わないのかな? 感情が意思として伝わってくる感じだね。それとも、幼いからかな?』
どちらにしても、意思の疎通は出来るからいっか。
『うんうん、出来るよ。だって、あなた達、きょうだいの絆があるじゃない』
わたしはにっこり笑って言う。目を閉じて、ちょっと集中する。絆の先の子竜の片割れ。子竜のきょうだい。イメージして、引っ張る。ここ、わたしの心の中へ。
おいで。こっちへ。あなたのきょうだいのところへ。
絆を通して呼びかける。是、と片割れが応えた感触と共に新たな子竜が現れた。
青みがかった黒い鱗。瞳は赤の子竜と同じ琥珀。きょうだいを見るや、瞳を輝かせながらこちらにすごい勢いで飛びついてきた。思わず目を閉じるわたし。けれど、いつまでたっても、衝撃はこない。
恐る恐る目を開けると、赤の子竜めがけて何度も黒の子竜が飛びついていた。が、何度やっても互いの身体がすり抜ける。
--どうして? 何で僕のきょうだいに触れられないの?
こんなにはっきりと見えるのに。こんなに近くにいるのに。
黒の子竜の瞳は潤んでいた。わたしは、はっと赤の子竜と黒の子竜の違いに気がついた。そのまま黒の子竜の傍にしゃがみこむ。
『ごめんね。あなたとこの子、触れ合うことは出来ないんだ。わたしとあなたが触れ合うことが出来ないから』
そのことばに、今までひたすら赤の子竜を見つめていた黒の子竜がこちらを見上げた。黒の子竜の視線と初めて合う。
『いずれ、わたしはこの子。この子はわたしになる。……あなたは、この子のきょうだい。わたしとも、きょうだいになってくれないかな?』
黒竜、赤竜、子竜たちは心で意思疎通しています。不思議な絆も心のものです。竜の立場では『』は心話で意思疎通可、「」は音のみ耳に入ってくる感じでお願いします。
読んでいただき、ありがとうございました。