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赤の子竜

よろしくお願いします。

 混乱して、パニックになりそうなわたしの前にスーッと温かい光が横切った。


 この光、お母さんだ! 直感的にそう悟ったわたしは、夢中で光を追いかけ、雲の迷路を進んでいく。光が辿るのは真っ白な雲の路。けれど、路の両脇には幾つもの雲の路が続いている。灰色の路もあれば、だんだん暗くなっていき先が黒くて見えない小路もある。


 暗い路の前を通ると何だか胸がどきどきする。妙に心惹かれる路もあれば、足早に通り過ぎたくなる路もある。どんな小路も少しでも光を追う速度を緩めると、すかさずお母さんの光が点滅してわたしの小路への注意をそらす。


 まるで、道草しちゃ駄目ですよ~って言われているみたい。


 くすっと笑って、光が導く真っ白な路を行く。歩く、歩く、歩く――だんだん心が落ち着いてくる。わたしに私が馴染んでくる。耳慣れない言葉も、すぐに意味が分かる私の解説にも、おお~便利! と前向きに思う。だんだん楽しくなってきた。


 その時――何かがわたしの口の中に。

 えっっ!? 思わず口を押さえたけれど、ここじゃない。ここは、わたしの心の中。何故かわからないけど、分かる。


 意識が身体に向いた途端、目の前にはお母さんの綺麗な瞳。お母さんが指をわたしの口に入れてる?


 赤ん坊の習性で、咄嗟に指に吸いつく。


 えーん、えーん。うおぉーん。


 すごい勢いで泣いている声とイメージが伝わってきた。痛い、辛い、哀しい――そして、互いに呼び合っている。


--消えたくない!


--消えないで!


--逝きたくない!


--逝かないで!僕の力をあげるから――。


--でも、それじゃあ、わたしのきょうだいが……

わたしが消えたら、きょうだいも消えちゃう――

でもこれ以上きょうだいも保たない。

どうすれば、いいの?どうすれば!


 悲痛な叫びに思わずそちらへ手を伸ばす。今のわたしはちっぽけな赤ん坊。小さな手を一生懸命に伸ばす。じれったいくらいの速さで。ぼんやりとしてほとんど見えない、赤ん坊の視界にとらえた震える小さな塊の方へ。


 その小さな塊に触れた途端――わたしはまた雲の乳白色の世界にいた。


 泣き叫んでいる、小さな小さな赤い子竜。小さな身体をさらに小さく丸めて赤く輝く光に縋って泣いている。


 胸が痛くなるような光景。わたしはそっと近づいていく。


 私ではない、わたしは分かっている。どうすれば、良いのかを。自分より小さな赤い子竜を両腕で抱きしめる。


 大丈夫だよ、大丈夫。このまま、わたしの中へおいで。このままわたしと一緒に生きていこう。どうせごちゃまぜのわたし。あなたがいても、ちっともかまわない。









次は子竜のきょうだいたちです。

読んでいただき、ありがとうございます。

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