嵐の中で~(黒竜、赤竜)
よろしくお願いします。
荒れ狂う嵐の中、黒竜は落ちていく卵を追っていた。
--俺の、俺たちの卵が!
彼の頭の中に双子の宿命、真紅の絆がよぎる。
どんなものからも守る、と誓ったのに――
卵をつかむために加速する。時折光る稲妻が、薄暗い中で卵を白く浮かび上がらせた。流されていく卵と同じ風を捕まえ、自らの翼でさらに加速する。
竜の中でも大きく立派だとされる自分よりも小さな卵は、風に煽られ予測不可能な動きをする。琥珀の瞳で卵を見据え、翼を微調節しつつ、卵に近づく。
捕まえた!
狩りをする腕でしっかりと卵を掴み、保護するため胴に寄せた瞬間――ものすごい爆音と共に光の矢で貫かれた。
黒竜はそのまま意識を失い、卵と共に落ちて行った。
一方、黒竜の番である赤銅色の鱗をもつ赤竜。
一瞬の自失を乗り越え、黒竜が巣から飛ばされた卵の捜索をしているのでは、
と悟るやいなや巣に残された卵を掴み、巣から飛び出す。心の中の黄金の絆が指し示す方へ懸命に追っていく。
--きっときっとわたしの番が卵を見つけてくれる、救ってくれる。
大きな不安と、番への信頼。様々な感情で心の中がぐちゃぐちゃになりながらも自らの出来る最高速度で黒竜を追う。
見えた!
竜族の優れた視力は、嵐の中の僅かな光で、黒竜がまさに卵を掴んだ瞬間を捉えた。湧き上がる安堵感、喜び――次の瞬間。黒竜の上空で眩いばかりの稲妻が走る! それは幾つもより合わさり、大きな光の矢となり黒竜を貫いた。
ああああああああぁぁぁぁぁぁ!
心の中の絆が失われる物凄い衝撃、痛み、喪失感。半身が引きちぎられるかのよう。彼女の身体は固く強張り、琥珀の瞳を大きく見開かせるばかりだった。
そして、彼女の目の前で、彼女の番はゆっくりと落ちて行った。
次は赤竜かあさんのお話です。