人族とは
よろしくお願いします。
『この子は、わたしの宝物。けれど、今はもうあなたの子でもある』
ティアは、静かに続ける。
『あなた、人族とは、どんなものか知っていて?』
ティアのような生き物を見るのが初めてだった赤竜は、否、と答える。
『そう………』
ティアの金の瞳が翳った。それから、片手をあげ、自分の首まわりの黒い輪を握りしめた。ぎゅっときつく目を閉じた後、今度は意志のこもった眼差しで赤竜を見据える。
『ならば、しばらくわたしもあなたの巣へ連れて行きなさい』
決意をこめた眼差し。
『悲しいけれど、わたし達人族の赤子の身体は、この世界の生き物の中で最弱の部類よ。きちんと世話をしなければ、あっという間に死んでしまうわ。……赤子のうちから、最強を誇る身体をもつ竜族のあなたに世話が出来るとは思えないわ』
--最弱の身体? あっという間に死ぬ!?
衝撃的なことばをきいて動揺する赤竜に対し、畳みかけるように続ける。
『わたし達人族は、身体を保護する鱗もない。だから、少し尖ったものがあたれば――』
ティアは片手でその場に落ちていた尖った石を拾い、自分の腕に押し付け、軽く引く。あっという間に傷が出来て、血がにじんでくる。
--なっっ! あれしきのことで、傷がつき、血が流れるの?! しかも、成体で?!
傷ついたティアの腕を見て、さらに動揺する赤竜。
『だからわたし達は、身体を保護するため、気温に適応するために服が必要』
ティアは自分の足周りをひらひらしているものと、赤子を包んでいるふわふわしたものを示す。
『それにわたし達は、戦うための牙や爪、尻尾をもたない。逃げるための翼も、俊足もない。成長もゆっくり……この子がわたしのように歩けるようになるには、少なくとも季節一巡り分はかかるわ』
赤竜は、衝撃を受けた。まさか、人族がこれほど虚弱とは思わなかったのだ。これでは、卵の方が強い?! いや、安全?! 少なくてもあんな小石一つで竜の卵がどうにか出来るわけはない。歩くだけで、季節一巡りかかるとなると……ではそれまでの間、どうすればよいのか。赤竜は、身震いをしながら、問う。
--きちんとした世話、とは何? 服、とは、どこにあるの?
何がこの子に必要なの?
竜族の中で一番か弱い卵以下の認定を受けた主人公。赤竜母さんは人のあまりの脆弱さに、トラウマ持ちとなりました。……その後、主人公はずっと超過保護にされます、きっと。
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