絆
よろしくお願いします。
黒の子竜はわたしをじっと見つめてくる。
『あ、あのね、ここではお互い触れられないんだけど、外では……』
言いかけて、途中で口ごもる。そうだ。今のわたしは、赤ん坊。外の世界で黒の子竜が触れられるのは、人の身体。
そのとき、胸に抱きこんだ赤の子竜が話し出した。
--すごく、痛かったの。辛かったの。哀しかったの。でも、今は大丈夫。
黒の子竜が応える。
--もう痛くない? 辛くない? 哀しくない?
大丈夫なの? 僕のきょうだい。
--うん。大丈夫なの。
抱っこしてもらって、ぽかぽかする。
あたたかくて、もうきょうだいから力をもらわなくても、大丈夫。
わたしのせいで、きょうだいまで巻き添えにしなくてもいい。
もう、哀しくない。
わたしが、生きる。きょうだいも、生きる。幸せ。
少し前とは比べようがないくらいに。
黒の子竜の瞳が輝く。
--良かった! 本当に良かった!
わたしの腕の中で、赤の子竜は少し首をかしげながら、問う。
--わたしのきょうだいは、わたしの見かけが変わったら、いや?
赤の鱗も翼も尻尾もない、二本足で立つ生き物になったら?
わたしと赤の子竜は繋がっている。彼女はもう自分の身に起きたこと、そして起きることを理解していた。さらに片割れに問う。
--大空を飛ぶこともできない、足手まといのわたしは、いらない? 見たくない?
……わたしは、それでも生きていたい。だって、受け入れてくれたもの。助けてくれたもの。一緒に生きていこうと誘ってくれたもの。
たとえ、わたしのきょうだいが傍にいてくれなくても、わたしは生きていく。
決意を秘めた琥珀の瞳で片割れを見つめる。わたしと赤の子竜の繋がりを通して、口にしなかった彼女の想いが伝わってくる。
そうすれば、わたしのきょうだいも生きていけるから、と。
そんな赤の子竜を見て、黒の子竜はあきれたように首をふった。
--双竜が、互いに傍にいなくてどうするのさ。
互いに互いを助け、補い合うのが、双竜だろ。
……確かにその鮮やかな赤く輝く鱗や翼や尻尾がなくなるのは、惜しいさ。
だけど、君が君である限り、僕は君の側にいる。
空を飛びたいなら、僕と一緒に飛べばいい。僕が君をのせてあげる。
そうして、黒の子竜はわたしの瞳を覗き込む。
--僕のきょうだいを助けてくれてありがとう。
そして、僕の命も救ってくれた。君は僕たちの恩人だ。
僕は喜んで君のきょうだいになるよ。
その瞬間、新たな絆が結ばれた。
次はまた赤竜達の場面になります。
読んでいただき、ありがとうございます。