嵐~(黒竜)
初めての投稿です。よろしくお願いします。
風が、大気が震えている。
黒竜は、警戒心から伏せていた身体をぐっと伸ばした。そして、自分の命よりも大事な彼の番ごと、孵化直前の愛しい卵たちをぎゅっと抱きしめる。その途端、彼の大事な、美しい赤銅色の鱗を持つ番と目が合った。
子竜たちの誕生に胸を高鳴らせ、いつも輝いていた琥珀の瞳は、しかし今はすっかり不安に染まって揺れている。彼女の琥珀色の瞳から言いようのない不安が流れ込んできた……
--大丈夫、大丈夫だ。
心を込めて彼女の額に額をそっと重ねる。
目を閉じて自分の心を落ち着かせようとしつつも、どうしても言いようのない苛立ちが込み上げてきた。
自分たちは空の覇者ともいえる竜族だ。
自分たちを脅かすものなどそうはいない。
それでもこれから生まれる子竜たちのために天然の要塞ともいえる巣を構えたのだ。
目もくらむような絶壁、下から吹き上げる強風。
自分たちの住処に辿りつける外敵など存在しない。しかし……
目を開けて、空を睨む。
だんだん大きくなる風のうなり、不穏な大気の振動。
本能に訴えかけるような危機感。そして、その時――――
ものすごい轟音と共に巣間近上空が裂け、息も止まるような衝撃波が彼らを襲った。
一瞬の空白の後、彼が見たのは空に投げ出された彼らの卵。あっという間に風に流され、小さくなっていく。
--俺の、俺たちの卵が。死んでしまう!!
反射的に黒い翼を大きく広げ、彼は卵を追って嵐の空を滑空していく。空を大きく切り裂く稲光により、黒竜の姿が一瞬照らし出されていた。
次は母さん竜登場です。