表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひみつのアリアちゃん  作者: 友坂 悠
6/28

眠れない夜の猫。4

「そ、そ、この前の山火事の話、聞いた?」

「セントイプシロン女学園の敷地の火事でしょー。すごかったよねあれ。なんだか手筒花火が暴発したって聞いたけど」

「見てた人の話だと、すごい火柱だったってね」

「あそこ全寮制のお嬢様学校だよね? 校舎燃えちゃったってテレビで言ってたけど、大丈夫なのかな」

「それがさー、うちの学校でも生徒さん引き受けるんだってさ。あそこの経営って天城製薬らしくてさ、幸いアマギクリニックの看護師寮の方に空きがあって生徒さんたちそっちに今住んでるんだって。学校も当分再開できないからって、市内の学校に分散して通うって話になったっぽい」

ふーん、なんだかいろいろ大変そう。

ってことはうちのクラスにもあたらしい子が来るってことなのかな。

ちょっと楽しみ。

「あそこってけっこう外国からも来てるって話だったよねー。あんまり町まで降りてこないからわかんないけど、金髪の子とかもいるのかなー」

「そだよねー。どんな子がくるのかなー」

まりあちゃんとみーちゃんがきゃあきゃあ言いながら話してるのを後ろで聞きながら。

あ、だめ、

立ちくらみ。

「まりあちゃん……ごめん……」

「あ、ありあちゃん!」

「あぶないありあ」

みーちゃんに抱きかかえられたところまでは、わかった。




       ☆☆☆


え?

一瞬、何が起こったか理解するまで数秒。

ここは、はざまの世界だ。


二回目のはずなのにもっと日常で来ているかのような感覚。

理解できる。


(あれ、今日は早いな)


ナインの声。


(さ、変身しようアリア)


なんだかよくわかんないけどこのシチュエーションが何を意味しているか理解できる。

なんで?


手元にはいつの間にか魂魄堵

「ねこねこまやこんねこねこまやこん、魔法少女になあれ」

光に包まれ、ふわふわのピンクのフレアミニ、ピンクの編み上げブーツサンダル、手はうっすらピンクの手袋に覆われ、そしてやっぱりピンクのセーラーカラーにエンジのライン、白のレオタード地の服にピンクのリボン、そして胸の真ん中に魂魄堵が収まった。

あれ?

またちょっと違った格好だけど、かわいい魔法少女風。

ま、かわいいからいっか。


夢奴がゆらゆらと一体、また一体と現れて、目の前にみっつ。

う、いっぺんにみっつも?


ババ!!


いきなり意識の塊が飛んできたかと思ったら、両端のからはビュンって触手が飛んできた。


あーん、いやー。


あたしは避けるのが精一杯で。


(あーひょっとして、アリア、君、いまちゃんと意識があるのかい?)

なにそれー。

あるに決まってるじゃない。


(そっか、それは誤算だった)

(せっかくのレベル7だけど、ちょっと今の君には無理かな)


何、もう、レベルとか、よくわかんない。

あん、もうなんとかしてよこれ、これ以上よけらんない。

びゅんびゅん飛んでくる意識の塊や触手に弾かれながら、それでもなんとか致命傷にならないように避けてるけど、もう限界。

三角の黒いモヤモヤ、なんだか増えてる?

目の前が夢奴でいっぱい。

もう、いやー。


(無意識の君はそりゃあすごいもんだったよ。こんな程度はひょいひょいやっつけて次のステップに行けたしね)


どういうこと?


(今日は十日目だからさ。君のトレーニングも大詰めだったんだけどな)


え?


(意識が寝てる間なら、無意識の君なら、ちゃんと魔法が使えるって事さ。たぶん表層意識の何かが邪魔してるんだろうね)


え? え? 意味わかんない。


(まあいいや。睡眠学習じゃないけど、君に負担をなるべくかけないようにと思った親心だったんだけどしょうがないな。なんとかしてみてよ。できるんだからさ、君なら)


あーん、もう、どかどか飛んでくる塊にぶつかって限界きてる。

なにこれ、夢奴って敵じゃなかったの? ナインがやらせてるの? もういや。なんとかしてよー。


(なんとかできる筈さ。泣き言いわず頑張れ)


塊が降ってくる。

ぶつかり倒れたところに上から押しつぶされるように降る。

もう、だめ。

意識が途切れそう。


そのとき。


バン


塊たちが弾けた。


なんだよこれ


誰?


ちょっと瘴気が集まりすぎてると思ってきてみたら、どういうことさ。


誰? 男の子?


かろうじて顔をあげてみると、スリムな少年のようなシルエットの子が立っていた。

パラレルポップンピップンニャン!

手に持ったステッキをくるくるっと回すと、彼? 彼女? の姿が光に包まれ。

アニメでみるような華麗な変身シーンではなかったけれど、一瞬の瞬きのあと、清楚な感じの魔法少女スタイルに変わり。

行くよ!

と掛け声とともに夢奴を蹴散らしていった。


最後の夢奴が四散したところで、ふりかえって。

大丈夫? と手を差し伸べてくれて。

笑顔がすごくまぶしかった。すごく美人なお姉さん風な人。

男の子なんて思って悪かったかな。


(余計な事を)

ナインが彼女の前にスタン、と、降り立った。


え、あんた9号だよね。

どうして猫なんかなってんのさ。

9号N

中子さん。


(どうもこうもないよ)

(もう、ほんと余計なところにしゃしゃり出てくるんだから)

(そりゃあ君は1号だし、ボクなんかとは格が違うって言いたいんだろうけど)


そんなこと言うわけないじゃない。


っていうかこの惨状は何?

どうして一般人巻き込んでるのさ。


(この子はボクの契約者)

(素質に恵まれた魔法少女さ)

(君には関係ないね。1号A)


また博士の研究?



(ナイショ)


(君には話せないな)


ま、いいや。


で、どうする?

おれとやってみる?


(この姿じゃ分が悪いな)


(まあいいや)

(どうせ君にはどうすることも出来ないさ)

(アリアの運命は決まってるんだから)

え? え? なにそれ


ナインはそう言うだけ言うと、ゆらゆらっと消えて行った。


ん、逃げたか。

と、お姉さん。

でも顔は全然悔しそうじゃない。

むしろこの状況を楽しんでる風な、そんないたずらっ子みたいな表情で。


お姉さん、おもむろに振り返ると言った。


どうやら巻き込んじゃったみたいだね。悪いな。

って。


意味わかんないけどこの人もナインの関係者だってことだよね。


おれの名前は

あき

ま、この姿のときはあきにゃーとでも呼んでくれ。


なに、見た目はかっこいいお姉さん風の魔法少女スタイルなのに、名前はずいぶんぽっぷんで。

話し方は、っていうか雰囲気完全に男の子だし、なにこれ?



だろー?

おまえもやっぱりそうおもうよな。


え? え? あたししゃべってないよね。


まるで、心を読んだ?? それともナインと一緒??


途端に恥ずかしくてどうしようもなくなるあたし。

でも彼? 彼女? は続けた。


人間っていうのは不思議だよなー。

まるで心で喋ってることを他人に聞かれてないと思ってるんだもの。

こんなの筒抜けだっていうのに。

わざわざ声を出して話すときは、全然違う言葉に組み立て直してるの。

それもけっこう無意識にやってるんだぜ。

まぁ、考えるよりも口に出す方が早い奴もいるけどなー。


え、なんかきもちわるい


だろー?

でも、それ、お前も聞こえてるってことなんだぜ。

おれの心。

べつにおれがお前に伝えてるわけじゃないんだ。


いくつもの思考が同時にあたしの中に流れこんできて。

同時に理解した。

まるであたしと彼の表層意識が重なってるような不思議な感覚。


まるであんた人間じゃないような

人間ってなんだ?

人間って、普通のよ、ほら

普通ってなんだ?

普通って普通よ、もう、


浅いな。

馬鹿にして!

あは。

わらわないでよ。

いや。かわいいっておもってさ。

なにそれ。


羞恥心と何故か嬉しいようなそんな複雑な気持がこみ上げて。


結局あんたなんなの? 男? 女?

そんな疑問をぶつけてた。

普段言葉に出すならもう少し気を使うだろうけど今はだめっぽい。


おれはあきにゃー。ニャータイプだよ。

なにそれ。

ほら、ニュータイプって流行ったろ?  あれの俺様版。

なにそれー


答えになってない

っていうか思わず吹き出してた。

もう、お腹苦しい、笑いが止まらない。


やっぱりかわいいなー。

おんなのこはこうじゃなくっちゃな。

なにそれ、あんたも普通の女の子がどうこうとか思うわけ?

あたしの中にちょっとした反感。

どう見ても普通じゃないんだもん。この人。

すっかりそういう性別とかに囚われない人かと思ってたのに。

勝手だよね、あたし。

同時に自己嫌悪。


わかるよそれ。

え?


おれは男だからな。

どんな身体に入ってても、関係ない。

いろいろぐちゃぐちゃ考えたこともあったけど、今じゃ自信だけはついた。


って。


お前はそうだなー。ってまだ名前聞いてなかったっけ。


あたし、ありあ。

かわいいな。

あう。


ありあは女の子だよな。

う、

いまこうして意識融合してて、嘘とか言えないし。

たぶんあたしの言葉にならない感情も、彼に伝わった。


大丈夫。

女の子だよ。自信持て。


あ、あ、ありがとう。


あたしはすごくその言葉を超えた言葉に、感謝した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ