眠れない夜の猫。3
玄関をあけ靴を脱いで。
リビングにはもう人の気配がする。
まりあちゃんかな?
「おはよーありあちゃん、ありがとーねー」
リビングの扉を開けるとまりあちゃんがご飯を食べてた。
「もう、まっててくれてもいいのに」
せっかく一緒に食べようと思ってたのに。
「あは。ま、いいじゃない。そんな仲良しこよしみたいなことしなくても」
そういう意味じゃ無い。
「ん? 一人で食べるご飯はさびしいのかなー?」
もう。
せっかく作ってあげたのにそんな事いうの?
「もうしらない」
あたしも半分ずぼしさされて恥ずかしかったのもあったけど、そのあとは黙ってご飯をたいらげた。
「もう、のんびりしてると遅刻だよー」
「うん。急ぐ」
まりあちゃんに急かされながら玄関を飛び出すと、あたしはマンションの一階の店舗の窓ガラスに映る自分の姿を確認した。
うん。今日もおかしくない。
隣に並ぶまりあちゃんと、寸分の違いも無い。
たぶん、一卵性の双子だって言っても疑う人はいないくらい。
自分に自信のないあたしはいつもこうして確認するのが癖になってる。
今のあたしは中身もちゃんと女の子の筈だけど、それでもやっぱり気になる。
あたしがこんな事考えてるなんて知ったら、まりあちゃんはまたきっと、
「ありあちゃんはありあちゃんでしょう? おかしいの。あたしと一緒じゃなくたっていいじゃない」
なんていうに違い無い。
でも、だめ。
違うってわかってても、ダメなんだ。
あたしはまりあちゃんと同じでないと、ダメ……
白いブラウスに紺の紐のタイ。スカートはやっぱり紺の膝丈プリーツで。
セーラー服がよかったな、って言う子もいるけど、あたしはこの制服は好きだ。
まわりの学校はけっこうセーラー服が多いから、うちのはちょっと大人っぽく見えるし。
冬服のブレザーは、胸にエンジの校章のエンブレムがついてて、ちょっとかわいい。
「おはよーありあまりあ」
「おはよーみーちゃん」
あたしたちの後ろから小走りに近づいてきて挨拶してくれたのはちょっとボーイッシュなみーちゃん。
あたしたちと同じクラスでけっこう仲がいいおともだち。
ショートカットで背も高くって、けっこう宝塚系。
あたしの秘密は今の学校じゃまったく内緒にしてるけど、実はみーちゃんだけは知ってる。
幼稚園のときに同じ組だったらしく、そのときの事は実はあたしはあんまり覚えてないんだけどみーちゃんから声掛けられて知ったのだった。
みんなにはもちろん内緒にしてくれてるし、いろいろ困った時にはさりげなく助け舟だしてくれるし、ほんと助かってる。
「EJみたよー。あいかわらずかわゆいよねー」
あ、こないだの水着の。
もう載ったんだ。早いな。
「でもあれまりあだよねー。名前ありあになってたのになんでー?」
「あはは、わかった?」
「そりゃあわかるよー。あ、でもクラスじゃわたしくらいじゃない? あんたたち完全に区別できるの」
それもちょっとうれしい。他の人には区別できないのなら。
「あれはありあちゃんがごねてねー。あたしが行かされたんだよ。ありあちゃんの水着が良いってご指名のカメラマンさんだったのにね」
「それはざんねん。わたしも見たかったなー」
うー。
今だったらいくらでも見せたっていいよ、って言いたかったけどまだ体が変わったことまだみーちゃんには内緒にしてるから言えない。
それに。
魔法、だ、もんね。
いつもとに戻っちゃうかわからないし。
それに。
魔法を使うと、フツウの男の子になるかも、だなんて。
そんなの嫌だ。
ナインには平和がいい、なんて言い方したけど、本音はこれ以上魔法の力を使いたくない。
心が変わっちゃう、なんて、嫌だ。
そんなの、あたしがあたしじゃなくなっちゃうのなんて、絶対嫌。
でも。
今の体でいられるのって、ナインと契約してるから?
もしあたしが戦うの拒んだら、もとに戻っちゃう?
それは、悲しい。
うだうだ考えてたら、なんだか頭の中が混乱してきた。
なんだか最近夜あんまり眠れてない気がしてたけど、寝る前ってこんなことうだうだ考えちゃってた気がする。
何故かよく覚えてないんだけど、そんな気がする……