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ひみつのアリアちゃん  作者: 友坂 悠
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エンジェルレイヤー 3

 びっくりした。

 あの日の思い出がフラッシュバックして。

 

 びっくりして固まって動かないもんだから彼女はちょっと困惑しながら色々話しかけてくれた。

 なんだか一人で寂しそうだったから声かけたんだよとか、せっかくの学祭なんだから楽しまなきゃ損だよとか、屈託のない笑顔で。

 少し、嬉しくなって。

 涙が出そうになって。


 あたしのこと、覚えててくれたのかなって。すごく嬉しくて。思わず声に出してた。

 

 ねえ

 あたしのこと覚えてる?

 って。

 

 少し涙声だったかもしれない。

 あたしの顔、多分くしゃくしゃで、恥ずかしくて。


 でも。

 彼女の困惑した表情は、期待とは正反対に見えた。

 

 そしてその表情から、最悪な答えが返ってくるのを彼女が答える前に悟ったあたしはその場から一目散に逃げ出した。






 だいたいあたしなんてめんどくさい奴好きになってくれる人なんているわけないんだ。

 ダメダメダメなあたしなんて、好意を持ってもらえるわけなかったんだ。

 ちょっとでも覚えてくれてるなんて思ったあたしがバカだった。

 あの日の楽しかった思い出を後生大事に胸の中に仕舞っておいたのが恥ずかしい。ほんのひとっかけで、も、同じ想い共有して貰えていたら、と、そんな儚い希望持って話しかけてしまって、あたしってほんとバカ。ほんと、穴があったら入りたい。

 彼女にしてみたら、あんなの何時でもやってる事、誰にでも優しい彼女の日常。

 きっとあの時も一人でいるあたしを哀れんで声をかけてくれただけなんだ。

 いつもの、誰にでも与える親切。

 おばあちゃんがいたら荷物を持ってあげる、みたいな。

 そんなおばあちゃんの顔いちいち覚えてない様に、かわいそうな女の子に声をかけただけのたった一日の出来事なんて、覚えるのに値しない些細な出来事だっただけの事。

 あたしが悲観にくれる必要なんてどこにも無い筈。

 な、の、に。


 ダメだダメだダメだ。

 悲しい。

 心が砕けそう。

 なんで?

 理性では諦められる程度の事なのに、感情は正反対。

 まさか、恋?

 だって彼女女性なんだよ?

 男の子みたい、って、最初はちょっと思ったけど、それでもその時だってちゃんと女の子だって認識した筈。

 じゃなきゃ、まさかあたしが見ず知らずの男の子と一緒にたとえ一時的だといえ遊んだりできるわけが無い。

 男の子だと思ってたらまともに話せるわけがそもそもないのに。



 走って逃げ出したあたしを見て彼女はどう思ったのだろう?

 困惑してる表情は読み取れた。

 っていうかたぶん、彼女、あたしの名前知らないよね。

 名前どころかあたしがここにいる人間だっていう把握さえない。

 初めて見たって目だった。


 初めて見たっていう目。

 何か異質なものを見たかのような。

 辛い。

 悲しい。

 あんな目は、悲しい。



 走って走って荷物をまとめて帰ろうと教室まで戻ったところで、教室の中から人の気配がしていたと思うと、すぐ、って聞こえた。一瞬自分の事言われてるとは思わなかったけど、内容から理解した。

 空気読めないよね。とか。何であの子だけ何もしないの? とか。


 サボってるわけじゃない。

 好きで何もしないんじゃない。

 拒絶されてる空気を読んでるんだよ!

 何で? 何でこんな事言われなくちゃいけないの!


 悲しい、悲しい、悲しい……

 もう、ここに居たくない。

 心がパンクしそう。


 あたしは逃げた。

 元来た道を。

 どうせ校内の敷地を出ればすぐ家だ。

 荷物なんかもう持って帰らなくてもいい。


 泣きながら走ってもう絶対いないだろうから大丈夫、と、聖堂の裏から帰ろうとしたあたしは何故か未だに佇んでる彼女を見つけてしまい。

 思わず身を隠そうと聖堂の非常口から中に潜り込んだ。

 普段ここは割と自由に入れるようになってる。一応クリスチャン系の学校っていうことになってるっぽいからか、お祈りに来る子もいるからだろうか。

 静まり返ってる中でも一部人の気配がする場所もあって、あたしは控え室の一室に滑り込んだ。人に見られたくはなかった。


 思いのほか広い部屋だった。

 真っ白の大理石風な壁。床にはふかふかの真っ赤な絨毯。あんまりにもその絨毯が気持ちよくてあたしはその場で寝そべった。汚い、とか、思えなくて。

 息が切れて苦しかったのもあったし、思いっきり泣きたかったし。

 ここで目の前に天使の絵でもあったら世界名作劇場だな、と、このまま死んじゃってもいいかな、とか、まるでフランダースの犬みたいな感傷に浸ってた、とき。


 天使が降りてきた。


 その時は本当にそう思った。


 こんなダメなあたしでも天使のお迎えが来てくれたのかなって。

 聖堂で横たわって、もう終わりって、こんな祭りの夜に誰にも気にされずに死ぬって最高かな? そんなバカなことを考えてしまった時。


 光に包まれたそれは両翼を羽ばたかせた。

 眩い瞬きが辺り一面に溢れ、幻想的な薫が漂う。


 あたし、壊れちゃった? そう思った。


 現実ではないのならこれは夢なのだろうけど、気を失ったあたしが幻想を見ているのか、と。何か変な薬でも嗅がされたかのように意識がはっきりしないけれど、反面、思考がこれを現実の延長だと指摘する。

 

 ゆったりと舞い降りてくるその姿は本当に綺麗だった。

 剣を持った美少女風で、黒い大きな翼を羽ばたかせ。

 天使って白い翼だと思ってたけれどこの天使の羽は黒くてでもとても美しかった。

 漆黒の美。そう、そんな言葉では言い表しようがないけれど。

 

 時間が止まったかのようなゆったりとした時間をかけて舞い降りた天使はその羽をたたむと、右手に持った剣を振りかざし、あたしの目の前に剣先を向け、止めた。


 本当にお迎えが来ちゃったのかな……

 あたし、死んじゃうのかな……

 あ、あたしが死んだらクーが悲しむ。

 あの子一人に出来ない、よ……

 

 そう、まだ、ダメ。


 あたし、まだ死ねない!

 


 天使は剣を下ろし、笑った、ような気がした。


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