(8)
「なんで……」
頬に涙が伝う。星夏の言葉は、私の中に 突き刺さった硬い何かを、みるみる溶か してしまうみたいだ。
私は、ママの愛が欲しかった。ママに幸 せになってほしかった。なのに、実際はそうなら なくて、現実に絶望していたんだ。
「あとね、男に幻滅するしかない自分が 悲しかった」
アルコール中毒になって、まともな社会 人生活を送れなくなったパパ。
ママのお金や時間を利用して楽してたマ マの彼氏。
『男の悪い見本』の典型。
でも、頭のどこかでは分かっていた。世 の中には、そんな男ばかりじゃないって ことを。
登下校中、楽しそうにデートしてるコ達 を見かけて、本当はうらやましかった。 そういう気持ちになることすらこわかっ た、私は。
自分の経験と矛盾した世界で自分を保つ には、『世の中の男はみんな腐ってる』 と思うしか方法はなかった。
間違っていようが、嫌われようが、私は 生きなきゃならなかった。
ただ塩辛いだけで、美味しくもなんともな い日常を。
「俺、シラユキちゃんの近くにいたい。 物理的にも、心理的にも」
星夏が言った。
「一目惚れ、とはちょっと違うけど、正 直言うと、シラユキちゃんに対して友情 以上の気持ちがあるんだ」
「なにそれ。意味分かんないし」
「だよね」
星夏はヘラヘラしている。
「この気持ちを色に例えると、柔らかい 黄色とピンクを足したような感じ、か な。夏の始まる前みたいに、ヒリヒリし た空気とかを連想する、みたいな」
「もっと意味分かんないって」
私は、さっきより素直な気持ちを吐き出 した。
「アンタとなら、友達になるのも悪くな いかな」
「俺の中には、おさえきれないほどシラ ユキちゃんへの愛が溢れてるのに?」
「愛? そんなの信じないから。口にす ると薄っぺらい感じがする」
それに、急に今までの生き方を変えるの も無理だし。
「だね。うん。分かったよ、シラユキ ちゃん!」
星夏は朗らかに笑い、
「『愛してるは禁句』!」
と、宣言した。
まだ、私達の関係がどうなるかは分から ないけど、悪いことにはならない予感。
『愛してるは禁句』
一見マイナスでネガティブな一言は、私 達のスタートになった。
(完)
こんにちは。蒼崎慶と申します。
作品のみならず、あとがきにまで目を通してくださり、本当にありがとうございます。
こちらの作品は、小説サイト『魔法のiらんど』で行われていた、ツイッター連動角川恋愛小説のコンクールに挑戦したくて書いたものになります。
その頃、時間がなくギリギリの完結になってしまい、こちらでは加筆しながらの更新になりましたが、出来る限り元の作品のままで公開させていただきました。
短い文章の中に、『愛とは何か』というテーマを込めるのは難しいと感じ、また、恋愛小説になっているのか不安にもなりましたが、今回、コンクールの規定を守りながら創作するという体験ができたのは、本当に良かったと思っています。
数ある作品の中から本作品を見つけてくださった読者さまに、心より感謝をこめて。
少しでも楽しんでいただけていたら幸いです。
最後まで読んでくださり、本当にありが とうございました。
全ての読者様に感謝をこめて。
蒼崎 慶