(6)
「いい名前だと思うけどな」
星夏は心底感動したみたいに言う。否定 するのもアホらしくなってきた。
「こんな名前、ただの飾りだよ」
「飾り?」
星夏が、キョトンとする。私は淡々と 言ってやった。
「私、雪の降る日に産まれたんだって。 真っ白な雪景色のようにまっさらで幸せ な娘に育つようにって願いを込めて名付 けられた」
「いい話だね」
星夏が、おとぎ話に夢中な子供みたいな 表情でこっちを見る。私はわざと、視線 を電柱に向けた。
「いくら名前に想いを込めたって、現在 (いま)が破綻してたら意味 ないし」
星夏は、どんな感情がこもっているのか 分からない声音で、
「シラユキちゃんち、破綻してるの?」
「してる。パパは重度のアル中。それが 原因で、私が小さい時、ママとパパは 別々に暮らすことになった。っていっても、当時のことはよく覚え てないんだけどね。時々、パパが大声で何かを叫んでた、っ てことくらいしか。
パパ、お酒飲んでない時 は優しかったんだけど」
「そっか。そんなことが」
「離婚後、ママは違う男と付き合って、 ボロボロになって。恋とか愛とか、バカ みたいだなって思うよ、私は」
「だから、周りに壁作ってるんだ。シラ ユキちゃん」
星夏は、穏やかながらも感情がない目で つぶやいた。
「分かるな。俺んちも破綻してるしー。 子供は肩身狭いよねぇ」
「は?」
この、能天気そうな天然正義感の家が、 破綻?
私は、すぐには信じられなかった。
「あ。今、俺に興味持ってくれた~?」
「なっ!」
急に、晴れやかな表情を見せる。星夏が 何を考えてるのか、分からない。
「シラユキちゃんになら、話してもいい かな」
「別に、私はアンタの家庭の事情に、興 味なんか!」
「聞いてほしいんだ。何も言わなくてい いから」
優しい声音なのに、圧倒される何かが あって。
私は黙って星夏の話を聞くことにした。
「ウチの母さん、精神的な病気になっ ちゃって。父さんがひどい浮気性でね。
俺が小さい頃から、父さんは色んな人と 浮気を繰り返してて、それを隠そうとも しなかったから、母さん、働きに出られ ないくらい落ち込んで」