(3)
この強さが、私を守ってくれる。
「自分を守れるのは、自分しかいない。 だから、私は、このやり方を変える気は ない。
アンタに嫌われたって、痛くもかゆくも ないから、好きにしてよ」
「お前、自分の守り方間違えて る……!」
男は、私に近付き、言った。
「教えてやるよ。自分を大切にする方法 を!」
「は? また、ヒーロー気取り? そう いうの、求めてないから」
どことなく熱い男の視線から逃げるよう に、私はその場を駆け出した。
なにやってるんだろ……。
ひさしぶりに、あんなにしゃべったかも しれない。しゃべり過ぎたな。
あの男が悪いんだ。この私に向かって怒 りをあらわにするから。だから、私もつ い、言い返してしまったんだ。
ママのことなんて、誰にも言ったことな かったのに。
私はね、他人に自分の領域をめちゃく ちゃにされるのが許せないんだ。
人はみんな、自己中な生き物だ。こっち の事情なんて関係なく好き勝手にやって くれる。それを見てみぬフリできるほ ど、私は人間できてないからね。
たとえば、ドラマや小説なんかによくあ る「愛してる」って言葉。あれほどウソ ではかないセリフはないよね。
ママの恋人だった男も、ママによく言っ てた。
「愛してる」
『あなたを自由に操りたいです』の間違 いじゃないの?
愛なんて、しょせん人の幻想。理想的な 妄想。
私はそう思う。
私はね、誰の指図も受けずに生きていく。
翌朝だった。そんな私のライフスタイル を崩す出来事が起きたのは。
「おはよ! 不機嫌さん」
校門の前に、昨日の男が立っていた。し かも、笑顔で私に声をかけてくる。つー か、『不機嫌さん』て何? 私のあだ 名?
無視して通りすぎようとすると、同じ高 校の制服を着た男は、私の横に並んだ。
「思いのまま、自由に生きてるって言っ てたクセに、いつも不機嫌そうな顔して る。だから、不機嫌さん」
「…………」
「俺は、星夏! 岬星夏」
「訊いてないし」
「知ってほしかったんだよ、不機嫌さん に」