(2)
私の何が気に入らないのか、その男は こっちに向けてこんなことを叫んだ。
「本気で好きでもないクセに、他人の彼 氏誘惑して虐げて、楽しいかよ!?
そんな生き方してたらな、いつか痛い目 見るぞ!」
なるほどね。
こいつは、たぶん、お人好しに分類され るタイプの男だ。で、私に男を取られて 泣いている女の代わりに、こうして直接 文句を言いにきた、と。
いつの時代の青春ドラマだよ。『人のた めに何かをしてあげる~』って? そ れって楽しいの?
「ハハハッ」
思わず、吹き出した。
「何がおかしいんだよ!」
怒ってる怒ってる。こわ。
男に対し、私は侮蔑の視線を 向け、
「それって楽しいの? イライラして、 つまらなさそうだけど」
「え?」
「人を助けたって、意味ないし。利用し た者勝ちでしょ」
「何、言ってんだよ……」
「アンタ、私に言ったじゃん。いつか痛 い目見るって。でもさ、本当にそうだと 思う?
ウチのママは、男に利用されて貯金のほ とんどを失った。助けたいって情をかけ るたびに、裏切られてた」
「え……」
男の顔が、怒りから動揺に変わる。私は しゃべり続けた。
「世の中にはね、利用する者、される 者、二種類だけしかいないの。どっちが 痛い目を見るか、子供にだって分かると 思わない?
私はね、ママみたいに傷つけられてみ じめな思いするのは嫌なの。
だから、利用する側になった。面白い よ。周りの人間を操作できるってのは。
アンタだって、やってみれば分かるよ。 この快感が」
いつの間にか、男の顔は悲しみに染まっ ていた。
「人間は、そんなにバカじゃない。今は それでいいかもしれないけど、いつか、 お前は皆に嫌われて、相手にされなくな るぞ……」
「いいよ。別に、それでも」
嫌われるのには慣れた。今も、私はたく さんの人から憎まれている。
この男だって、私のことを嫌ってる。
学年の女子だって。
時々、私物が無くなるし。
でも、こわくない。そんなこと。