PART.6 片道切符、強制執行
「ーー誠也。今日の夜、私の家に来なさい。両親は出張で不在よ」
テスト前日の放課後。美香が「清楚な微笑み」をフル稼働させながら、俺の耳元で囁いた。 周囲の男子からは、もはや殺意を超えて「呪い」のような視線が突き刺さる。
「……お断りだ。お前の家に行ったら、今度こそ俺の脳が物理的にレ〇プされる。俺は一人で、家で静かに『理科のイオン化傾向』と向き合いたいんだ」
「ダメよ。あんたのその心もとない暗記力じゃ、明日の朝には全部忘れてるわ。……いい? これは命令よ。もし来なかったら、あんたが中学の修学旅行で買った『龍が巻き付いたデザインの剣』を撮影して、生徒会広報の公式SNSにアップするわよ」
「……お前、どこでそんなもん見つけたんだよ! ……わかったよ、行けばいいんだろ、行けば!」
こうして俺は、全校生徒が憧れる聖域 、「白雪家」への切符を、脅迫という名の片道切符で手にすることになった。
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白雪家は、予想に反して普通の、いや、少し立派な一軒家だった。 だが、案内された美香の部屋は、どこか異様な空気が漂っていた。 清楚な白い壁紙、清潔感のあるベッド。……しかし、本棚の奥には、タイトルを二度見したくなるような「シナリオ重視(笑)のPCゲーム」がぎっしりと並んでいる。
「……あー、マジで疲れた。ブラジャーの締め付けから解放される瞬間が、一日で一番幸せな時間ね」
部屋に入るなり、美香は制服のシャツのボタンをいくつか外し、ベッドの上に大の字になった。 ……おい、この女。俺がいることを完全に忘れてないか?
「……おい美香。一応、男が部屋にいる自覚持てよ。あと、その……なんだ、本棚の『清楚な委員長が堕ちるまで』っていうタイトル、隠す努力くらいしろ」
「あら、誠也。あんた、私の体をそういう目で見てたの? 気持ち悪いわね。……でもいいわよ。もし明日の五教科合計で、神崎に100点以上の差をつけて勝ったら、この『清楚な委員長(私)』がどうやって堕ちるのか、実演してあげなくもないわ」
「しなくていい! 100点差なんて、あいつが名前を書き忘れない限り無理だろ!」
「ふん、弱気ね。……さあ、最後の仕上げよ。理科の『生殖と遺伝』の範囲。……ここは私の得意分野だから、覚悟しなさい。あんたのその貧弱な想像力でも、一発で覚えられるように『実技指導』も混ぜてあげましょうか?」
「実技ってなんだよ! 顕微鏡でも出すのか!? お前の例え話、どんどんアウトな方向に進んでるぞ!そもそも、試験範囲じゃないのに教えるとか、完全にお前の趣味に付き合ってるだけだろうが!!!」
「別にいいじゃない。もしかしたら抜き打ちで出る、とかなんていくらでも考えられるわ。」
美香はクスクスと笑いながら、ベッドから起き上がり、俺の隣に座った。 部屋に充満する、さっきよりも少し濃いシャンプーの香りと、彼女の体温。
「いい? 誠也。遺伝の法則……優性の法則はね、どっちの『性癖』が勝つかってことよ。たとえば、Mの遺伝子とSの遺伝子が混ざったら、絶対にSが勝つの。……そう、私みたいにね」
美香の顔が、指一本分も空かない距離まで近づく。 その瞳には、いつもの毒気とは違う、少しだけ熱を帯びた光が宿っていた。
「……誠也。あんた、なんで私と一緒にいるの? 脅迫されてるから? それとも……この『中身の腐った私』を、本当は気に入ってるから?」
「……」
誠也の心臓が、自分でも驚くほど大きく跳ねる。 美香の「清楚な皮」を剥ぎ取った、その奥にある本当の素顔。 毒舌で、下品で、傲慢で、けれどーー自分にだけはその醜さをさらけ出してくれる、この「呪いの幼馴染」
「……お前みたいな性格の悪い女、気に入るわけないだろ。……ただ、まあ。お前のツッコミ不在な暴言を聞き流せるのは、俺くらいしかいないからな。……だから、まあ……管理人として、仕方なくだよ」
「……ふん。相変わらず、20点の男らしい、つまらない答え」
美香は少しだけ寂しそうに微笑むと、パッと俺の頭を小突いた。
「さあ、お喋りは終わり! 朝まで寝かさないわよ、誠也。明日のテスト、一問でも間違えたら……あんたのその『未使用のペン』、私が強制的に『インク切れ』にしてあげるから」
「ペナルティがだんだん多くなってるんだよ!!それに言葉のチョイスが最後まで最悪なんだよ!!」
結局、一睡もさせてもらえなかった。 俺の脳内は、美香の吹き込んだ「下ネタ交じりの公式」でパンパンになり、胃壁はストレスでボロボロになりながら、運命の中間テスト当日を迎えることになった。
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