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※閲覧注意 「幼馴染の定義」とはいったい何なのだろうか  作者: 霜月轟轟(しもつき ごうごう)


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PART.3 教育実習と削られる精神


「いい? 誠也。この関数のグラフを、女の足の曲線に見立てて解説してあげるわ」


生徒会室に置かれた、高い革張りのソファ。 白雪美香は、その背もたれに横暴な態度でふんぞり返り、俺の数学のワークをシャーペンでなぞった。 さっきまで「次期生徒会長候補」として神々しいオーラを放っていた彼女は、今やただの「口の悪い家庭教師 (闇属性)」だ。


「ほら、ここが頂点。ここから急激にイッちゃうのよ、yの値が。……あら、赤くなってる? 誠也、あんたやっぱり脳みその半分がエロ動画でできてるのね」


「……お前がそう言ったんだろ! つーか、普通に教えろよ! なんで数学の公式が全部R18指定みたいなニュアンスになるんだよ!」


俺、黒峰誠也は、叫びたいのを堪えて小声でツッコむ。 廊下にはまだ、居残りの生徒や掃除中の奴らがいるかもしれない。この声が漏れたら、俺は「聖女に卑猥な妄想をぶつける最悪の変態」として、明日の朝には社会的処刑 (ギロチン)行きだ。


「失礼ね。私は抽象的な概念を、あんたの低俗な知能でも理解できる『具体的かつ本能的な事象』に変換してあげてるのよ。感謝して膝をつきなさい。なんなら、このxの変域を『ガーターベルトの締め付け強度』に例えてもいいわよ?」


「やめろ! 集中できるか! 公式が全部ピンク色の霧に包まれて消えていくだろうが!」


「ふん。……でも、あんたが赤点なんて取ったら、私の『完璧な彼氏』という設定にヒビが入るのよ。偏差値70超えの私と付き合っておきながら、数学で20点? 冗談じゃないわ。世間は『白雪美香は男を見る目がない』じゃなくて、『白雪美香の愛が重すぎて、彼氏の脳が壊れた』って噂するに決まってる」


「……それはそれで、あながち間違いじゃないのが腹立つな」


俺はため息をつき、ノートに向き直る。 美香はクスクスと喉を鳴らしながら、俺の耳元に顔を近づけてきた。 石鹸の香りと、毒素の混じった吐息が鼓膜をくすぐる。


「……ねえ誠也。この問題、正解したら、私の『清楚な秘密』を一つ教えてあげてもいいわよ。たとえば――今の私の下着の色とか」


「……」


「あら、ペンが止まったわね。やっぱり誠也、あんた、私のことそういう目で見て――」


「黙れ。『清楚を装うための嘘の話をどうやって考えてるか教えるだけの気のない話』だろ? お前のその1パターンしかない下ネタのパターン、もう聞き飽きたんだよ。あと、その『私が誘えば男は落ちる』みたいな安い女の余裕、見てて痛いからやめろ。鏡見てこい、性格の悪さが顔に出てて、もはや般若に見えるぞ。そもそも、勝手に偽カレシにしたのはお前だろ」


一瞬、美香が呆然としたように目を見開いた。 無理もない。あの時と一言一句変えずに同じフレーズを発した。そして、虚を突かれたような顔。……だが、今回は少しだけ、その頬が朱に染まったように見えたのは気のせいだろうか。


「……ふん。一丁前に成長しちゃって。昔は私の『ちょっと太もも見せてあげようか?』って言葉だけで、鼻血出して倒れてたクセに」


「……っ! 中学一年生の頃の話を持ち出すな! あの頃のお前は、まだマシだったんだよ!」


「はいはい、昔を懐かしむ暇があったら手を動かしなさい。この二次関数が解けないなら、あんたの検索履歴をプリントアウトして、文化祭のパンフレットの表紙にするわよ」


「どうやって情報仕入れるんだよ!お前は本当に、人の一番痛いところを突く天災だな……!」


俺が地獄のような脅迫に震えながらペンを走らせていると、不意に、コンコンとドアを叩く音がした。


「白雪さん、黒峰くん。まだ残っているの?」


氷室会長の声だ。 その瞬間、俺たちの間に流れていたドブのような空気が、一瞬で、まるで神聖な教会の朝のように浄化された。

美香はコンマ5秒で姿勢を正し、俺の横に可憐に座り直す。 その手には、いつの間にか「広報用の資料」が握られていた。


「はい、会長。誠也くんが、どうしても広報誌のキャッチコピーが思いつかないというので、少しだけ相談に乗っていたんです」



「……そう。熱心ね、二人とも」


ドアを開けて入ってきた氷室会長は、机の上に広げられた俺の数学のノート―― そこには美香が書いた『放物線=脚のライン』という謎の図解があった―の を、じっと見つめた。

俺の背中に、嫌な汗が流れる。 氷室会長の鋭い瞳が、美香と俺を交互に射抜いた。


「……白雪さん。このグラフの横に書いてある『絶対領域』という書き込みは、何かしら?」


美香は一瞬の迷いもなく、聖母のような微笑みを浮かべて答えた。


「ああ、それですか? 数学における『解の存在範囲』を、誠也くんが覚えやすいように、私が作った独自の比喩表現メタファーです。誠也くん、最近の流行り言葉を使わないと覚えられないみたいで……ね、誠也くん?」


俺に振るな、この悪魔!


「……あ、ああ。そうなんです。いやー、白雪さんの解説は、本当に、その……『奥が深くて』、勉強に非常に助かってます」


氷室会長は、しばらく無言で俺たちを見ていたが、やがてフッと口角を上げた。


「……そう。それならいいわ……」


一瞬、沈黙の時間が流れた。しかし、


「二人とも、あんまり『奥まで』入り込みすぎないようにね」


沈黙の間、会長がそう言っているように聞こえた。幻想だろうか?いや、幻想でいてくれないと、俺の社会的地位が完全に終わってしまう。


「……テスト、楽しみにしてるわ」


会長が去った後、俺と美香は、どちらからともなく深いため息をついた。


「……おい美香。今、絶対怪しまれただろ。あとで殺されるのは俺だぞ」


「……うるさいわね。あんたがもっとスマートに嘘をつけないからでしょ。ほら、続きやるわよ。次は『微分積分』。私の――」


「お前の体の部位に例えるのはもう禁止だ!!」


中間テストまで、あと13日。 俺の精神は、本番を前にして、すでに限界を迎えようとしていた。



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