PART.30 密室の尋問と、聖女の本音
昼休み。会長の「毒物検査」という名の検閲をなんとか(神崎の乱入による混乱に乗じて)逃げ切った俺は、美香からの呼び出しメールに従い、旧体育館の備品倉庫へと足を運んだ。
薄暗い倉庫内。跳び箱やマットの独特な匂いが漂う中、美香は一番高い跳び箱の上に、まるで玉座に座る女王のように鎮座していた。
「遅いわよ、誠也。……さあ、その『毒物』をここに広げなさい」
「……弁当のことか? お前が作ったんだろ」
俺が弁当箱を開けると、そこには白米の上に、真っ赤な明太子とイクラ、そして不自然にテカり輝く謎のソースで『誠也のナカ、熱くしてあげる♥』とデカデカと文字が綴られていた。
「(……文面がアウトすぎるだろ!! どこを熱くするつもりだよ!)」
「ふふ、食欲が湧いたかしら? でも、食べる前に聞きたいことがあるの」
美香が跳び箱からしなやかに飛び降り、俺の胸元に指先を這わせる。彼女の瞳には、いつもの余裕の中に、鋭いナイフのような光が混じっていた。
「……あんた、昨日、あの動画を見たわね?」
「……ああ。見たよ」
逃げ場のない密室。美香の体が俺を壁(というか跳び箱の山)に押し付ける。
「どう思った? 自分の思い出を壊されて、泣き叫ぶ女たちを笑う私を見て。……やっぱり、私をバケモノだと思う? それとも、あまりの残酷さに、あんたのその卑屈な股間が『恐怖で興奮』しちゃったかしら?」
「するかバカ! ……お前が何を考えてあんなことをしたのか、半分くらいは分かったよ。……あれ、俺への執着だろ。俺の記憶を、お前だけで埋め尽くそうとしたんだろ」
美香の動きが、一瞬だけ止まる。 仮面が剥がれ、ただの「一人の少女」の焦燥が顔を出した。だが、彼女はすぐに邪悪な笑みを浮かべ直した。
「……正解。ご褒美に、このお弁当の『隠し味』を教えてあげる。……それ、私の『愛(分泌液)』じゃなくて、世界最強クラスの激辛デスソースを水で薄めた特製ソースなの。……あんた、昨日私の実演を無視して動画に集中してたでしょう? その罰よ。今すぐ全部食べて、胃袋から悶え苦しみながら私に謝罪しなさい」
「(お前、結局ただの嫌がらせじゃねーか!! 事情とか執着とか、エモい空気返せよ!)」
「さあ、あーんして。……あんたのその無様な悶絶顔を見ながら、私は新作エロゲーの続きを実況してあげる。……ほら、口を開けないと、私が直接、あんたの唇に『流し込んで』あげてもよくてよ?」
美香が弁当の具材を箸で掴み、俺の口元に迫る。 その時、倉庫の外で「……いたぞ! 美香様と黒峰が密会している!」という神崎の叫び声が響いた。
「(神崎!? 何でここが分かったんだよ!)」
「……チッ、あの筋肉バカ、鼻だけは利くわね。……誠也、続きは体育祭の『二人三脚』でね。……あんたが激痛で動けなくなるまで、その足と心を私に縛り付けてあげるから」
美香は俺の口に無理やり明太子(激辛)を突っ込むと、窓から軽やかに脱出した。 「ゴハッ……!! 辛っ! 痛っ!! 死ぬ、これマジで死ぬ!!」
悶絶する俺の前に、扉を蹴り破って神崎が突入してくる。
「黒峰ッ! 貴様、美香様と何をした! ……ム、その弁当……美香様からの『愛』を完食しようとしているのか!? 許さん、俺も混ぜろッ!」
「神崎……やめろ……これ、愛じゃなくて、ただの兵器……」
体育館倉庫に、俺の悲鳴と神崎の勘違いの罵声が虚しく響き渡った。




