PART.29
翌朝。寝不足の目を擦りながら登校した俺を待っていたのは、校門前で仁王立ちする「白雪美香・完全復活版」だった。
「おはよ、誠也。病み上がりの私に、何か言うことはないかしら?」
「……おはよ。顔色は良さそうだな。で、その手に持ってる禍々しい包みは何だ?」
美香の手には、ピンク色のフリルがついた弁当箱。しかも、御丁寧にも「誠也くんへ♥」という付箋が貼ってある。
「うふふ、昨日の唐揚げのお礼よ。私の特製『精力増強・絶頂弁当』。中には、あんたが放課後のリレーで、文字通り「イ(走)き」すぎて心停止するレベルの栄養を詰め込んでおいたわ。……さあ、受け取りなさい。拒否したら、全校生徒の前で昨日電話越しに披露した『実演の続き』を生配信してあげるわ」
「(お前はそんなことして恥ずかしくないのか!!朝から毒しか投下しねえな、こいつ……!)」
俺が絶望しながら弁当を受け取った瞬間。 「……貴様ぁッ!!」という、地響きのような叫び声とともに、神崎が校門の陰から飛び出してきた。
「黒峰ッ! 貴様、今、美香様から『手作り弁当』を受け取ったな!? ああ、なんてことだ……! 聖女たる美香様が、貴様のようなドブネズミのために、その白く清らかな指を包丁で汚されたというのかッ!」
「神崎! お前、何で登校初っ端からマックスでキレてんだよ!」
「黙れ! 俺はな、美香様のSNSで『今日は誠也くんのために、隠し味に私の「愛」を混ぜたお弁当を作ったわ♥』という投稿を見て、一睡もできずにここで待っていたのだ!」
「(どうせ愛という分泌液なんだろうが!!!!)」
神崎は涙を流しながら、俺の胸ぐらを掴んだ。
「黒峰! その弁当を今すぐ俺に譲れ! さもなくば、ここで貴様と『体育祭・真剣勝負』だ! 貴様が美香様に相応しくないことを、俺の筋肉が証明してやる!」
「いいわよ、神崎くん。……誠也、もし神崎くんに負けたら、あんたのその弁当、神崎くんに『お口でアーン』して食べさせてあげなさい。もちろん、私の実況付きでね」
「おい美香、燃料を投下するな! ……神崎、離せ! これは俺の……いや、俺の『責任』だ! 毒でも何でも、俺が食わなきゃいけないんだよ!」
俺が弁当を死守しようとする姿は、神崎の目には「美香への愛を誓う姿」に見えたらしい。 「おのれぇええ!!」と神崎の咆哮が学園に響き渡る。
その時、背後から氷室会長の冷ややかな声がした。
「朝から賑やかね。……神崎くん、廊下を走るのは禁止だけど、校門前で絶叫するのも、私の『美学』に反するわ。……黒峰くん、そのお弁当、後で私の前で開けてちょうだい。……毒物検査が必要そうだから」
俺は確信した。 美香のビデオ、神崎の嫉妬。全てに会長が関係していることを。 体育祭本番を前に、俺の周囲はすでに「更地」になることが確定したようだ。




