PART.27
体育祭の練習でボロボロになった翌日。俺を待っていたのは、更なる不条理だった。
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「……はぁ? 美香が発熱で早退?」
昼休み、俺のスマホに届いた美香からのメッセージには、『急激な悪寒と、下半身の疼き……じゃなくて、発熱により帰宅します。放課後の中央委員会、私の代わりに「生徒会代表」として出席しなさい』という、あからさまに嘘くさい文言が並んでいた。
「(下半身の疼きって書いちゃってるじゃねーか! 絶対に午前中に届いた新作エロゲーやる気だろあいつ……!)」
中央委員会。それは各クラスの委員長や各委員会の長が集まる、学園の最高議決機関の一つだ。そんな場所に、ただの「総務代行 (パシリ)」の俺が出るなんて、公開処刑以外の何物でもない。
重い足取りで会議室の扉を開けると、そこには案の定、招かれざる「番犬」が座っていた。
「……で、なんで部活動総務のお前がここにいるんだ、神崎。」
腕組みをして、鼻息荒く俺を睨みつけているのは、自称美香の忠実な騎士こと神崎だった。
「うるさい! 美香様に『誠也くんが心配だから、あなたが後ろで見守ってあげて』と頼まれたのだ! 当然、俺はお前を信用することなど出来ぬ! よってお前が粗相をしないか、美香様の代理として相応しい振る舞いをしているか見張りをするために来たのだ!」
「それ、生徒会長に見張ってもらえば済む話だろ! 半分……いや、九割五分お前の趣味な気がするんだが!」
「貴様ッ! 美香様への純粋な忠誠心を趣味などと抜かすか! 俺はな、美香様が『誠也くん、最近おかしいみたいで、会議中に変な妄想して鼻血出さないか心配だわ』と仰っていたのを聞いて、止むに止まれぬ思いで駆けつけたのだぞ!」
「(あの野郎、欠席届にまで俺への風評被害を仕込みやがったな……!)」
俺が神崎の暑苦しい視線に耐えながら席に着くと、会議室の温度がスッと下がった。氷室会長の登場だ。
「あら、白雪さんは欠席かしら。……代わりに黒峰くんと、……神崎くんね。面白い布陣だわ」
「会長! 美香様は重病につき、本日はこの誠也が……」
「神崎、お前が喋るな! ……すみません会長、代行を務めさせていただきます。」
会議が始まった。議題は体育祭の予算配分と、各委員会の役割分担。俺は美香に押し付けられた資料を必死に読み上げ、各委員長からの鋭い質問を捌いていく。
「――これらを、実行委員会から各クラスに連絡をお願いします。以上が、生徒会総務としての体育祭実施案です。何か質問は?」
俺が冷や汗を拭いながら問いかけると、神崎が背後から身を乗り出してきた。
「黒峰! 今の言い方は何だ! もっと美香様のように、慈愛に満ちた、耳元で吐息を感じるような艶っぽい声で説明できんのか!」
「できるわけねえだろ! どんな会議だよそれは! 公の場で美香への性癖を垂れ流すな!」
「美香様なら、ここで『皆さんの熱い要望、私の全身で受け止めて差し上げますわ』くらいのサービス精神は見せるはずだぞ!」
「(美香なら言いかねないのが一番怖いんだよ……!)」
会長がコンコン、と机を叩く。
「二人とも、静かに。……黒峰くん。内容は完璧よ。白雪さんが『趣味の時間』を優先して投げ出した仕事とは思えないほどね」
「……えっ、会長、気づいて……」
しまった。いつの間にかカバンの中に入っていたスマホが取られていた。いや待て、どうやって俺のパスワード解除したんだ?大体、 新作エロゲーに没頭する美香。会議室で吠える狂信者・神崎。そして、すべてをお見通しの絶対君主・氷室会長。、そんな会長に半分信仰心にしか思えない恋心をいだく、副会長の水口。そうだった。俺の周囲には、まともな人間が一人もいない。
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会議終了後、神崎は「美香様のSNSをチェックせねば!」と叫びながら走り去っていった。 いつの間にかカバンにスマホは戻っていた。一人残された俺のスマホが震える。
『誠也、ヒロインの台詞、あんたにピッタリだったわ。「ねえ、ご主人様。私のこの濡れた……」……続きは、今夜あんたの部屋で実演してあげる。あ、晩ご飯は唐揚げがいいわ。適当に私の住所に出前用意しておきなさい。もちろん、全額あなたの奢りで。』
「(……奢りなのは百歩譲るとして、実演だけは勘弁してくれ……)」
俺は新しい筆箱をぎゅっと握りしめ、沈みゆく夕日に向かって、届かぬ救いを求めた。




