PART.25 体育祭の胎動と、聖女の〇癖大暴走
文化祭という名の地獄が終わったのも束の間。次にやってきたのは、陰キャの天敵、肉体派の祭典――「体育祭」だった。
「……何で俺が、生徒会総務の腕章を巻いて、テントの設営在庫を確認しなきゃいけないんだよ」
放課後の生徒会室。俺は、本来「生徒会総務」という役職に就いているはずの白雪美香に代わり、山のような備品リストと格闘していた。
「何をブツブツ言ってるの、誠也。あんたは私の『偽カレシ』兼『管理ドブネズミ』でしょう? 私が聖女として優雅に日焼け止めを塗る時間を確保するために、あんたが肉体労働をするのは宇宙の摂理よ」
ソファに深々と腰掛け、優雅にアイスティーを啜る美香。その足元では、俺が泥にまみれたペグの数を数えている。
「摂理なわけあるか! これ、お前の仕事だろ! 『総務』の文字が泣いてるぞ!」
「いいじゃない、総務……響きがエロいわよね。私に相応しいわ。あんたも私に『挿 (そう)』されるのが『夢 (む)』なんでしょ? ほら、このリストの『支柱・欠損あり』のところに、あんたのその情けないチ〇コも追記しておきなさい」
「お前の脳内変換はどうなってんだよ! 公的な役職名で下ネタを生成するな! あと俺のは欠損してねえ!」
美香はフンと鼻で笑うと、脚を組み替えた。スカートの裾が危ういラインまで持ち上がるのが、もはや恐怖のサインにしか見えない。
「……大体、あんたみたいな運動神経が欠落した非力男子にとって、体育祭の唯一の救いなんて、女子の胸が縦横無尽に揺れ動いているところを合法的に観察できることくらいしかないじゃない。何? あんたも私のが見たいのかしら? 競技中にわざとブラのホックを外して、あんたの顔面に『聖なる一撃』を叩き込んであげてもいいわよ?」
「そんなバカみたいなことだけが楽しみとか、秒で思いつくお前の性癖はどうなってんだよ! 聖女ムーブの欠片もねえな! そもそも競技に集中しろよ!」
「失礼ね。私はいつだって全力よ。リレーのバトンパスの瞬間、あんたの手の甲に私の『分泌物』でも塗りつけて、あんたがその後の人生で一生その匂いを嗅がないと生きていけない体に改造してあげようと画策してるんだから」
「分泌物って言うな! 汗だろ! 爽やかに言えよ、体育祭という青春を壊すな!」
俺が絶叫していると、生徒会室のドアが静かに開いた。 入ってきたのは、氷室会長だった。
「……二人とも、随分と活発な議論をしているわね。黒峰くん、その『分泌物』というのは、体育祭の新しい競技の案かしら?」
「ひ、氷室会長!? い、いえ、これは……その、美香の脳内が梅雨時期の湿気で腐ってるだけです!」
俺は慌てて立ち上がったが、美香は一瞬で「聖女」のスイッチを入れた。さっきまでの「ブラのホック」発言が幻だったかのような、一点の曇りもない微笑み。
「会長、お疲れ様です。黒峰くんが、体育祭を成功させるために、水分補給――つまり、生徒たちの『生命の雫(汗)』をどう管理すべきか、熱心に相談してくれていたんです。……ねえ、誠也さん?」
「(おい、話を繋げるな! 気持ち悪いわ!)」
氷室会長は、俺の額に浮かんだ脂汗をじっと見つめると、薄く微笑んだ。
「そう。素晴らしい献身ね、黒峰くん。……でも、無理は禁物よ。あなたが倒れてしまったら、白雪さんの『管理』が疎かになってしまうもの」
「……はは、善処します」
会長が去った後、美香は再びソファに沈み込み、俺に向かって中指を……ではなく、扇子を広げて優雅に仰いだ。
「聞いた? 誠也。会長も『管理』をしろって言ってるわ。つまり、あんたは体育祭当日、私のブルマ(指定体操服)を洗濯する特権を、会長公認で得たってことよ。……良かったわね、あんたの不潔な性欲が公式に認められて」
「ブルマじゃねえし、短パンだし、勝手に公認にするな! そもそも会長はそんなこと言ってねえ!」
夕暮れの生徒会室。体育祭の準備という名の、俺への「性的な風評被害」と「重労働」の嵐は、まだ始まったばかりだった。




