PART.24 管理人の宿命
スーパーの入り口に戻ると、街灯の下で美香が苛立たしげに片足で地面を叩いていた。 その姿は、先ほどまでの「理想の姉」とは似ても似つかない、いつもの美香だった。
「遅いわよ、誠也。4分32秒の遅刻。あんたの新しい筆箱から、シャーペンと赤ペンと、ついでに消しゴムも没収ね」
「待て、消しゴムがないと俺の学校生活が完全に詰むんだが。……それより、さっきは妹さんのお迎え、お疲れ様」
俺が努めて平静に言うと、美香はフンと鼻を鳴らし、俺の横を歩き始めた。 夜風が少し冷たい。並んで歩く二人の影が、街灯に伸びては消える。
「……ねえ、誠也。さっき、誰と話してたの?」
不意に投げかけられた問い。美香の視線は前を向いたままだが、声のトーンが少しだけ低い。彼女の嗅覚は、獲物の異変を逃さない猛獣のそれだ。
「……佐々木沙耶香だ。あいつ、小学校の同級生だったんだな」
美香の足が、ピタリと止まった。 彼女の背中から、目に見えるような殺気が立ち上る。
「……そう。あの女、まだこの街にいたのね。何を聞かされた? 私が中一の時にあいつの弟を『壊した』話? それとも、小学校の時にあいつを泣かせた話?」
「全部聞いたよ。……でも、俺が言ったのは『お前の事情も知らずに批難するのはよくない』ってことだ」
美香がゆっくりと振り返る。その顔は、冷徹な仮面を被り直していたが、瞳の奥だけが激しく揺れていた。
「……バカじゃないの? 事情なんてないわよ。私はただ、私を汚そうとするゴミを掃除しただけ。あいつらに同情するなんて、あんた、本当に頭がどうかしてるわ」
「ああ、どうかしてるよ。広島で独りぼっちだった時に、俺も思ったんだ。いじめてる奴らにも、何かしら欠落してる部分があるんじゃないかって。……だから、俺はお前の『欠落』も、知った上で隣にいたいんだよ。……それが『管理人』の仕事だろ?」
美香は絶句した。 いつもなら「死ねばいいのに」とか「脳みそ腐ってるの?」とか返すはずの彼女が、唇を噛み締め、言葉を飲み込んでいる。 やがて、彼女は視線を逸らし、蚊の鳴くような声で呟いた。
「……あんたのそういうところが、一番ムカつくのよ」
彼女は再び歩き出したが、その歩調は先ほどよりも少しだけ遅い。 俺はその後ろ姿を見ながら、沙耶香の言葉を思い出していた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!! 少しシリアスな作品になってる気がします……ご安心ください。次回から、美香が再び大暴走する予定なので、下ネタが好きな諸君、次の回はしっかり読みたまえ!!
注 活動報告に詳しく記入しましたが、コロナで陽性反応が出ました。




