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※閲覧注意 「幼馴染の定義」とはいったい何なのだろうか  作者: 霜月轟轟(しもつき ごうごう)


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PART.23

スーパーの喧騒が遠ざかり、夕暮れの公園に静寂が忍び寄る。 美香は「結菜、塾に遅れちゃう!」と結菜を急かし、まるで嵐のように去っていった。一人残された俺は、新しい筆箱を抱えたまま、近くのベンチに腰を下ろした。


(……偽カレシ、か)


ふと、あの中三の屋上を思い出す。 あの時、俺は美香の脅迫に屈したふりをして、実はどこかで安堵していたのかもしれない。広島での三年間、俺は「普通」に馴染もうとして、ずっと息苦しさを感じていた。美香のあの、劇薬のような毒舌だけが、俺の輪郭をはっきりとさせてくれる。そんな歪んだ自覚があったから、あの契約を受け入れたんだ。


「……はぁ。俺も大概、救いようがないな」


独り言を漏らしたその時、ベンチの端に、誰かが静かに腰を下ろした。 気配で分かった。あの、文化祭で絶望した顔をしていた少女――沙耶香だ。


彼女は俯いたまま、力なく地面を見つめている。 美香の言う通り、彼女は「狂犬時代」の被害者なのかもしれない。だとしたら、その共犯者である俺に、彼女に声をかける資格なんてあるのか。迷いが頭をよぎるが、気づけば俺は口を開いていた。


「……文化祭の時は、大変だったな」


沙耶香の肩が、びくりと跳ねた。 彼女はゆっくりと顔を上げ、俺を見た。その瞳は、怒りよりも、深い悲しみに沈んでいるように見えた。


「……黒峰……誠也、くん」


「え? なんで俺の名前を……」


「忘れたの? ……私たち、小学校、同じだったじゃない。一組の、佐々木沙耶香だよ。……あんたが転校する直前、美香のせいでボロボロになってた私を、保健室まで運んでくれたこと……」


心臓が、嫌な音を立てた。 記憶の断片が繋がる。そうだ、小学校六年の冬。美香が「ゴミ掃除」と称して、クラスの女子数人と衝突したことがあった。その中に、確かに彼女がいた。


「……佐々木、さん。ごめん、今の今まで……」


「いいよ、別に。あんたは昔から、あのバケモノに付きっきりだったもんね。……でも、信じられない。あんた、あんなことされて、今度は『恋人』なんて。……洗脳でもされたの? それとも、弱みでも握られてるの?」


彼女の言葉は、鋭いナイフのように俺の現状を突き刺す。


「……どっちも、正解かもしれないな」


「……ねえ、誠也くん。教えてよ。なんであんな女を助けるの? あの動画、あれは真実だった。あの子は、自分を慕ってた私の弟を『キモい』の一言で壊して、笑ってた。……今のあの『聖女』の姿なんて、全部嘘なのに」


沙耶香の手が、膝の上で白くなるほど強く握りしめられる。


「……嘘だよ。全部嘘だ」


俺は空を見上げた。オレンジ色の空が、ゆっくりと群青色に侵食されていく。


「でもさ。あいつ、あの嘘を突き通すために、自分の人生を全部削ってるんだ。……さっきも、妹の前で完璧な『お姉ちゃん』を演じてた。……あいつが守ろうとしている『嘘』の先には、あいつなりの理由があるんだよ」


「……理由があれば、人を傷つけてもいいの?」


「よくないよ。だから、俺が隣にいるんだ。……あいつの毒を、俺が全部飲み込んで、これ以上誰にも被害が出ないように。……それが、俺とあいつの『契約』だからさ」


俺は話を続けた。


「広島にいた頃さ、俺、周りからいじめれてたんだよ。田舎から来たって、只それだけの理由で、俺の周りには友達はほとんどいなかった。香川の県庁所在地出身だぞ?そんなやつでも、田舎と言われるのに、耐えられなくなって、俺は香川に戻った。帰ってきてから考えると、多分そいつらは、俺よりも成績が悪く、それに対する嫌がらせなんじゃないかと思う。それで、実感したことがあるんだ。」


沙耶香は、少し困惑しながらも、話の続きを聞いてくれた。


「いじめて、誰かを傷つけるのは、あってはならないことだ。だが、趣味でそんなことをするやつなんて、人生で俺は見かけたことがない。何かしらの理由はあるんだよ。それを知らないのに、一方的に批難するのはよくないと思う。相手の事情を分かった上で、話すべきだと思うんだ。だから、少しでもアイツの考えを知れるだけ知ろうと思う。お前はどうだ?、沙耶香」


俺の言葉に、沙耶香は絶句した。 呆れているのか、それとも憐れんでいるのか。彼女は弱々しく笑い、立ち上がった。


「……あんたも、あの女に負けないくらい狂ってる。その分、あなたはあの女にはいるべき人なのかもしれない……でも、気をつけて。氷室会長は、あんたたちほど甘くないから」


「会長……?」


「あの人は、真実しか愛さない。……あんたたちが守ろうとしているその『嘘』の城、もうすぐ会長の手で陥落させられるわよ」


沙耶香はそれだけ言い残すと、夜の闇に消えていった。


入れ違いに、スマホが震える。 美香からのメッセージだ。 『塾に預けたわ。今すぐさっきのスーパーの入口まで来なさい。一分遅れるごとに、あんたの筆箱の中身を一本ずつ、私のコレクション(ゴミ箱)に寄付させてあげるから』


「……はは、相変わらずだな」


俺は重い腰を上げた。 美香の過去。沙耶香の恨み。そして、氷室会長の影。 俺たちの「偽物の恋」を囲む網は、刻一刻と狭まっている。 それでも俺は、あの嘘つきな聖女が待つ場所へと、足を運ばずにはいられなかった。

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