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※閲覧注意 「幼馴染の定義」とはいったい何なのだろうか  作者: 霜月轟轟(しもつき ごうごう)


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PART.18 二人が重なる時

時を少しだけ遡ろう。 これは、俺――黒峰誠也が、彼女の「嘘の彼氏」にされるよりも前。 そして、美香という少女が「清楚な聖女」という名の完璧な鎧を纏うことになった、中二の冬の物語だ。


************************************************************


「――おい。何とか言えよ、白雪ッ!!」


薄暗い裏路地。コンクリートの壁に叩きつけられた男子生徒が、恐怖と屈辱で顔を歪めながら叫んでいる。彼の足元には、私が叩き落としたカッターナイフが転がっていた。


「……何を言えと? 『私を待ち伏せして切りつけようとした勇気に敬意を表します』とでも? 笑わせないで。あんたのその震える指先、まるで生まれたての小鹿みたいで反吐が出るわ」


私は彼の喉元を、制服のローファーで静かに踏みつけた。 中学二年生の私は、救いようのない「暴力の化身」だった。


小学校を卒業し、誠也という「重石」が外れた瞬間、私の中の何かが決壊した。 新しい中学で、私の容姿を見た連中が群がってきた。甘い言葉で誘う男。裏で「調子に乗っている」と囁く女。その全てが透けて見えて、私は耐えられなかった。


「(……ああ、つまらない。どいつもこいつも、私の外側しか見ていない)」


私は私を守るために、牙を剥き続けた。 売られた喧嘩は倍にして買い、卑怯な手を使う奴にはその十倍の卑劣さで報復した。気がつけば、私の周りには誰もいなくなった。 「白雪美香には関わるな」「あいつは狂犬だ」 そんなレッテルが、私を唯一守ってくれる鎧になった。


――そんなある日の、放課後。 雪が降り始め、街全体が冷たい灰色に染まる中、私は一人で公園のベンチに座っていた。


「(……誠也なら、今のでも笑ってくれたかしらね)」


ふと、手に持っていたコンビニのココアを見つめる。 小学校の頃、私が誰かに毒を吐くたび、誠也は「お前、そんなこと言ってると友達いなくなるぞ」と呆れた顔で言ってきた。 「別にいいわよ、あんなゴミ共」と私が返せば、「じゃあ俺もゴミかよ。掃除して捨ててみろよ、ほら」と、あいつは生意気に笑い返してきたのだ。


私の毒を「毒」として認識した上で、それでも隣に座り続けた唯一のバカ。そんなあいつも、地元香川から離れ、広島の私立中学に入学してしまった。


「……誠也、あんたのせいで、私の舌は肥えちゃったのよ」


他の誰が何を言っても、私の心は1ミリも動かない。 賞賛は空虚で、罵倒は心地悪いだけ。誠也のあの、絶妙に神経を逆なでする「ツッコミ」だけが、私の乾いた心に潤いを与えていたのだと、失ってから気づいた。


その時だった。


「――見つけた。白雪美香、あんたのせいで私の弟は不登校になったのよ!」


公園の入り口に、沙耶香が数人のガラの悪い高校生を連れて現れた。 沙耶香の弟……ああ、私に告白してきて、「鏡を見てから出直してきて」と一蹴したあの出来損ないのことか。


「……そう。だったら、あんたが代わりに学校に行ってあげれば? 姉弟揃って馬鹿なんだから、誰も気づかないわよ」


「この、女狐がっ……!!」


沙耶香の合図で、高校生たちが一斉に襲いかかってきた。 私は立ち上がり、冷笑を浮かべながら応戦した。 けれど、心の中はどこか冷めていた。


(殴っても、蹴っても、何も変わらない。明日も、明後日も、私はこの泥濘の中で一人きり。あいつがいない世界は、こんなにも静かすぎる)


多勢に無勢。肩に衝撃が走り、私は雪の積もった地面に膝をついた。 冷たい。痛い。……けれど、それ以上に「退屈」だった。


その瞬間、私の脳裏に強烈な光景がフラッシュバックした。 小学校の卒業式の日、誠也が転校する直前、私に言った言葉。


『……美香。お前、俺がいなくなったら、少しは外面そとづらを良くしろよ。お前が一人でボロボロになってるの見たら、俺、遠い街で寝つきが悪くなるからさ』


「…………っ、あいつ……勝手なこと言って……」


あいつは、私の本性を知った上で、私が「幸せ」でいることを願った。 だったら。 私を唯一理解するあいつが、いつか私の元に戻ってきた時。 そこにあるのが「嫌われ者の狂犬」の死体なんて、最高の管理人への冒涜じゃない。


私は、落ちていた木の枝を拾い上げ、襲いかかる連中の隙を突いて立ち上がった。


「――沙耶香。あんたたち、今日が最後だと思いなさい」


私は、自分の中にあった「剥き出しの牙」を、心の奥底に封印することを決めた。 暴力で支配するんじゃない。 美しさで、品性で、完璧なまでの「嘘」で、この世界を私の足元に跪かせる。 そして、いつか戻ってくるあの男に、世界で一番甘くて重い「呪い」をかけるための聖域を作るのだ。


「私を『聖女』と呼びなさい。……一秒後に、あんたたちの記憶の中の私は、美しく書き換えられるんだから」


雪の降る夜。 「狂犬」は死に、「白雪美香」という名の完璧な怪物が産声を上げた。


すべては、いつか再会するであろう、たった一人の「管理人」を飼い慣らすために。


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