PART.14 蹂躙(じゅうりん)の白雪姫と、生贄の猟師
体育館の照明が落ち、真っ赤な幕がゆっくりと上がる。 客席を埋め尽くす全校生徒、そして最前列には先ほどの捏造動画で涙したばかりの「美香信者」たちが、固唾を呑んでステージを見つめていた。
「――鏡よ鏡。世界で一番、美しいのはだあれ?」
舞台中央、スポットライトを浴びた魔女役の生徒がが凛とした声で問いかける。しかし大勢の人は、舞台袖にいる美香に 注目している。純白のドレスに身を包んだ彼女は、もはやこの世の者とは思えないほど美しい。観客席からは、吐息のような感嘆が漏れる。
「(……おい誠也、次のセリフよ。とろくさい顔してないで、早く入りなさい。あんたのその汚い足音で、私の神聖な舞台を汚さないで頂戴)」
インカム代わりの隠しマイクから、俺にだけ聞こえる美香の毒。 俺は意を決して、猟師の格好で舞台袖から飛び出した。
「姫様……! 私は、あなたを手にかけなければならない……!」
俺が台本通りに膝を突くと、美香――白雪姫が、ゆっくりとこちらを振り向いた。その表情は、慈愛に満ちた聖女そのもの。だが、彼女の手にはなぜか、原作には存在しない「黒い鞭 (劇用の小道具)」が握られていた。
「あら、猟師さん。私の命を奪おうというの? ……いいわ。でも、その前に、あなたのその『汚れた忠誠心』を、私が正してあげる」
(え、台本にそんなセリフ……!) 俺が困惑する間もなく、美香はしなやかな動作で距離を詰めると、ドレスの裾を翻して、俺の胸元をぐいと踏みつけた。
「……ッ!!」
「どうしたの? 猟師。私を殺すのでしょう? さあ、立ちなさい。立ち上がって、私のハイヒールの先で、その卑しい喉仏を撫で回させてちょうだい。……それが、あなたのような『家畜』に許された、唯一の栄誉よ」
観客席からは「おおお……! 白雪姫が、自分を殺そうとする刺客に、あえて立ち向かい、その威厳で圧倒している……! なんて気高いんだ……!」という、勘違いも甚だしい感動のどよめきが上がる。
だが、俺の耳元には美香の生の声が届く。
「(ねえ、誠也。今の踏み込み、どうだった? あんたの肋骨が少しだけ悲鳴を上げた気がして、私、とっても……『をかし』な気分だわ。ほら、もっと惨めな顔をしなさい。さっきの捏造工作の『代償』、ここでたっぷり払わせてあげる)」
「(……痛いんだよマジで! 劇だろこれ! 演じろよ!)」
「(演じてるわよ。『世界で一番、残酷で美しい姫』をね)」
美香は鞭を空中で一閃させると、俺の顎を強引に持ち上げ、全校生徒が見守る中で、俺の顔の数センチ横に顔を寄せた。
「さあ、言いなさい。……『白雪姫、あなたが私の飼い主です』と」
客席が静まり返る。 「……白雪姫、あなたが私の、か、飼い主……です」
俺が屈辱に震えながらセリフ(?)を吐き出すと、体育館中に割れんばかりの拍手が巻き起こった。 「素晴らしい演技力だ!!」 「あの猟師役(黒峰)、本当に心から服従しているように見える……!」 「白雪さんの慈愛が、殺し屋すらも支配したんだ……!」「恋人関係は、劇の上手さにも関係するのか!!」
信者たちの妄信は、もはや止まらなかった。 美香は満面の笑みで客席に応え、その足元で俺は地面を這い蹲る。 これが、美香の書き換えた「白雪姫」。
劇の終盤、毒リンゴを食べて倒れるシーンですら、美香は倒れた際に俺の耳元で「……後で控室に来なさい。劇の『延長戦』を、あんたの体でたっぷり撮らせてあげるから」と、不吉な予言を残して目を閉じた。
いや~~~今日なんとか3つ作ることができました。ブックマーク、本当にどうかお願いします。これからも、多くの人に読んでいただけると幸いです!




