PART.12
文化祭前日の夜。 全校生徒が下校し、静まり返った生徒会室で、俺は山のように積み上がった「お悩み相談」の投函用紙を一枚ずつシュレッダーにかけていた。
「『白雪さんに踏まれたい』、却下。『白雪さんの靴のサイズを教えて』、死ね。『白雪さんに養われたい』、お前は死にたいのかバカ野郎。……ろくな悩みがないな」
美香の命令通り、彼女の知能を汚すような悩みはすべて「抹殺」するのが俺の任務だ。 そんなゴミの山の中に、一通だけ、異質な封筒が混じっていた。 宛名は「白雪美香の正体を知る者より」。
「……ッ、なんだこれ」
心臓の鼓動が早まる。俺は震える手で封を切った。 中には、一枚の古い写真と、手書きのメモが入っていた。
『清らかな聖女、白雪美香さんへ。中学生時代の「狂犬・白雪」を知る人間は、まだ残っていますよ。明日の公開裁判、楽しみにしています。あの時の動画、全校生徒に公開されたらどうなるでしょうね?』
写真には、中学生時代の美香が写っていた。 今の清楚なロングヘアではなく、少し短めの髪。そして、数人の不良を地面に這わせ、片足で相手の頭を踏みつけながら、中指を立てて満面の笑みを浮かべている……そんな、今より数段凶悪な彼女の姿だった。
「(……こいつ、今の美香よりヤベェじゃねえか!!)」
中学二年までは美香と違う学校だったため、こんな美香を見るのは初めてだった。生俺が冷や汗を流していると、背後から冷たい気配がした。
「――ねえ誠也。そんなに熱心に何を読んでるの? 私へのラブレター? もしそうなら、今すぐその紙を細切れにして、あんたの枕の中身にしてあげましょうか?」
「美香……!」
コンマ5秒で写真を隠したが、美香の鋭い瞳は誤魔化せなかった。 彼女は無言で俺の背後に回り込み、俺の腕を関節技に近い強さでひねり上げると、その写真を奪い取った。
「……あ」
写真を見た瞬間、美香の全身から温度が消えた。 「清楚」でもなく、「毒舌」でもない。本物の、剥き出しの「殺意」。
「……懐かしいわね。これ、中一の時に私に絡んできた暴走族のリーダーを、ちょっと『教育』してあげた時のだわ。誰が撮ったのかしら。……誠也、あんた、これを見てどう思った?」
「……どう思ったって、お前の性格の悪さは今に始まったことじゃないんだなって再確認しただけだよ。それより、明日の公開裁判でこれを流すって脅されてるんだぞ! どうするんだ!」
美香は一瞬、暗い瞳で写真を見つめていたが、やがてフッと不敵な笑みを浮かべた。
「いいじゃない。やりなさいよ。……誠也。あんた、広報でしょ? だったら、この『最低の証拠』を、『最高の美談』に書き換えなさい」
「……はぁ!? 無理だろ、これどう見ても暴行現場だぞ!」
「いいえ。これは『捨てられた子猫をいじめていた悪党たちから、身を挺して弱者を守った、聖女の戦いの記録』よ。動画もそう見えなくもない角度のはず。あんたの捏造能力を信じてるわよ?」
美香は俺のネクタイを強く引き寄せ、唇が触れそうな距離で囁いた。
「もし失敗したら、明日のステージで、私が堕ちるのは私じゃない。……あんたを、全校生徒の前で『私の奴隷』として公開処刑してあげるから。……わかった?」
「……了解だよ、この悪魔」
俺の文化祭は、もはやお祭りではない。 一人の少女の「偽りの聖域」を守り抜くための、情報戦と隠蔽工作の戦場となった。




