PART.10 祭典の幕開けと、悪魔の脚本(シナリオ)
中間テストという名の「精神的レ〇プ」を生き延びたのも束の間、学園内は一気に九月の文化祭ムードに塗り替えられた。 放課後の生徒会室。窓の外からは吹奏楽部の練習の音が聞こえ、廊下はベニヤ板を運ぶ男子たちの喧騒で溢れている。
「――はい、じゃあ文化祭の出し物、最終確認するわよ」
美香が「次期生徒会長候補」としての威厳を120%発動させ、ホワイトボードにペンを走らせる。
「まず、私たち一年B組のクラス劇。他のクラスより決まるのに時間がかかったけど…演目は……『白雪姫』よ」
「……お前、自分の名前から取っただろ。露骨すぎるんだよ。しかもお前が主役なんだろ? クラスの男子たちが『白雪さんのドレス姿が見れる!』って、今にも昇天しそうな顔で準備してたぞ」
「ふん。鏡に聞くまでもなく世界で一番美しいのは私なんだから、当然の配役よ。……でも、脚本は私が『修正』しておいたわ。ちなみに黒峰くんの役は『白雪姫を暗殺しようとして、逆に返り討ちに遭って家畜以下の扱いを受ける猟師』よ」
「原作を原型がなくなるまで改造するな! ただのお前の趣味じゃねえか!」
「いいじゃない、観客には『白雪さんの凛とした力強さに感動した』って思わせておけば。……で、本題は生徒会側の仕事よ。氷室会長、発表をお願いします」
美香が促すと、部屋の奥で書類を整理していた氷室会長が、眼鏡を指で押し上げた。
「……ええ。今年の生徒会のメイン出し物は、『お悩み相談・公開裁判所』に決まったわ」
「……裁判所?」
俺が聞き返すと、副会長の水口が胸を張って補足する。
「そうだ。生徒から募集した悩みや、ちょっとした校内のいざこざを、生徒会メンバーが鮮やかに解決してみせる。……もちろん、我が神・氷室会長が最終判決を下す、神聖な場だ。不敬な輩は私が即刻排除する」
「……(神崎が隣で「美香様の慈悲深いお言葉が聞ける……聖域だ……」と震えている)」
俺は嫌な予感しかしなかった。 「公開裁判」という名のステージ。もし美香がマイクを握って、あのドブのような本性を一言でも漏らしたら、その瞬間に学校は崩壊する。
扉が閉まり、会長たちが準備のために部屋を出た瞬間。案の定、美香の顔から「聖女の仮面」がボロボロと剥がれ落ちた。
「……ハァ? 『お悩み相談』? マジで言ってんの、あの会長。学校なんて、脳みそにカビが生えたガキ共の掃き溜めよ? そんな連中の『彼氏にLI〇Eの返信が来ないんですぅ』なんて悩み、『自意識過剰なブスは黙ってスマホ叩き割って、その破片を飯に混ぜて食ってろ』の一言で終了じゃない」
「……お前、絶対にマイクを持つなよ。いいか、絶対にだぞ」
「あら、誠也。私の心配? 嬉しいわ。でも安心して。私はステージの上では、誰よりも『慈悲深く、美しく、儚い少女』を演じてあげるわ。……その代わり。あんたは広報として、私への相談内容を事前にすべて検閲しなさい。私の知能を汚すような低俗な悩みは、全部シュレッダーにかけて、あんたの今日の晩御飯のふりかけにしてあげる」
「食えるか! ……ったく、クラス劇では俺を家畜扱いするわ、生徒会では検閲係を押し付けるわ……。俺の文化祭、どこに楽しみがあるんだよ」
「あるじゃない。……私という『絶世の美少女』の着替えを、特等席(舞台裏)で手伝わせてあげる権利よ」
「……それ、絶対にお前の毒舌のサンドバッグにされるだけだろ」
「正解。ご褒美に、私のハイヒールの踵で、あんたのその汚い足の甲を思い切り踏んであげるわ。……ほら、準備するわよ。文化祭当日までに、私の『聖女伝説』を全校生徒にプロパガンダしなさい」
「絶対にやらない」
文化祭まで、あと二週間。 美香の「清楚」を守り抜くための、俺の決死の捏造工作 (広報活動)が幕を開けた。




