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YES ORE NO ~ 煌めく世界の選びかた ~  作者: 菊ノ
第一章 
9/13

第9話 アシュア

 アシュアと対面したオリスは、不気味だと感じていた。


 日差しの下に置かれると、どこか浮いてしまうような白い肌。

 髪も白く、癖なく整っている。

 翡翠を薄く溶かしたような瞳は、澄んでいるのに生気が薄い。

 極めつけは、穏やかで柔らかく、それでいて一歩引いたような微笑み。


 その全てが、()()()()()()()をしているようだった。


「……お前」


 そして同時に、その態度が気に入らなかった。


「よく平気で…ヘラヘラしていられるな」


 その一言で、場が止まった。

 アシュアはわずかに首を傾げる。


「何か気に障りましたか?」


 オリスは一切視線を逸らさない。

 さっきとはまるで違う、アシュアを責め立てる目をしていた。


「アリンがまとめた、教会の報告は読ませてもらった。

 何人もの子供たちが、石になって死んだそうだな」


「……はい」


「だが、お前は止めなかった」


「そうですね」


 嘘も、虚栄も、含まぬ肯定。


「自分の番になった瞬間……逃げたそうだな」


 後ろにいたエルトは、その言葉に目を見開く。

 アリンは押し黙り、ラブロはじっと観察していた。


「まぁ……結果としては」


 オリスの声が低くなった。


「それで? 何でそんな顔でいられる?

 何も無かったみたいに、ヘラヘラしやがって。

 あたしには、それが理解できない」


 苛立ちを含んだ言葉は、まるで丸みを帯びていない。

 アシュアは少し考え、静かに答えた。


「表情については……あまり考えた事はありません」


「事実、お前は笑ってるだろ」


 態度が気に食わないと、オリスは言う。

 アシュアの平然とした態度が、過去を置き去りにしているように見えたのだ。


「子供が何人も死んでんだぞ?」


「はい」


 沈黙。

 胸の奥が、少しだけ痛む。


「それで、今ここで女に求婚して、冗談みたいに笑ってる」


 オリスは吐き捨てる。


「どんな神経してんだ」


 アシュアは少し考えるように視線を落とし、それから答える。


「悲しそうな顔をしていれば良いのですか?」


 思わず、そんな言葉が飛び出した。

 アシュアはこれを本心で言っている。

 これが逆に、オリスの逆鱗に触れる。


「あ?…そう言うところだって言ってんだよ」


 オリスが何に怒り、何を咎めようとしているのか、アシュアは必死に思考する。


「そもそも僕は……悪なのですか?」


 オリスも、他の面々も、その言葉に反応した。

 考え抜いた末、アシュアは語る。

 自身に根付いた思想を、価値観を、着飾る事なく展開する。

 

「確かに僕は、止められませんでした。

 何人もの子供達が死ぬのを、見て見ぬふりをしていた。

 でも、僕にどうしろと?

 何が正しい判断だったのですか?

 力も、知恵も、何も持ち得ない子供が……何もしなかったからと言って、それは悪なのですか?」


 自問自答を蹴り返しながら、しかし淡々と、言葉を紡いだ。


 正論に近い理屈だった。


 高圧的な態度のオリスに対し、一歩も引かないアシュア。


 普通じゃない。


 部屋にいた全員がそれをひしひしと感じていた。


「……開き直ってるだけじゃねえか」


「ただの事実です。僕は救う立場ではなかった」


 間違っていないと、真っ向から主張した。


「いや、救えたかもしれない立場だった。

 自分は何も出来ないからと、諦め、言い訳をしているだけだ」


「それは可能性の話でしょう?」


 アシュアの言葉は、恐らく正しい。

 側から見ているアリンは、それを強く認識していた。

 オリスは今、感情的になっているのだと。

 だが、理屈では片付けられない事もあると知っていた。


「見捨てた事実は変わらない」


「そこは否定していません」


 オリスも、感情の落とし所を見失っていた。


「てめぇの命が大事か?」


「それは皆さんもそうでしょう?」


 それを口にした時「一緒にするな」と、オリスは食い気味に言い張った。


 アシュアは、綺麗事だと理解した。

 心の底から他人を優先出来る感覚を持っていないからだ。


「お前みたいな奴が……真っ先に仲間を見捨てる

 そんな人間を、あたしは認めない」


 オリスも内心は分かっている。

 自分が口にしているのは暴論だと。

 だが、それでも認められないのは、アシュアの人間性が邪魔をしているからだった。


 事実と根拠ばかりが先にあり、人間としての揺らぎがどこにも見えない。

 

 人が持つ弱さや脆さ、それ故の優しさ。


 それらが欠落した非人間的な在り方に、彼女は目の前の事実を受け入れられないでいた。


「ですが……そうですね。覚えておいてほしい事があります」


 ここでアシュアは思い出したように口を開く。

 何故、ここに来たのかを。


 過去を正当化するつもりはない。

 見捨てた事は事実なのだから。


「だからこそ……僕はここに来ました」


 オリスが睨む。


「次は、次こそは……止められる側に立つために」


 言い負かすためでも、反論でも、ましてや冗談でもない。

 何も出来なかったあの時の自分への、せめてもの罰である。


 アシュアは、再び微笑んだ。

 いつもの張り付いたような表情。

 しかし、どこか悲しげで、少し寂しそうに。

 儚く散る命の煌めきを、幾度となく回顧しながら。




ーーーー



アシュアのキャライメージです。

挿絵(By みてみん)



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