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YES ORE NO ~ 煌めく世界の選びかた ~  作者: 菊ノ
第一章 
13/13

第13話 戦闘

 夜は、街の外からやって来た。


 灯りの届かない一帯で、鉱獣は姿を現す。

 闇の中、鈍く反射する体表。

 石と肉が混ざったような不自然な質感。


 数は五、六。


「近づきすぎるな」


 エルトの声は低く、落ち着いている。


「まずは、動きを見る」


 アシュアは頷いた。


「マナについては……毎日やってるみたいだな」


 エルトは、アシュアの胸の辺りを見つめて言った。

 胸の奥で、何かがざわつく。


――マナを動かし続けろ。


 メイの声が、ふと蘇る。

 初めて現場に向かったあの日、メイから言われたことだった。


 理由は言われなかった。

 ただ、それだけ。


 それ以来、アシュアは意識していた。

 身体の奥に流れるマナ。

 熱とも冷えともつかない感覚。


「レンジャーの基本だ。マナを動かし続けろ」


 マナはレンジャーの力の源である。

 基本的には害であるが、マナによって肉体を活性化する事で、身体機能は飛躍的に向上する。


 扱えてるとは言えない。

 何とか知覚し、留まらないように流しているだけ。

 それでも、何もしないよりは確かに違った。


「来るぞ」


 鉱獣が、低く唸る。


 一体が地面を蹴り、突進してきた。


「横だ!」


 エルトの声と同時に、アシュアは身体を投げ出す。

 反応は遅い。

 だが、止まらない。


 地面を転がり、立ち上がる。


 手の中には、鉱具があった。


 宝打ち――

 鶴嘴のような形状のそれは、決して華奢ではない。

 重量があり、先端の鉱石が鈍く光る。


「……重い」


 だが、不思議と振り回されない。


 マナが、わずかに腕へ流れる。

 拙い。雑だ。

 それでも、力は乗った。


 鉱獣が、再び距離を詰める。


「今だ!」


 エルトが前に出る。

 無駄のない動き。

 マナを纏わせた一撃が、鉱獣の動きを止める。


 その隙に。


「アシュア、来い!」


 呼ばれる。


 逃げるためではない。

 踏み込め、という合図。


 アシュアは歯を食いしばり、前に出た。


 胸から全身へ、マナが流れる。

 手を伝い、やがて鉱具へとマナが伝達される。


 振り下ろす。


 先端が青く光る。


 鶴嘴の先端が、鉱獣の体表を打つ。

 火花、のような青い煌めきが弾ける。


 硬い。

 だが、通った。


 石を砕く感触が、手に伝わる。


「……っ!」


 衝撃が、腕を逆流する。

 内側が焼けるように熱い。


 これが、反動。


 だが、致命的ではない。


 鉱獣の身体が溶け出し、地表へと流れ出す。


「それに触れるなっ!」


 エルトから声が飛ぶ。


 瞬間、大地は鉱化した。

 アリンと共に現場に向かった時に現れた鉱獣も、地表を鉱化させていた。

 鉱獣の特性だろうかと、アシュアは思考する。


「離れろ!」


 アシュアは即座に後退した。

 判断は、まだ借り物だ。

 残りの鉱獣を、エルトが引き受ける。


 背負っていた槌の鉱具を取り出す。


『 失杭(しっくい) 』


 黒い光沢のある杭が数本、生成される。

 手に持った鉱具により、杭が地表へと打ち込まれる。


 一瞬、地表が固定される。

 止まった、という感覚だった。


「何だ……?」


 地表を侵食する鉱化が止まる。

 アリンとは違う、異質の力。


 エルトは直ぐに鉱獣へと切り返す。


 凄まじいスピード。

 加速から減速、停止までが流れるように行われる。


 そして今度は杭を、鉱獣に向かって打ち込んだ。


 ガンッ!


 鉱獣の関節部に杭が撃ち込まれると、動きが止まる。

 ガタガタと震え出し、鉱獣の身体が崩れ出しす。


(凄い……あれがエルトさんの、碑術?)


 残り数体。


 再びエルトが踏み出そうとした、その瞬間。


「待て!」


 後ろから怒声。

 振り返ると、そこにはダンテがいた。


「もう十分だ」


「……は!?」


 発言の意図が理解できず、エルトが食ってかかる。


「逃す理由がない!」


「あいつらは減らない。

 だから、逃げるなら放っておけばいい」


「だからいつまで経っても終わらないんだろ?」


 ダンテの顔が歪む。

 怒りが滲み出ている。


「勝手をするなと言ったはずだ

 俺の言うことを聞け」


 有無を言わさぬ圧。

 今後のことも考え、エルトは渋々折れた。




ーーー




 数分後、鉱獣は退いた。


 夜は、まだ終わらない。

 だが、ひとまずの静寂が戻る。


「……どうだ」


 エルトが振り返る。

 ダンテの采配に、やや不服そうだが言及はしない。


 アシュアは、息を整えながら答えた。


「……少し、動けました」


 誇張はない。

 だが、嘘でもない。


 エルトは小さく頷いた。


「それでいい。

 今日は、それ以上はいらない」


 アシュアは、手の中の鉱具を見つめた。

 

 重く、冷たい。

 だが、確かに――使えた。


 初めての戦闘。

 初めてのレンジャーとしての活動。


 この夜、アシュアは「無力ではない側」に、ほんの一歩だけ足を踏み入れていた。

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