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YES ORE NO ~ 煌めく世界の選びかた ~  作者: 菊ノ
第一章 
12/13

第12話 夜

――長引く現場


 街での扱いは、露骨だった。


「客間は満室だ。悪いな」


 ダンテは悪びれもせずに言い、そう言いながら振り返りもしない。

 案内されたのは、詰所の裏にある物置を改装したような部屋だった。


 埃の匂い。

 簡易寝台が二つ。

 窓は小さく、外の様子はほとんど見えない。


「……問題ありません」


 エルトはそう答えたが、声に感情は乗っていない。


 街の者たちも同じだった。

 挨拶は最低限で、感謝も形式的。

 視線はエルトよりも、ダンテの背中を追っている。


 ハーレクインは「助っ人」だ。

 だが、歓迎されてはいない。


「ひどい扱いですね」


 詰所を出た後、アシュアが小声で言った。


「想定内だ」


 エルトは歩きながら答える。


「常駐している現場ほど、外から来た人間を嫌う。

 自分たちのやり方があるからな」


 街の中心に近づくにつれ、人の数は増えた。

 だが、空気は軽くならない。


 話題は、夜の鉱獣。

 恐怖もあるだろうが、慣れた雑談として語られている節もある。


「また出るらしいな」

「昨日もいたぞ」

「でも、まぁ、いつも通りだ」


 鉱獣が減らない。

 それは、この街では“異常”ではなくなっていた。



 詰所の近く、仮の拠点は騒がしかった。

 まだ夜が来ていないのに、酒を酌み交わすレンジャー達の姿があった。


「そろそろ準備しますか?」

「いや、まだいいだろ〜」

「あっははは!別に危険な仕事でもないんだからよ」

「そろそろ女でも買いにいくかー?」


 仕事前だというのに、まるで緊張感がなく、空気は緩み切っていた。


「……おかしい」


 アシュアが、ぽつりと言った。


「まだ始まってもいない。

 依頼だって終わってないのに」


 エルトは、少しだけ足を緩めた。


「本来、こういう現場は嫌われる。

 長引くほど消耗する。

 危険も増えるし評価も落ちる」


 それは、レンジャーの常識だった。


「だが、ここは違う」


 詰所の中から、再び笑い声が聞こえた。


 ダンテの声。

 それに応じる、数人の部下たち。


 酒の匂い。

 気の抜けた空気。


「……なんだか、楽しそうですね」


 アシュアは、目を細めた。


「そう見えるな」


 エルトは否定しなかった。


 長引く現場。

 終わらない任務。

 減らない鉱獣。


 それなのに疲弊がない。

 焦りもない。


 まるで――この状態が、望まれているかのようだった。


 日が沈み始める。


 街の灯りが、一つ、また一つと点る。

 人々は家に戻り、通りは静かになる。


「夜だ」


 エルトが言った。

 二人は準備を整え、街の外れに向かう。


 その瞬間、遠くで金属が擦れるような音がした。


 低い唸り声。

 地面を引きずる重い足音。


「来るぞ」


 闇の中で、何かが動く。


 鉱獣だ。


 鈍く光る体表。

 不規則な動き。

 数は、一体ではない。


 アシュアは、喉の奥が冷えるのを感じた。


 これが、終わらない理由。

 そして――まだ誰も口にしない違和感の正体は、

この夜の先にある。


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