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二度目の侵入劇 第二難関

法律は何を守っているのだろう? そんなことを時折考えてしまうわけですが、弁護士等の法律関係の仕事をされている人々はどう思っているのでしょうか?

「何も考えていないだろうね。考えるだけ、思うだけ、無駄だ」

以上、またしても本編とは無関係なお友達からの特別ありがたくもないお話でした。



 少し前に命懸けで城下町を守る塀を登ってきたため、何となくだがコツはつかんでいた。

 城下町を守る塀よりかは凹凸が少なく登り辛いが、城下町を守る塀よりかは幾分か低く造られているので、登り終えるのにはさして時間はかからなかった。


 「―――――よし。誰もいない」


 裏庭は唯一、誰にも警備されていないことは、シキから聞かされていた。

 それも、俺が城の裏側を選んだ理由の一つだった。

 俺は慎重に塀を降り、無事に城内にへと侵入した。

 これで、俺は不法侵入の罪を二度犯したわけだ。


 「・・・・・・」

 (泣いている暇はないぞ、俺A)

 「そりゃそうだけどさ・・・・・・」


 泣きたくもなるわ、畜生が。

 裏庭から資料室に通じる扉をそっ――――と開き、素早く侵入した。

 資料室と裏庭を繋ぐこの扉が施錠せじょうされていないのは、これもやはりシキ曰く、昨日、お姫様がこの資料室を利用した際に鍵を壊してしまったらしい。

 別段、お姫様の力が強いだとかそういう意味ではなく、どうやら古くなっていたらしい。


 「古い、ね・・・・・・」


 たしかに、実家にある蔵の雰囲気やにおいと似ている。

 このにおいは少し苦手だ。

 蔵に閉じ込められたトラウマをもつ俺にとっては、居心地が悪い。

 それ故に、少し早足で資料室の奥にへと進み、今度は城の廊下に繋がる扉を発見した。


 (足音はしないな)


 耳を澄ませ、通行人がいないことを確認すると、扉の鍵を開錠し、なるべく音を立てないように扉を開いた。


 (うわあ、すっごいね)


 俺Cの目がきらきらしている。

 一番精神年齢が若い為か、こういった世界に酔いやすいのだろう。


 (急げよ、俺A。ここからが本番だ)

 (難易度がイージーから鬼になった感じだから、気をつけろよ)


 足音を立てないように、しかし遅くなりすぎないように。

 息を殺し、心臓の動きを落ち着かせる。

 平常心を保ち、冷静さを極める。 

 心頭滅却。

 明鏡止水。

 その状態を維持したまま、俺はお姫様の部屋に辿り着くよう、予め決めていたルートを沿って移動した。


 「――――おかしいな」


 移動中、ふと気付いた違和感。

 つい声に出してしまった。


 (何がだ?)

 (いや、確かに俺の計画通りと言うか、運任せで偶然的な部分も含めて全部が全部順調に進んでいるわけだが、ちょっとこれはおかしい)


 さっきから、人の気配をまるで感じない。

 午後九時を過ぎているからと言って、ここまで城の警備が甘くなっているのもだろうか?

 城の周りはそれなりの数、警備兵がついていたが、しかしこの城に侵入してから、人の気配はおろか、物音一つ聞こえなくなっている。


 (皆おやすみタイムなんじゃね? ここの兵士は午後九時に仕事が上がるのかもしれねえし)

 (いや、それなら城の周りに兵士を残しておく必要性が理解出来ない。城の周りと城の中、どちらを優先して守るべきかと問われれば、お姫様のいる城内に決まっている)

 (確かに、俺Aの言うとおりだな。多少偶然に任せた計画でもあったわけだが、これはどうも、偶然とは思えない。かと言って、シキが何かをしたわけでもなさそうだしな)

 (うーん・・・・・・もう少し観察してから結論を出してみたらどうかな?)

 (そうだな・・・・・・そうするか。どうせそうするしか道はないわけだし)


 緊急脳内会議終了。

 俺は警戒心や緊張感を解かないまま、お姫様のいる部屋にへと向かった。

 廊下を進み、階段を登り、曲がり角を曲がり。

 右折左折を繰り返し、そして誰かに遭遇することもなく、興ざめなことに呆気なく、お姫様の部屋の前にへと辿り着いた。


 「・・・・・・呆気なさ過ぎる」


 これでは、拍子抜けもいいところだ。

 ここまでの道程の中、城の周りで意識を奪わせて貰った三人の兵士を除いては、誰にも会っていない。


 (俺A、さっさと手紙を渡して、さっさと御飯にしよう!)


 俺Dが生き生きとそう言った。

 俺もさっさとこの試験を済ませて、あの家に戻りたい。

 コンコン――――と、俺は控え目に丁寧に、二度ノックをした。


 しかし、返事はない。


 もう一度、今度は少し強めに、ノックをしてみた。


 しかし、返事はない。


 部屋を間違えたのかもしれない――――否、頭の中に叩き込んだ地図を確認したが、ここが確かにお姫様の部屋であることは間違いない。

 それならば、もう寝てしまったとか?

 いや、確かに午後九時を回っているのだから、もうベッドに入っている可能性だって考えられる。

 しかし、この時間帯に手紙が来ることを予め知らされているはずのお姫様が、それを無視して眠っているなんて、考えにくい。

 ましてや、これは内緒の文通。

 誰にも明かしてはならない、秘密の手紙のやり取りなのだ。


 「どちら様ですかな?」


 背後から唐突に、声を掛けられた。

 敵意を向けられているわけでも、ましてや殺気が込められているわけでもない、純粋な疑問しか込められていない、そんな声だ。

 急いで焦って、声の方へと振り向いた。

 そこには、白髪をオールバックにした中老の男性が立っていた。

 執事服の胸ポケットには白いハンカチ。

 背筋は真っ直ぐ伸びており、髪の先から爪の先まで、正しい姿勢のお手本のようだ。


 「決して怪しい者ではありません」

 「既に十二分に怪しいですよ」


 執事らしき老人は、呆れた顔でそう言った。


 「まあ、おそらくはこの城の金目の物を狙って忍び込んできたのでしょう。しかし、今はこんなことに頭を使っている余裕はないので、そういうことにしておきましょう。泥棒であれ鼠であれ、今なら見なかったことにしてさしあげます」


 先程からこの男は、俺に対しての警戒心をまるで働かせていない。

 意識が他のことに集中してしまっている。

 挙句には、目の前の犯罪者を逃してしまおう、だなんて考えてしまっている。

 ――――やはり、何かありそうだ。


 「だから、早くこの城から去りなさい」

 「ふん。『早くこの城から去りなさい』ね。そんなことはどうでもいいんです。どうでも良くなった、と言うべきなのでしょうけど、まあそれもそれでどうでも良い。今はそれより、この城についてお聞きしたい」

 「それがどうかしましたか? できれば、早々に立ち去ってもらいたいのですが」

 「実は、俺はこの城のお姫様にある届け物をしにやってきたわけなのですが、生憎今日は留守のようで。まあ日を改めて渡せば良い話なんですけど、それだと俺はある人の期待を裏切ってしまうことになるわけなんですよ」

 「――――もしかして、シキ様からのお手紙ですか?」


 シキという名前に反応した。

 この執事はようやく、俺のほうに意識を向けた。


 「ふん。乙女と乙女の秘密の文通みたいなものだと思っていましたが、関係者はまだいたんですね」

 「ええ、この城内では私だけしか関係していませんけどね。お嬢様だけだと、いつしか他の者に秘密がばれてしまう可能性がありますから。しかし・・・・・・ほお、なるほど。つまり、貴方はこの城にわざわざ侵入して、その手紙を届けにきてくれたわけですか」

 「その通りです。シキが魔力とやらを使いきったおかげで、手紙を届ける為の魔法を使えなくなったようで、それでまあ、命を救われた身である俺が、シキの恩に報いるが為に、犯罪に手を出したわけです」

 「・・・・・・ハンカチどうぞ」

 「泣いてません・・・・・・」


 いつか本当に泣いてしまわないうちに、ハンカチを手に入れておく必要がありそうだ。


 「それで、お姫様は?」


 その質問を聞くと、執事は表情を曇らせた。

 そして頭を抱え、うーんと唸り始めた。

 どうやら、事情を話すべきか否か、検討中のようだ。


 「あの、一つだけお願いしても宜しいですかな?」


 数十秒後、ようやく執事は重い口を開いた。


 「シキ様にこの手紙を渡しておいて貰えませんか?」


 執事はそう言って、懐から白い封筒を取り出した。

 どうやら、すぐに事情を話すべきではないと考えたらしい。

 

 (ま、た、て、が、み、か)

 (また手紙だね)


 「帰りは私が案内しますので、裏側の塀を乗り越える必要はありません」


 どうやら、お見通しだったようだ。


 「――――いや、ちょっと展開が早すぎません? もう少しゆっくりペースだと助かるのですが。それに、一応俺は不法侵入者ですよ?」

 「シキ様も魔力を使い果たし、『転送』の魔法が使えなくなったときは、よく貴方のようにこの城に侵入してきたものですよ」


 まるで孫との思い出話を語るように、優しい表情でそう語った。

 つか、シキもやっぱり、不法侵入してたのか。


 「兎にも角にも、その手紙をシキ様にお届けして下さい。とても重要な手紙ですので、落とさないようにして下さいね」


 執事はそう言うと、「ついて来て下さい」と言って、これもまたお手本のような歩き方で、俺が利用した道程とは違った方向に向かって歩き始めた。

 俺は状況の整理と推測をしながら、執事の姿を見失わないようについて行った。

後書きとか書かずに、何もかかないことで相手の興味関心を得るという作戦をとってみることにした。

決して、面倒だからじゃありません。

決して、体調を崩したからでもありません。

決して、決して。

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