二度目の侵入劇 第一難関
天才と呼ばれる人間は何かしら変人奇人が多いらしいのですが、その人が『天才』でなかったらと思うと、ぞっとします。才能があるからこそその人の人格や主義が人々に肯定されているわけで、もしその人に才能やそれを開花させるだけの努力を継続する精神力がなければ、ただの奇人変人で終わるわけです。そう考えると、才能というのはやはり素晴らしいですね。簡単にとは言いませんが、それでも、人々に認められ、憧れられ、崇拝されるわけです。どんな奇人変人でも、どんな犯罪者でも。以上、本編とは無関係な、数年前に見た夢の一部でした。
天高く聳え立つ白き城の頂上付近に、ターゲットであるお姫様は今頃本を読んでいらっしゃるそうだ。
シキ曰く、どうやら現時刻午後九時から午後九時三十分の間は、お姫様が唯一心を憩うことが出来る時間らしい。
――――それにしても首が痛い。
先程から俺は、お姫様がいるだろう部屋のある場所を城の正門とは正反対に位置する場所――――警備の一番薄い城の裏側に息を潜めてながら見上げているのだが、何故城をここまで高く築き上げる必要があったのか疑問でしかない。
お金持ちはどうも広く高く大袈裟なものが好きなようだ。
しかし驚くほどに――――まるで建てられたばかりのような白さを誇る目の前の城に、僅かながら見蕩れていた。
――――否、これもおそらくは魔法か何かなのかもしれない。
結界だの魔方陣だの、そういった類の魔法があるのかもしれない。
「便利だな、ほんと」
警備をしている兵士には聞こえない程度よう、声量を控えてそう呟いた。
警備をしている兵士は三名。
やはり西洋風な甲冑に、身の丈ほどの槍を装備している。
しかし、槍は壁に立てかけ、兜も外してしまっている。
更に、あまりに暇なせいか、三人同士でぺちゃくちゃと雑談を交わしているようで、緊張感がまるでない。
職務放棄というわけではないだろうけど、あれでは仕事になっていない気がする。
「――――しかし、邪魔だな」
城を守る塀の付近には、身を隠せるような場所は無い。
今は大きな岩に身を隠しているが、その先からは身を隠せるような岩はおろか、木々さえ立っていない。
いくら辺りが暗いからと言って、不用意に近づけばすぐに気付かれるだろう。
さて、どうしよう?
現時点で思い浮かぶ策は二つ。
一つは、強行突破。
もう一つは、正門から突破。
東西方面から侵入する手もあるが、東西方面から侵入し、成功したとしても、その向こうには城を警備する兵士が待ち構えているらしい。
そう言えば、シキは城内の情報にやけに詳しいな。
もしかして、何度か侵入したことがあるんじゃないだろうか?
(いや、ないだろ)
俺Bが冷え切った言葉でそう断言した。
俺Bは俺の脳内の中では一番頼りに成るのだが、性格が冷静というか冷徹なため、言葉で人を傷つけることが度々ある。
(まあ、気にはなるよね)
俺Cはどうも楽観的というか子供というか、しかし一番話していて気が楽になる。
(城の食事ってさぞかし美味しいんだろーなー)
俺Dは三度の飯より好きなものがない、しかしたまに役に立つ。
以上、脳内会議役員のメンバーでした。
「って、今すべきことじゃないだろ」
自分でつっこみを入れてはみたが、やはり一人漫才はつまらない。
さて、閑話休題。
正門から突破するにしても、やはり門番が待ち構えているわけで、通るわけには行かない。
やはり、シキに頼んで何らかのアイテムを貰っておくべきだったかもしれないが、それだと俺自身を試す意味がない。
はたして、何を試し、何を確かめたいのかは分からないが、それでもこれは、俺自身の実力と運で遂行しなければいけない。
俺は手紙の入ったポケットとは違うポケットを探り、何か使えないものが偶然的に入っていないかを確かめた。
当然何もないはず――――あれ?
「・・・・・・ふん。なるほどね」
眠っている間に、シキが予めポケットに忍ばせてくれたものだろう。
サンタクロースな気分で忍ばせてくれたのだろうけど、あんた以外にそんなことをしてくれる人間がいない以上、その正体を気付けないわけがない。
――――余計、シキの期待を裏切るわけにはいかなくなったな。
「いきなり切り札を使うってのも勿体無いが・・・・・・まあ、仕方ないか」
何せ、タイムリミットは三十分。
城内は無駄に広い為、迅速にお姫様の部屋にへと辿り着かなければならない。
「――――よし」
覚悟した。
十二分に覚悟した。
東西を警備している兵士達に比べて、裏側を警備している兵士達は気が抜けている。
あれでは、突然の強襲に対応することはおろか、備えることさえ出来ないだろう。
槍も手放しているし、兜も外してしまっている。
そして何より、この暗闇。
――――条件は十分に揃っている。
後は、ミスをしないだけだ。
深呼吸を二回し、心を落ち着かせる。
息を殺し、ただあの三人を不意打ちという手段で、願わくば一瞬で、片を付ける。
物陰から勢いよく飛び出し、兵士の後に回りこむ。
スピードには自信がある為、兵士の下に辿り着くのには大した時間を必要としなかった。
それに、この世界に来てから、幾分か速くなった気がする。
流石に兵士も何か気配を察知したのか、辺りをきょろきょろと見渡す兵士もいたが、その時にはもう、俺は兵士の後に回りこんでいた。
まさか、学校中で大流行となった『背後に回りこんで足かっくん』がここで活きるとは・・・・・・
そして振り向かれる前に、後頭部にシキからの贈り物である『お札』を貼り付けた。
俺の推測が正しければ、このお札にはシキの魔法がかけられている。
魔方陣やこの世界の文字らしきものが複雑にかかれているため、おそらくはそうなのだろう。
使用された紙があのメモ帳らしき本の一頁と似ているため、またシキの書く文字と形が何となく似ているため、シキが作った可能性が高いと考えた。
何とかかれているのかは分からないが、おそらくはこのお札を使って城内への侵入に役立てて欲しいと願って作ってくれたのだろうけど――――
『あたしの魔法は意識こそ奪っちゃうけど、それでも効果はあるのよ』
このお札の効力は何であれ、このお札に魔法がかけられている以上、使用者の意識を奪ってしまうはずだ。
それならば、それを武器として利用するのが一番だろう。
「貴様、何も・・・・・・」
最後の一人はそう言って、意識を失った。
三人の後頭部にお札を貼り付け、魔法の効果を付与すると同時に、意識を奪った。
正直、いろいろとギャンブルだったわけだが、何はともあれ、成功したようだ。
もしこれがシキの作ったものでなく、挙句には身体能力を上昇させるような魔法だったらと思うと、ぞっとする。
しかしこれで、三十分はおろか、一、二時間は起きてはこないはずだ。
「第一の難関、突破!」
シキの手は借りないようなことを言っておいて、結局手が詰まったのでそれに頼ってしまった少年の第一難関突破劇でした。まったく、シキの気遣いがなければどうしていたのか少し気になるところですが、まあ少年なら何とかしてくれていたことでしょう。何せ、ご都合主義の神様から愛されているわけですから。まあ、二度目の犯罪に手を出した主人公を飽きることなく愛してくれる神様なんて、存在するんでしょうかね?さて、そろそろ後書きらしく書くことにします。次話を少しでも気にしてもらえるように、ちょっと下手な予告を書いてみます。第一難関をシキの魔法の副作用みたいなものを利用して突破した京終を待ち受けている第二の難関とは何と――――!?次話、『二度目の侵入劇 第二難関』、乞うご期待!そして、こんな頭のおかしい作家が書いた小説をお気に入り登録してくれた読者様、そしてそして、この小説を読み続けて下さっている読者の皆様、感謝感激雨霰です!この下げた頭は一生上げません! ――――すみません、それは無理でした!