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一難去ってまた一難

『何もしないで後悔する』のと『何かをして後悔する』のでは、圧倒的に何かをして後悔する方を選択する人間が多いわけなのですが、それが『人を殺して後悔する』のと『人を殺さないで後悔する』の二択だったら、人々はどちらを選ぶのでしょうね。

以上、本編とは無関係な友人からのおはがきでしたー。

 物陰にか隠れながら、少年は目の前の城下町の有様に絶句した。

 城下町を取り囲む壁――――言うなれば塀だろうそれを登っていくには、ロッククライミングの経験が必要かと思われる。

 それ故に、城下町唯一の入口――――正門を潜らなければならないのだが、門のすぐ近くには門番らしき二人の人物が立っている。

 両者互いに槍を持っており、これまた西洋風な鎧を身に纏っている。


 「・・・・・・どないせえいうんじゃい!」


 少年は成れない言葉遣いで、門番には聞こえないようつっこんでみた。

 不満の一つや二つを吐いておかなければ、精神がもたない。

 この城下町に入るためにはどうやら、あの正門を堂々と潜る必要があるらしい――――つまるところ、最低でもあの門番と会話を交えなければならない。


 「言語はどうやら、日本語じゃなさそうだし・・・・・・」


 まず少年が一番に絶望した現実が、言語の壁だ。

 先程、目の前の門を通過した人間との会話のやり取りを立ち聞きしていたところ、彼らが使っていた言語が日本語でも、ましてや英語でもないことを知った。

 これでは、容易に堂々と城下町に入ることは出来ない。

 

 ――――否、術はある。


 「侵入、か・・・・・・つまるところ、不法侵入になるわけだよな」


 他人が所有する土地に侵入すれば、犯罪になるのは日本の常識。

 しかし、この世界では許される行為なのかもしれない。

 ――――否、それは有り得ないだろう。

 門番が存在する――――つまり、城下町を武力と権力で守護する人間がいる意味を考えれば、それが有り得ないことに気付くのは、混乱状態の少年の脳でも容易い。


 「まあ、この世界でも同様だろうな」


 乗り気ではないが、やるしかない。

 それは余りにもリスクが高く、一度でも見つかれば、あの槍で刺し貫かれる可能性がある。

 たとえ槍で刺し貫かれなかったとしても、そのまま警察のような役職の方々に捕まり、牢屋か何かにぶち込まれるかもしれない。


 「――――かと言って、このままうだうだしているわけにもいかないか」


 少年は踏ん切りをつけ、辺りを見渡す。

 しかし――――


 「やっぱこれは高いって・・・・・・」


 少年の身長は百六十弱。

 中学生の平均身長程度。

 しかし、目の前に聳える城下町を守る壁は、数十メートル。

 ぎりぎりだが、足を引っ掛けられるような凹凸はある。


 「木登りとか苦手なんだけどね」


 否、先程も言ったとおり、これは専門的知識を備えた経験者でもない限り、命綱無しは危険だろう。

 しかし少年は躊躇わず、外壁の窪みに手と足を引っ掛け、慎重に登り始めた。

 少しでも気を抜けば、落下する。

 落下すれば、その落下音に門番が反応し、こちらにやって来る可能性がある。

 さらには、見回りかなにかで見つかる可能性もある。

 挙句には、死ぬ可能性だってある。

 

 「確実に迅速に丁寧に慎重に――――そして何より冷静に、か」


 少年は唾を飲み、手と足を動かす。

 心臓の動きが段々と速くなっていくのが嫌でも分かってしまう。

 冷静さを保つ為に、一度手を動かしては息を吸い、そして足を動かしては息を吐く。

 何度も何度も、それを繰り返す。

 時間が長く感じる。

 死と隣り合わせな分、緊張感も増していく。

 一歩間違えれば死。

 一度間違えれば死。

 一秒躊躇すれば死。


 「・・・・・・ふう」 


 それを出来るだけ短時間で繰り返し、そしてとうとう、外壁の天辺にへと手をかけた。

 安堵の溜息がつい出てしまったが、すぐにまた気を引き締めた。

 普段ならこれだけで喜びに浸り、頬が緩んでしまっていただろう。

 そして、集中力が途切れ、そこで終わってしまう。

 しかし少年は、天辺に手をかけても尚、頬を緩ませることなく、最後まで登りつめた。

 ここで休憩をしている隙に見つかってしまう恐れがあったので、少年は素早く降りる作業にへと移行した。

 飛び降りてしまえば、怪我をする恐れと、先程も言ったとおり、着地したときに大音が生じる恐れがある。

 少年はいつになく真剣に、いつもより冷静に、城下町を守る壁をゆっくりと降りていった。


 「――――ふう」


 少年を苛んでいた緊張感が解れ、少年は力なくその場に座り込んでしまった。

 いつもなら達成感なり充実感なり、それなりの感動を感じているはずなのだが、命がけにも等しい行為だったためか、喉が渇いた、と思うだけだった。

 しかし、唯一運任せだった『この外壁の向こうに誰かがいる可能性』がはずれてくれたおかげで、降りる作業には幾分か集中して取り組むことが出来た。

 

 「・・・・・・」


 暫く休憩しようと外壁にもたれ掛かった瞬間、少年の表情が青褪めていった。

 幽霊を見たとか妖怪を見たとか、その類の非日常な存在には、もう驚かない。

 むしろ、少年はそれぐらい出てきそうだとは覚悟していた。

 しかし、ここで少年は、もっとも出会いたくない存在と出会ってしまった。

 少年の目の前に、ぽかんと小さな口を開けた少女が立っていたのだ。

 

 (まずい、これはものすごくまずい)


 壁を登っていたときとは少し違った汗が流れる。

 やっと落ち着いた心臓の動きも、また速くなっていった。

 少年は今すぐ逃げ出そうと目論んだが、逃げ出さなかった。


 (いや・・・・・・逃げ出せないとか逃げられないとか、そういう問題じゃない)


 体が動かない。

 手足が痺れた時と同じ感覚が、少年を襲った。

 

 (何で、痺れているんだ?)


 何が起こっているのか、少年には理解出来ない。

 ただ、目の前の少女の表情が、まるで犯罪者を目の前にしたようなときの表情に変わったことだけ、少年には理解できた。


 『事態とか成行とかあたしには分かんないけど、とりあえずあんたを城に連れて行くべきだなあって思ったから、このまま城にへと連れて行くわ』


 淡い金色の髪を風に靡かせた小柄な少女が、メモ帳サイズの本を片手にそう言った。

 随分と綺麗な少女だなあ、と余裕があれば思っていたかもしれない。

 しかし、少年にはそんな心の余裕がまるでなかった。


 (やばい・・・・・・事態とか成行とか俺には分からないけど、とりあえず俺をどこかに連れて行くべきだろうと思い、このまま連れて行かれそうな感じだ)


 少年は立ち上がろうとするが、体が痺れているため、自由に四肢を動かすことが出来ない。


 『抵抗しても無駄よ』


 起伏に乏しい胸を堂々と張って、勝ち誇ったかのような笑みを浮かべて、少女はそう言った。


 「あ、今『抵抗しても無駄よ』みたいな表情しやがった! こんなガキに蔑んだ目で見られた!」


 少年は自分より年下だろう人間に見下されるのが、嫌いだった。


 『・・・・・・なんか今、「ガキ」って言われた気がするわ。てか、さっきからこの男の子は何を言っているのかしら? もしかして、他国の人かしら? ああ、それなら合点がいくわ。格好も何だか軽装で、この国じゃ見ないような服を着ているし、瞳の色も髪の色も、やっぱこの国じゃ見ない色だし。黒色って随分珍しいわね・・・・・・』


 少女はそう呟くと、片手に持ったメモ帳サイズの本の頁を開き、少年の額に掌を当てた。

 当然、少年は必死に抵抗しようとするが、体が自由に動かないので、なすがままにされるしかない。


 「何かよく分からないけど、すっごく嫌な予感がする」


 尋常ではない量の冷や汗が流れる。

 そのせいか、着用しているティーシャツの着心地が悪い。

 挙句には、寒気がする。

 少女が何を言っているかは分からないが、ただ、このままでは自分は何か悪い方向に巻き込まれていくような、そんな危機を感じていた。


 『えっと・・・・・・ああ、これだ。いやー、まさか今日の授業で習った魔法をいきなり使うことになるなんて、思いもしなかったわ。まあ、五時限目ということもあって、うとうとしながら授業を受けていたわけだけど、まあ大丈夫でしょう。根拠とか証拠とかあるわけじゃないけど、今日の正座占いは五位くらいだったし、成功して終わるわよ、きっと』


 少女は澄んだ声ではっきりと、本に書かれた通りの呪文を唱えた。


 そして間も無く、少年は意識を失った。

続いて友人からの――――否、止めておきましょう。

前書きでそれなりに遊んだので、せめて後書きでは真面目にやりましょう。

二話目に突入して、少年はいきなり命を懸けているわけですが、無茶苦茶してくれますよね。ほんと、無茶苦茶です。数十メートルはある壁を、経験も知識もない少年が命綱なしで登るだなんて・・・・・・

相当、追い詰められているわけですね、分かってください。

経験はなけれど、逆境では強くなるタイプです、分かってください。

はい、以上、ご都合主義が大好きな私からの言い訳でしたー。

誤字脱字、その他エトセトラと気になる箇所がありましたら、お手数ですがご報告お願いします。

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