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ドラ探シリーズ

猫魔族喫茶店に訪れる珍客

作者: 元毛玉

 ここは二足歩行で喋る猫魔族たち(ケットシーのような存在)が営む喫茶店。

 店長のガシマは、今日も珈琲の普及に尽力する。

 ガシマはタレ耳のスコティッシュフォールドで、眠そうな瞼が印象的な猫魔族。

 けれど本人曰く、「生まれつきなだけで眠い訳では無いのニャ~」とのことだ。

 そんなガシマが切り盛りする喫茶店のとある一日。



「いらっしゃいませニャ~」


 ここは猫魔族たちが営業する喫茶店。

 身長100cm前後の二足歩行で喋る猫の猫魔族たち。

 とても知性が高く、人族との関係も良好だ。

 時間はランチタイム過ぎ。されどランチ難民に陥った客たちが喫茶店にはやってくるので、最後の踏ん張りどころ。


「店長! ナポリタンセット三つ! 小豆バタートーストセット二つ! ガトースペシャル二つニャン!」

「了解ニャ~」


 店長のガシマには夢がある。

 この世界ではまだ珈琲が市民権を得たとは言い難く、紅茶を始めとした他の飲み物の方が人気だ。

 異世界から来訪した老夫婦に教えてもらった珈琲。

 芳醇な味と香りに感動したガシマは、珈琲の素晴らしさを普及することが使命だと感じていた。


「まだまだ道は険しいニャ~」


 珈琲を単品で頼む客は圧倒的に少なく、採算度外視したサービス価格のセットメニューでしか出ていない。


「アマミ氏、今の客が捌けたら休憩入るニャ~」

「了解ニャン! 賄いは好きに作って良いニャン?」

「任せるニャ~」


 許可が出たことで尻尾をご機嫌にフリフリさせたアマミが、残りの客の接客を行っている。

 他の店員スタッフも順次休憩に入り、少し人口密度が減った店内。

 内装は、黒を基調とした落ち着いた雰囲気で、ダークオレンジやダークブラウンなどの暖色系で纏めている。テーブルも椅子も木材の優しい感じで統一。

 店内の様子に引きずられて、客の態度も穏やかな人が多い。勿論、例外はいるが、今も店員リーダーのアマミと残る一人のお客さんの心温まるやり取りが行われていた。

 接客を横目に見ながらガシマは眠そうな目を細め、普段から垂れている耳もさらに萎ませる。


「またゼロだったニャ~」


 売り上げは順調。だけど珈琲単品の注文数は0件。

 飲み物単品が出ない訳ではない。紅茶各種は満遍なく出るし、煎茶も人気だ。クリームソーダをヘビロテする客もいる。

 文化が違うと言えばそれまでだが、どうも色がダメらしい。一応、カフェラテも用意はしているが、ガシマの中ではノーカウント扱い。今日を含め、半年間は0件だった。

 ちょうど小さく溜め息をついたところに、来店を表すドアのベルが鳴る。


「ガシマ氏、まだOKにゃ? 後から一人くるのにゃ」

「ニャ~、料理無しでも良ければニャ~」


 友人のカルカンが訪ねてきた。猫魔族の毛の中でも長い方のカルカンは、ふっさふさなブルーの毛を揺らしつつ、いつもの席に着く。


「とりあえず生にゃ!」

「……ご注文はなんニャ~?」

「聞こえなかったのかにゃ? 生ビールなのにゃ!」


 アフター5でもないのに飲もうとするカルカン。

 居酒屋が開店するまでの繋ぎとでも認識しているのか、カルカンがこの店でお酒以外を頼んだことはない。

 ガシマは尻尾を項垂れさせたのち、本日の樽生をサーブしていく。

 今日はペールモルトが多めのアンバーエール。ホップはザーツ、ストラタ、アマリロ。

 サーブ温度は9℃、グラスの温度は13℃でチューリップタイプを選んだ。

 モルトとホップの香りを堪能して欲しいし、時間をかけてゆっくり飲むと次第に香りが変化していくのも味わって欲しい。

 仄かにアマリロのマスカット臭が漂う泡を切り、形を整える。完成だ。

 サーブの出来にガシマは眠そうな目をさらに細め、口元を少し緩めてからグラスを運ぶ。


「お待たせしたニャ~」


 カルカンの尻尾が勢い良く立った。グラスをしげしげと見つめた後に半分ほど飲み干して一言。


「ぷは~旨いにゃ~。やっぱりビアバーで飲むビールは最高にゃ!」

「ここは喫茶店ニャ~」


 常連のビール好きたちから厳しく指導されて研鑽をつんだガシマは、国に四人しか居ないビアマイスターの一人なのだ。

 なお、珈琲を扱うのがガシマ一人しか居ないため、バリスタの国家資格は未だ無い。そのせいか、幾ら抗議をしても誰も喫茶店と認識してくれなかった。


「ところでカルカン氏。後からくるという人を待たなくて良かったニャ~?」

「にゃ?」


 ハイペースでビールを飲んで、既にほろ酔いの雰囲気を醸すカルカンが耳をピクピクと動かす。

 既にトロンとし始めた瞳をガシマへ向け、問題ないと力説を始める。


「一人だと警戒されるから、私はカモフラージュの飾りだと言っていたのにゃ」

「警戒? 何のことニャ?」


 僅かに首を傾げ、ドリンカー側からカルカンのカウンター席を覗き込むガシマ。

 カルカンはカウンターを肉球でバシバシと叩き、お代わりを所望している。


「お代わりよりも先に警戒の件を聞きたいニャ~」

「んにゃ? だってもうすぐ戦場になるから、先にお代わりを注文しておかないと困るのにゃ」


 ガシマは眠そうな目で数度瞬きをする。


「戦場? どこがニャ~?」

「だからここなのにゃ。ここ(・・)にゃ!」


 据わった目でガシマを睨みながら、カウンターテーブルを右手の爪で指し示すカルカン。

 やや困惑するガシマの耳が微細な音を捉えた。


 非日常はやってきた。

 喫茶店入口のドアに備え付けられているベルが鳴らないよう、そーっと開く人影。

 ピンク色の髪が隙間から店内に差し込んだとき、ガシマの全身を電流が駆け抜け、全ての毛が逆立った。

 普段眠そうに半分閉じているガシマの瞼も1割り増しで開いている。

 そしてガシマとヤツの目があった。


「総員! 第一級臨戦態勢ニャ~! ヤツが来たニャ! 非戦闘員は逃走ルートを確保するニャ~!」

「ニャ⁉️」

「ニャんですとーー? ニャーーー‼️」


 ヤツの登場に店員は阿鼻叫喚。混乱の坩堝に陥る。

 それもそのはず、ようやく居なくなって平穏が訪れたというのに、予想外の襲来は猫魔族たちを恐怖の谷底へと突き落とした。

 戦闘員たちは銃を片手に応援へ駆けつけている。


「店長!」

「なるべく発砲は無しニャ~。店内を壊したくないニャ~」


 やり取りの間にも、ヤツは完全な入店を果たす。

 久しぶりに対峙して思う。この圧倒的なプレッシャー。

 敵を招き入れたトロイの木馬でもあるカルカンは、のほほんと空きグラスを舐めて「お代わりまだかにゃ?」と寝言をほざいている。

 戯言を苦々しく思う暇もなく、次々と店員スタッフたちが各自の持ち場でオペレーションにつき始めた。


「ヤツを目視で確認したのニャ!」

「BGMをジャズからエネミー襲来に切り替えるニャ!」


 持ち場についた猫魔族たちも歯をガチガチと打ち震わせ、全身の猫毛をバイブレーションさせている。

 全員が息を飲む中、敵の女は口を開いた。


「あら? 店長。私はお客さんとして来ているのよ? そんなに警戒をしなくても良いの。まずは珈琲を一杯頂けるかしら」


 ヤツの声に猫魔族たちは震えあがった。

 彼等はその恐怖を骨の髄まで染み込まされており、戦う気概を持つものなどいない。


「あばばば、ヤツなのニャー……これはオワタニャー……」

「皆、情けないニャン! 店長だけに戦わせるなんてそれでも猫魔族の戦士ニャン?」


 辛うじてアマミだけは戦意を保っている。

 数少ない友軍に勇気づけられ、ガシマは眠そうな目で心持ち鋭くヤツを睨みつけた。


「だから何度も言っているように、ピコラ氏は永久出禁なのニャ~」


 ピンク色のポニーテール。素早さタイプの格闘家のすらりとした筋肉質な手足。

 人族の女の名はピコラ。

 無類の猫魔族フェチであり、国に在籍していた頃は度重なるセクハラ行為やストーキング行為で、猫魔族たちに恐怖を刷り込んだ張本人。

 ピコラから消えないトラウマを刻まれた猫魔族は、およそ9割に上る。

 昨年、彼女が国外退去した後に職場復帰した者も多い。

 平和に浸かりきっていたのだ。

 この中で最強戦力である男がどちらにつくかは死活問題。ガシマは牽制の意味も兼ね、真意を問う。


「カルカン氏。どうして裏切ったニャ~? 同胞たちを売り飛ばして心が痛まないのかニャ~?」


 ビアグラスをひっくり返し、グラスの掻いた汗と残り雫を舐めていたカルカンが耳を垂れさせる。


「仕方無かったのにゃ……(しゃっきん)のことを持ち出されたら断り切れなかったのにゃ。でも、お店にお客として入るところまでの協力なのにゃー! だから普通に接客すれば良いのにゃ!」


 カルカンは借金を盾に脅されたようだ。どうやら開き直ったと思われるカルカンは、鼻歌交じりに尻尾を小さく振り始めた。

 カルカンがギャンブル依存症だった頃、ピコラが資金面で支え続けた過去があり、貸付金はどえらい事になっている。

 ガシマはカルカンを味方に引き込むことを諦め、警戒して耳を垂れさせながらピコラに近づく。


「こ、珈琲を飲んだら帰るニャ~?」


 そう語り掛けた刹那。ピコラが動いた。


「ニャ~~~!」

「「「店長ーーー!」」」

「店長がやられちゃったのニャン!」


 一瞬のうちにフルコースの攻撃が炸裂し、既にガシマは虫の息。

 攻撃を受ける様子に、猫魔族たちは心の底から震えていた。


「な、なんて鬼畜な攻撃なのニャ! あんなの理不尽過ぎるニャー!」

「店長があれほど簡単にフルコースコンボを決められちゃうなんて……ピコラ氏は恐ろしいニャン!」


 猫魔族たちが言っているフルコースとは、もふもふ愛撫から更にワシャワシャを繰り返したあげく、肉球プニプニからクンカクンカ、顔をうずめてのスーハーまで繋げていくピコラの得意技。

 猫魔族はトラウマを植えられ、羞恥のあまり失神する。

 今も尻尾穴の隙間に顔を埋め、女はスーハーを繰り返す。


「店長がお尻へのスーハーを決められたニャーー!」

「あんなの恥ずかしくて死ぬニャ!」


 ほとんどの猫魔族は戦意喪失し、完全撤退モード。

 そんな中、シャム猫のアマミだけが、逃げ惑う猫魔族たちとピコラの間に割って入った。


「店長亡き今! 私が代理店長ニャン! 店長、天国から見守ってて欲しいニャン!」

「……アマミ氏、オラはまだ生きてるニャ~……」

「あらあら、アマミ。また私に全身くまなく嗅がれたいの? いいわ。今日はヌードに剥いて撮影会までしてあげるから覚悟して」


 極度の猫好き女格闘家ピコラ。

 筆頭近衛兵で店員リーダーのアマミ。


 今、二人の死闘が始まる。



「それより、生のお代わり早く欲しいのにゃー、うぃっく」


 カルカンだけが、空気を読んでいなかった。

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― 新着の感想 ―
ちゃんとメニューに小倉バタートーストがあってよかったですw アマミ姐さんが店長の代理だと……本編でもろくなことになってなかった気が(ガシマにとってはですが)。 カルカンくんがここでもKYで面白かった…
この雰囲気懐かしいですね〜、カルカンはカルカンで安心しました!
 お邪魔しています。  元毛玉さまのホームを訪問してよかった! 新作だ! 楽しいですね、猫魔族の憂鬱とでもいうのでしょうか?でも、これは猫好きさんにとってはパラダイスかな?  目が合った瞬間「総員!…
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