表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/8

プロローグ

かつて、この世界に不便という言葉はなかった。


 火をつけるのも魔法。

 掃除をするのも魔法。

 遠くの街までひとっ飛びの馬車も魔法。

 魔法があれば、夜は暖かく、皿は光るほどに磨かれ、道は平らで雨の日も濡れずに済んだ。

 子どもも老人も、魔法を唱えるだけで快適な暮らしが約束されていた。


 しかし——全ては終わった。


 突如現れた大魔王。

 人々の命を奪い、街を呑み込む闇の化身を討つために、勇者は決断したのだ。

 この世界の魔法を、すべて封印すると。

 魔法の源を奪えば、大魔王もまた存在できないと——。


 そうして大魔王は倒れ、世界は救われた。

 勇者とその仲間は人々を絶望から救った真の英雄となる……はずだった。


 だが。


 人々が失ったのは、魔王よりも大切な、何よりも身近な『魔法のある暮らし』だった。


 火をつけるのに薪を割り、火打石で指を切り、皿を洗えば手が荒れ、重い荷物を担いで泥だらけの道を歩く。

 面倒で、時間がかかって、汗と涙と小さな怪我が絶えない。


 便利だったあの頃を思い出すたび、誰もが口にする。

 ——勇者が、すべてを奪った、と。


 世界は平和を取り戻したが、人々の心は荒んだ。

 賞賛されるはずの勇者は姿を隠し、その妹である少女は、今も村の隅で小さく背を丸めている。

 

 それでも、生きていくしかない。

 魔法のない明日を、生き抜いていくしかないのだ。


 これは、魔法を失った世界を生きる人々の、不便で、愛おしくて、少しだけ滑稽な物語。

 ——勇者さま、不便にしてくれてありがとう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ