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第25話  破壊者ではなく、証明者として

挿絵(By みてみん)


 あちこち破壊しながら何とかオリオン社のビル前に到着‥‥は、したんだけど、入口は閉まってる。立ち入り禁止のフォログラフィが大きく浮かんでて、これは建物の持ち主が主張してる事で、無理に超えていくのは罪になる。

 正面には結構な数の人だかり。それもそのはず、時々上の方から爆発音が響いてくる。

 窓が砕けたガラスが降ってくるので近づくのも危ない。それでも何事かと、野次馬が沸いて出るのは人の性というものかもね。

「‥‥‥‥」

 立ち入り禁止の半透明の光の奥の入口は閉じている。正面エントランスは無事なのは、カシワギさんはここを通過するまでは大人しかったという事。

 =遮蔽偽装、解除=

「‥‥え?」

 待って。

 左目にかぶさってる小さなディスプレイに、赤字で0が点滅した。

 そう言えば機知室の駐車場を出てからそろそろ30分が経つ頃‥‥私の意志には関係なく、私が着てる(乗ってる?)強化スーツはゆらゆらと姿を現す。

 “何だあれは!”

 誰かが私を指さして叫んでる。一応、顔は表に出てるので、ロボットと間違えられる事はないとは思う。

 “大型のドールか?”

「‥‥‥‥」

 予想を裏切って、そんな声が聞こえてきた。

 失礼な‥‥。

 私は黙って入口に向かって歩き出す。立ち入り禁止は映像なので、何のとっかかりもなく進んでいく。

 さすがに出入口は閉まってる。多分、ロックされているとは思うけど、指を隙間に入れて左右に開く。全く力は淹れてなかったけど、扉のフレームが歪んでた。

「‥‥‥‥」

 受付の周囲には人が倒れて呻いてる。

 それが点々と続いてる。

 こういうのを死屍累々って言うんだったかな‥‥。

 追いかける目印にはなるけど‥‥しかし‥‥。

 ほんとにこんなに大勢の人をなぎ倒して行ったんだろうか。

「‥‥‥カシワギさんは何処?」

 =オウライン‥‥位置不明=

「‥‥‥‥」

 そうだった。

 とにかく密売人の親玉は上にいる。つまり真上に真っ直ぐに行ければ、ショートカットが出来るハズ。

 奥にエレベーターがあったけど、ミットガルドだと大きすぎて入れないし、重量オーバー。

 そもそも非常時なんで止まってる。

 こんな時は‥‥どうする?

 一回、外に出て壁を登っていくか‥‥それとも‥‥。

 決まってる。

「‥‥うりゃあああ‥‥」

 棒読みの雄叫びをあげてエレベーターを壊した。ケーブルが切れた箱は地下まで落ちていった。ガラガッシャン!‥‥という音が下から響いてきた。

 建造物侵入と、器物破損‥‥その前に機密情報無断持ち出し‥‥今回も色々やっちゃってる。

「‥‥ま、いいか‥‥」

 つまりこれは上へと続く竪穴が出来たという事。

「質問! このミットガルトは、空を飛べる?」

 =出来ません=

「じゃあ、この竪穴を上に上がっていくにはどうしたらいい? 例えば、紐か何かを伸ばすとか」

 =ハーケンは届きません。壁面の突起に掴まりながら、上がっていくしかありません=

「‥‥って、言われても‥‥」

 絶対、途中で落ちるだろう。

 =上に登り切るまで自動モードに出来ます=

「あ、じゃあ、お願いします」

 =了解=

 ディスプレイに「オートモード」の表示。その後は‥‥ミットガルドが勝手にエレベーターの穴に突入。私はただ中にいるだけで、体はピクリとも動かせない。

 シャカシャカと物凄い勢いで両手両足を壁に突っ張らせて器用に登っていく。

 それが凄い勢いで‥‥。

「ぎゃああああああ」

 って、私は大声を出してる。それでも周りの人からすれば、表情を変えずに大声を上げてるから不気味に見えると思う。

 内心は焦りまくってるんだけどね。

 そんな感じで長い時間‥‥多分、五分ぐらい?‥‥でエレベーターの行ける一番上に到着。そこの階の扉は閉まってたけど、ミットガルドは勝手に蹴りで扉を粉砕。

 私はそのフロアに降り立った。

「‥‥‥‥は?」

 そこで見た光景‥‥。

 額から血を流して肩を押さえて立ってるカシワギさんと‥‥後ろ髪だけ長い、強面で痩せて背の高い男性。服装が独特で、上は立ち襟のロング丈の青い上着、白い縦ラインが目立ってる。下は青色のスラックスで足元は白いブーツふうの靴。手首には金のバングル‥‥どんな趣味してるの? 

「‥‥‥‥」

 それからまたしても床の上には死屍累々‥‥。

「お前かよ。まさかこんな所で会うとはな‥‥って言うかさ‥‥その格好、どういう趣味だよ」

 私を見たカシワギさんはそんな感じ。普段と同じように飄々としてる。

「私より、ひどい有様じゃないですか?」

「違いない」

 カシワギさんはフっと軽く笑った。

 そんな軽口言っても、そんな格好だと説得力がないんだけど。

「ユメ‥‥俺の目の前にいるそいつがカシウスだ」

 片目を瞑ったまま、青のロングコートの男を指さす。

「何かと思えば、また機知室ですか。完全に業務妨害です。損害賠償をさせていただきますよ」

 カシウスの声は淡々としている。

「それには及ばないさ。あんたは逮捕されて更生施設にぶちこまれるんだから」

「はっは‥‥」

 カシウスは低い声で笑った。

「そんな事件が起こった事は知っていますよ。ですが、そこに私が関与している証拠はないわけでしょう。中央AIもそういう判断だったはずです」

「だから、今までのうのうとこんな会社ごっこを続けられてきたってわけだ」

「何を喚こうが‥‥」

 カシウスは懐から何かを出した。

「見せびらかすのは勝手だが、捕まってもしらねぇぞ。銃刀法違反だからな」

「それは気にする必要は‥‥ない。お前は、ここで不法侵入者として消えるわけだからな」

 銃をカシワギさんに向けた。

「たかだか、いち公務員が私にたてつくとはな」

「おいおい、人間は皆、平等‥‥AI様もそう言ってるだろう?」

「平等? 馬鹿な事を言わないでもらいたいですね。私とあなたがたが同じなわけがないでしょう。私は努力して現在の地位になった。何をしても平等だと言うなら、何もせずにただ生きてるだけ‥‥そんなものは死んでるのと同じです」

「へぇ、いい話だったよ。でもな、あんたの哲学にゃ興味ない」

 カシワギさんは押さえていた腕から手を離して身構えた。

「俺はただ、俺なりのケジメをつけに来ただけさ」

 その言葉が終わった瞬間、カシウスに飛び掛かろうとしたけど、カシウスはカシワギさんに下ろしていた銃口を向けた。。

 =銃火器の所持と使用の意志を確認‥‥オートモードで制圧を開始します=

「‥‥‥‥は?」

 私の意志を全く無視して、私は(と、いうよりミットガルドが)二人の間に割って入る。銃声が響いて、私の胸元に当たった‥‥気がしたんだけど。

「‥‥ああ‥あれ?‥‥‥痛くない?」

 弾は正面に浮かんでる。弾はバチバチと電気のような稲光が走って下にポトっと落ちた。

 カシウスも?な顔をしてる。

 =AEGIS起動しました=

「なんだそれは!」

 カシウスが言ったんだけど、その言葉は私も言いたい。

 続けざまに何発も撃ってきたけど、弾は全部弾かれた。

 私は何もしてないけど‥‥。

「この!」

 カシウスは今度は大きな片刃の剣を持ちだした。

 銃刀法違反の、銃と刀の二つを違反してる。

 で、唯一表に出てる私の顔を狙ってきた。

「うが!」

 バチッ‥‥と、さっきと同じように電気で弾かれて、カシウスは吹き飛んだ。

 私は何もしてないけど。

 =確保します=

 ガシンガシンと金属音をたてて、ゆっくりとカシウスに近づいていく。

「くそ」

 痺れてる手を押さえて逃げていく。

「ユメ! 奴を逃がすな!」

「‥‥‥‥むう」

 と、言われても、私にはどうしようもない。

 カシウスは後ろの扉を開けると、そこは屋上。そう言えばここは最上階だった。

 一人乗りの小さなヘリが見える。

 ‥‥つまり、あれを使って逃げようとしている。

 そうはさせない。

「犯人逃走用のヘリを破壊して!」

 =了解。ZERO-LAG ELECTRIC URTRA WEAPON SYSTEM‥‥ZEUSを発射します=

「‥‥は?」

 何、その大仰な名前は?

 疑問符が頭の上に浮かんだ時には、私の腕は勝手にヘリに向けられた。

 そして腕の辺りから、曲がりくねった蛇のような雷光が放たれて、カシウスの頭の上を通り過ぎ、そしてヘリに命中した。

 青白い雷に包まれたヘリはすぐさま爆発した。

「ぐはっ!」

 ヘリの破片が辺りに飛び散る。ついでにカシウスも吹き飛ばされて、部屋の中に戻された。

 消火栓が自動で稼働して、辺りの火を消火していったので、火の海にはならずにすんだ。

 多分、外では大騒ぎになってるはず。

 今度こそ、終わったかもしれない。

 重要機密の無断使用。建造物侵入。器物破損。その他もろもろ‥‥。

 でも‥‥まあ、いいか。

「う‥‥‥‥ぐ‥‥」

 床に仰向けに倒れて呻いているカシウスに、カシワギさんは近づいていく。

「よお」

 それだけ言ってから、タバコを出して火をつけた。

「昔の事件を探る俺が邪魔だからって、銃持ち出すとはな」

 言いながら、軽く煙を吹きだす。

「‥‥で、それも刀も、ちゃんと違反ってわけだ。本来ならしょっぴく案件だけどな‥‥俺たち、そんな立場じゃないんだわ」

 カシワギさんは火のついてるタバコをポイと投げた。投げた先は、まだ自動消火器が消火中の所だけど。何だかなあ。

「俺なりのケジメはつけさせてもらうぜ」

 カシワギさんは大きく腕を振り上げ、思い切りカシウスを殴った。

「‥‥‥‥ぐ」

 頬に喰らった対象は、ぐったりと動かなくなった。

「‥‥殴るのが目的だったんですか?」

「甘いって言うなら、そうなんだろうな」

 カシワギさんは壁に寄りかかって、そのまま腰を下ろした。

「カナエなら‥‥もう十分と言ってくる‥‥あいつは‥‥そんな奴だ」

 音もなく倒れて気を失ったカシワギさんは、少し笑っていた。



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