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第23話  まだ終わっていない事件

挿絵(By みてみん)


「‥‥‥‥むう」


 いけない‥‥世界が回り始めた。普通に座ってるだけなのに左右の体のバランスが取れない。多分、今の私の顔は真っ赤で、酷い顔になってる。


「それにしても‥‥ユメ、随分飲んでるのに、ピクリとも顔色が変わらないな。実は本当にドールなんじゃないか?」


「‥‥は?」


 こんなに酔ってるのに、カシワギさんのその気だるそうで鋭い目は節穴か?


「‥‥ドールだったらそもそも飲めないのでは?」


「そうだな。俺もそう思うよ」


 飄々とした感じでそう言いながら、私の前にグラスを置いて、ゆっくりと中の茶色い液体を注いできた。


「‥‥いや、もう、これ以上は‥‥」


 うっぷ‥‥と、なったけど、途中で何とか阻止。


「何、言ってるんだ? そんなに強いなら、まだ平気だろ?」


「‥‥‥‥」


 これ以上はマズい‥‥と思ってはいたけど、なぜか反射的に手が伸びた。


 もはや、正常な思考が出来なくなってるのでは?


 ‥‥まだ大丈夫だとは思う。


「‥‥‥‥」


 私はグラスを一息で飲み干して、テーブルにドン!‥‥と、カラのグラスを置いた。


「お、良い飲みっぷり。店長! 例の酒を頼む」


 いつの間にか、新たなボトルが目の前に現れた。


 ラベルには古語の英語で書いてあるので、良く分からない。


 カシワギさんはまたグラスに注いだ。


「だから駄目だって!」


 私は大きく手を振った。その先にグラスがあるのは分かってたけど、もう止められない。


 あわや激突‥‥と思ったけど、その直前にカシワギさんはそのグラスをヒョいと持ち上げた。


「高いんだから、もったいない」


「‥‥‥‥」


 よくそんな高ポイントを使うものだ‥‥と思ったけど、カシワギさんがそんなにポイントを貯めておけるわけがない。


 じゃあ、この高いというお酒はどうしたのだろうか?


 だめだ‥‥頭が働かない。


 まったく‥‥。


「‥‥‥‥」


 いつも通りに飄々としてる。‥‥でも、何処か、落ち込んでいるような。


 そう見えるのは気のせいなんだろうか。


 もちろん、ずっと追ってた違法売人の逮捕許可が出なかった事は悔しい事かもしれないけど‥‥。


「カシワギさんは、カナエさんが好きだったんですか?」


「ぐふっ!」


 私がボソっとそう言うと、カシワギさんはむせそうになる。


「いきなりなんだよ、それ」


 口の回りを服の袖で拭ってる。


「だって、そうとしか思えないし‥‥。カナエさんがただの所有してるドールだと思ってるなら、そこまで一生懸命にはならない」


「もしかして‥‥酔ってるのか?」


「酔ってます!」


 私は正直だ。


「まったく‥‥」


 溜息をつきながら、飲みかけのグラスを置いた。


「好きか嫌いかで言えば、嫌いじゃなかった。そうでなければ一緒にはいられない。だがな‥‥」


「‥‥‥‥」


「人付き合いってのはさ、そんなに単純なもんじゃないんだよ。まして大人になっちまうと、なおさらな。俺もカナエもそんな事は一言も言った事はない。ただ‥‥信頼していた。互いにな」


「信頼‥‥」


「だから言っただろ? ケリをつけたかったって。好きだ嫌いだなんて、それはもう関係ないんだよ」


「‥‥‥‥」


カシワギさんの言ってる事は深いような、誤魔化されているような。


 信頼していたから‥‥ケリをつけたかった。


カナエさんの為に、彼女が暴走する原因となった違法売人を捕まえる‥‥それがカシワギさんにとって、彼女に対するケリ‥‥信頼していた証なのかもしれない。


私がもしその立場なら‥‥。


AIのお母さんは、私を‥‥多分信頼していると思う。私の方からも‥‥多分、信頼してる。もしお母さんに何かあったら‥‥。


「カシワギさん!」


「何だよ」


「‥‥‥‥」


 いきなり立ち上がったので頭がクラクラする。


「何でこんなとこで酒なんか飲んでるのよ!」


「ああ?」


「ケリをつけたいなら、迷う事なんて何もないじゃない!」


「‥‥‥‥」


「犯人の居場所が分かってるなら! 逮捕しに行けばいい! 許可なんか関係ない!」


「どうしちまったんだ?」


「どうもこうもしない!」


 私はカシワギさんの胸倉を掴んだ。


「そんなにケリをつけたいなら、行くべき! 私だったらそうする!」


「‥‥‥おいおい‥」


 手を払われた。


「逮捕状もなしで、企業ビルの中にどうやって踏み込むってんだ? チャイムを鳴らしても出て来るような奴じゃないぜ」


「それは‥‥カシワギさんが‥‥」


 う‥‥吐きそう。世界が揺れる。


「本気を出していないだけで‥‥本当は‥‥カナエさんの事を‥‥」


言ってる間に、お母さんとかぶってくる。他人ごとじゃない。だから私はもう止められない。


「‥‥‥‥その口は、もうちょい生きてから言いな」


「‥‥‥‥」


 揺れてた世界は床と天井が逆になった。


 そこから先は何も覚えていない。






気が付くと私はタクシーに乗せられてた。










「‥‥‥‥」


 薄っすらと目を開ける。まだ眠いけど。


 天井の模様は‥‥正方形の白いパネルが組み合わせたもの‥‥いつの間に、私の社宅の部屋、リフォームしたんだろう。


「‥‥‥‥んんん?」


 この天井の模様‥‥何処かで見た気がするんだけど、何処だったかな。


「⁈」


 機知室の天井だよ! そして寝てたのはソファーで、上にかけてあったのは青い布はブランケット。


「‥‥‥‥んぐ」


 頭が痛いし、ふらふらする。床が回転してる‥‥気がするし、更に吐き気も。


 気分が悪すぎる。


 もう二度と、アルコールは取るもんか。


「‥‥‥‥うう」


 他の人の机に寄りかかりながらも、何とか室長のデスクの前までたどりついた。 


「気分はどうだ、ツキシロ」


「‥‥最悪です」


 言ってから気が付いた。時間は午前四時‥‥はたから見れば日中、酒飲んで酔いつぶれただけで‥‥言い訳はできない。


 そう言えば‥‥。


「あの、カシワギさんは?」


「‥‥タクシーで送られてきたのはツキシロだけだったが。一緒じゃなかったのか?」


「いえ」


 どんな話をしてたか‥‥私‥‥何言ったかな。だんだん頭がはっきりとしてくる。


『犯人の居場所が分かってるなら! 逮捕しに行けばいい! 許可なんか関係ない!』


 思い出したら顔が青くなった。


「‥‥‥‥まさか」


 本当に逮捕しに行った? 一人で?


「もしかしたら、カシワギさんは一人でカシウスを捕まえに行ったのかもしれません」


「‥‥‥‥そうか」


「‥‥‥‥」


「‥‥‥‥」


「‥‥‥‥応援に行かないんですか?」


「機知室は中央AIの指示で行動する。それがない以上、動く事は出来ない」


「でも‥‥もし‥‥」


「もしカシワギが公序良俗に反する行為をした場合、警察が動く」


「‥‥‥‥」


「ツキシロはここで待機。時間になったら退社していい」


「‥‥‥‥はい」


 私は黙って席に戻っていく。


「そうだツキシロ」


「‥‥‥‥」


 室長に呼び止めれて振り向いた。


「‥‥アイザワが用事があるそうだ」


「‥‥‥‥」


『人付き合いってのはさ、そんなに単純なもんじゃないんだよ。まして大人になっちまうと、なおさらな』


 不意にカシワギさんの言葉が頭に浮かんできた。



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