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第十話  世界中を呪うAIとは

挿絵(By みてみん)


「回収したドールは、データ収集が終わるまでの期間は機能停止させているはずなのですが、どうして活動出来たのですか?」

 クジョウ先輩は、地区の回収センターについてから、そこの担当者に聞き取りを始めた。

私はと言えば、先輩と相手のやりとりを記入して(打ち込んで)いく。音声で録音すればいいんじゃないか‥‥とも思うけど、私が持ってる端末の記入画面には、要点チェックの項目が並んでて、そこに相手の答えを記入すると、機知室のAIに送信される。そこで分析された結果がこっちに送られて‥‥って、事を繰り返していくと概要が掴めていくっていう話。

知らない間に結論が出るから便利だっていう話なんだけど‥‥そう指示したクジョウ先輩は、そこまで信じていないような雰囲気。だったら、私がしてる行為は無駄なんじゃないだろうかと。

「はい、確かに停止させていました。搬入された際、電力は全て停止しましたので」

 担当者のおじさんは、困った顔で奥に部屋に顔を向ける。だから私もつられて顔を向けた。

 そこに広がってる光景は、多分、私が今まで生きてきた中で一番のインパクト。

 それまでは学校の体育館が広い建物だったけど、そこは、それ所じゃなくて、その三倍、四倍の広さがある。

 薄暗い部屋には窓とかなくて、壁からはたくさんの緑や赤の光がついたり消えたりしてるのが見える。そしてそこにあるのはたくさんの‥‥数えきれないぐらいの横倒しになった円柱状の筒。いくつあるのかパッと見だと全然分からないぐらい。あの銀色の鉄の中に、AIドールが入ってるらしいけど‥‥私には何だか棺桶にも見える。

「ここに収納していました」

 筒の蓋が上にぱっくりと開いてる。堅そうな枕だけがあって、中には誰もいない。脇のパネルには《59873Dの335》と表示されてる。その認識IDは先日のリオナちゃんのものだ。

「すると、電力が再供給されたという事になりますね」

「それが‥‥こちらで調べましたが、確かにドール一体分の起動力が使用されていました。もちろん! 職員が操作した記録はありません!」

「そうですか」

 クジョウ先輩は眉をひそめて、アゴに手を当てた。

「分かりました。後はこちらで調べます。テロリストの可能性もあります。当該施設はしば

らくの間、警戒を厳にしてください」

「は‥‥はい」

 職員の人は頭を下げると、すぐに持ち場へと戻っていった。

 人の気配がなくなると、機械の稼働音だけが辺りに響き渡ってる。

「テロリスト‥‥ですか?」

 考え込んでる先輩に、そっと聞いてみた。

 最近、事件が頻発しているみたい。

「現段階で断定はできませんが、その可能性もあるという事です。まずは、中央のAIで、この施設のオペーレーシュンログを精査してもらう事にしましょう。職員はああは言ってますが、人為的ミスという事もありえますし、もしかしたら、身内をかばってるかもしれません」

「‥‥‥‥」

「ともかく平常時の検査より深く探査すれば、何か出てくるでしょう。これが偶然か誘導されたか‥‥それをはっきりさせる事で、今後の対応が決まります」

「はい」

「それから‥‥」

「‥‥‥‥」




長い一日はようやく終わって、私が官舎に帰宅出来たのは、夜の九時過ぎ。玄関で靴を脱いで、そのまま寝室のベッドの上に制服のまま、顔を下にしてドサっと倒れ込む。

柔らかい感触が顔を包んだけど、いくらそんなに化粧をしてないとは言え(リックリームとかその程度‥‥前に化粧品専門のお店の人にやってもらったら、何だか不気味だった)、やっぱり布団に顔型が付くのは避けたい。

「‥‥疲れた」

 ‥‥と、呟いた瞬間にお腹が鳴った。

「このままでは‥‥」

 何とか起き上がって、のろのろって感じで冷蔵庫を開けた。

「‥‥ほう‥‥」

 見事に何もない。いや、あった所で、今から作る気力なんて全くないわけで。

 試しに、マヨネーズを手に取ってみる。

「むう‥‥」

このまま吸い出せば多少は空腹が紛れるかと思ったけど、そんな無謀な事はしない。予言じゃないけど、明日は仕事を欠勤してしまう事になる。

そう言えば今月のポイントが振り込まれていたはず。明日、時間があったら確認しに行こう。

諦めて、寝支度をする。まだ抵抗を続けるお腹を押さえ込む為に、勢いよく布団を上からかぶせた。

「‥‥‥‥」

 電気を消して目をつぶると、最後に見たリアナちゃんの顔が浮かんできた。

 テロリスト‥‥もしテロリストが彼女を脱走させたのだとしたら、目的は何?

 えっと‥‥分からないから目的は保留‥‥そもそも脱走って‥‥そんな事をしてどうなるものでもない事は、リオナさんも知ってると思うけどな。

 ドールは内部の貯蓄電力がなくなれば動けなくなるわけで、そう長く持つはずもないく‥‥それも考えての脱走だったら、短期勝負なんだろうか‥‥。

「‥‥‥むう‥」

 眠かったはずなのに、目が冴えて眠れない。このままでは明日、寝坊してしまうではないか。

「一意専心、眠ろうぞ!」


 その晩、私は一生懸命、眠りの世界のドアをこじ開けていた。





「‥‥お早うございます」

 次の日の朝、遅刻する事なく、スムーズに職場について、満面の笑み二倍(自分比)で挨拶する事に成功したのよ。

「‥‥な、何だ‥‥お前‥‥」

 私を見た隣の席のミナセさんの顔が引きつってる‥‥のかな? 

「そんな世界中を呪ってやるAIみたいな顔して」

「‥‥は?」

 私は真顔で聞き返した。

「‥‥世界中を呪うAIとは‥‥」

「全く‥‥」

 ミナセさんはバリバリと頭をかいた。頭がボサボサだから夕べは洗ってないのかもしれないけど‥‥

「‥‥む」

そこでハっとして気づく、私もそうだった。

「どうせ、くだらない事で夜更かしでもしてたんだろうが、大概にしとけよ。配布ポイントが減らされるならまだしも、マイナスになったら目も当てられんからな。そうなったら、AI指導の再教育を受けなきゃならなくなるからな」

「‥‥‥‥」

 ミナセさんの端末には、色んなAIドールが映ってるけど‥‥、全部、倒れてる。

 穏やかじゃない。

「酒臭いですね。あんな高ポイントを消費してまでお酒を入手するなんて理解できないんですが‥‥」

「ふん‥‥小娘には分からんのさ」

 私は反撃したつもりだったけど、ミナセさんは笑っただけだった。

“ツキシロさん“

 ドアが開いてクジョウ先輩が入ってきた。

 呼ばれたので、私はそそくさと走っていく。

「お早うございます」

「お早う」

 笑って返した先輩は小脇に紙の書類を抱えてる。

「‥‥あまり体調がすぐれないように見えますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

 私は目を見開いて笑ったけど。

「‥‥‥‥なら、良いのですが、無理はしないでください」

 何だか視線を外してきた。後で鏡を見て見よう。

「早速ですが、昨日の事件に対しての中央のAIの見解と、今後の対応方針が通達されてきました」

「早いですね」

「送られてきた内容からして、可及的速やかに対処しなければならないようですから、AIは優先的に処理したのでしょう」

「‥‥‥‥」 

渡された何枚かの書類を捲る。

ふむふむ‥‥と、最もらしい顔で見たけど‥‥そもそも見方が分からない。何で研修的なものがないんだろうか。

「‥‥‥‥ほう」

 私はその中の一枚をじっと見つめる。

 地図だったので、それなら分かるかもしれない‥‥と、ただそれだけだった。

「ドール、型式番号59873Dの335は、テロリストによる再起動と判断されました。彼らは反AIをスローガンにしてますから、何れはそのドールを使ってなにがしかの事件を起こすはずです」

「事件ですか?」

「ええ、彼らの常套手段は、そうやってAIの危険さを広めて、社会不安を煽る事ですから」

「彼女がそんな事に加担するでしょうか?」

「彼らが目をつけるドールは、言わば、現状に不満を持っているドールです。リオナさんの境遇はお世辞にも良かったとは思えませんからね。人間で言う、恨みのようなものはあったと思います」

「‥‥‥‥」

 最後に見た彼女の表情‥‥あれは、恨み‥‥だったのだろうか。

 先輩の言うように、そうだったとしてもおかしな事ではないけど‥‥。

「AIによる対処指示として、処理施設周辺の給電所の警戒があります。テロリストは慎重です。警戒中の区域で行動する事はしないと判断されました。稼働限界は五日ほど‥‥そうなると彼女自身が電力の補充をしなければなりません」

「はい」

「監視カメラの視認範囲は複数が稼働する事によって動く必要がないほど全面をカバーしています。なので、今回は見逃す事はありません。あとは、いつでも動けるように、警察に準備をしてもらうだけです」

「‥‥‥‥」

 多分、これで彼女を捕まえる事が出来ると思う。

 でも‥‥本当にこれで良いんだろうか。

 リオナさんが不幸だった事実は何も解決しなかったというのに。彼女のその気持ちにただ蓋をするだけで‥‥。

「‥‥‥‥」

 そんな事を考えながら、私は鏡に映った自分の顔を見て、笑って良いのか怒っていいのか分からなくなってた。


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